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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第423話 私もマザーに反抗しちゃお

 残り38時間16分――


『以上が、マザーと協議して定まった内容だ』

「レイモンド……」

「どうしたの?」

「最高じゃねーか!!」


 ベッドで横になるカイルは、マザーさんと『オフィサーナンバー』を含める5対5の決闘の説明を受けて、嬉々として笑った。


「『しびょー』ってヤツの事は良くわかんないけど……『おふさーなんばー』に勝てば何とかなるんだろ? なら、解決したも同然だな!」

『『オフィサーナンバー』の実力は侮れない。各々の持つ能力はこちらの想像(シミュレーション)を遥かに超える方向へ発展している』

「ボルックさんはホワイトさんに勝ったんですよね?」

『当時のホワイトはAIも機体(ボディ)もアップデート前であり、ワタシの能力に対して分析と対策が追いつかなかった。こちらも全てを出したワケではないが、辛勝と言わざる得ないだろう』


 監視の意味も含めてか、ボルックさんの身体は本来のモノではなく『アステス』側で用意された機体だ。

 マザーさんの事だから、決闘中に故意に動きに不利をもたらす事はしないだろうけど……


「つまり、全員強えーんだな?」


 本来なら悩む場面なのにカイルはずっと不敵に笑ってる。きっと、君の脳内では『オフィサーナンバー』の各々と戦う事を想定しているんだろうね。


「君は本当に考えることが少なそうで羨ましいよ」

「おう! ありがとな!」


 ニッ、と歯を見せて笑うカイルに少し毒気を抜かれるが、現時点での問題がいくつかある。


「ホワイト……いや、セル……ドレッドも……あのブラックって奴も強そう……レイモンド! 俺が全員とやるぜ!」

「馬鹿なことを言うのは止めなよ」

「だって勿体ないじゃん! こんな機会は二度とないって!」

『カイル、君は身体を十全に動かせる様にするべきだ』

「あ、そうなんだよなー。なんか、身体上手く動かなくてさ―」


 カイルは言葉こそバーサーカーであるが、身体は横たわったまま腕が動く程度だ。


『長期の『トランス』の影響で意識と肉体の剥離が起こっている。同調には専用のケアと時間を要する』

「決闘の開始は今から36時間後です」

『マザーが考慮したのだろう。準備が整わない検証では100%の結果は得られない』

「早く動くようにしてくれ!」

「専用のケアって、マッサージ的なやつですか?」

『本来なら『アステス』が用意する施術だが、そっちは頼れない』


 これから戦う相手をケアするのも変な話である。


「じゃあ、僕たちが付きっきりなるしかありませんか」

「動け俺の身体ー!」


 カイルを十全にするのは最低条件だ。上振れのカイルなら『オフィサーナンバー』の一体と対等以上に立ち回る事が出来るだろう。


『カイルのリハビリに関しては頼れる人物がいる。今後の事も踏まえて彼女の元へ行こう』

「誰のこと?」

「テラーさんですね」






 『ツリー』を出た僕はカイルを背負ってテラーさんの診療所へ走った。

 ドレッドさん程の速度は出ないけど、やっぱり自分の足で走る方が性に合ってる。


「おや、レイモンドさん。無事ってことはマザーとの話し合いは何とかなった――」


 挨拶しながら顔を見せるとテラーさんはボルックさんを見て、駆け寄ってくる。


「ボルックさん! よかった無事だったんだね!」

『権限が戻ったワケでは無い。条件付きの解放だ』

「それでも心配してたよー。そんで、レイモンドさんは――その背中の女の子は噂のカイルさんかな?」

「俺の事知ってるのか!? えっと……」

「テラー・ジル・トニーです。テラーって呼んでね」

「わかった! テラーの姉ちゃん! 俺はカイルって呼んでくれよな!」

「あらやだ! 可愛いー! カイルちゃんって人当たり良いでしょ?」

「ひとあたり? 俺はあんまり体当りはしないぜ!」

「ちょっとアホっぽいのも可愛いー」

「誰がアホだ!」

「テラーさん。後で事情を説明しますが、今はカイルを動くようにして欲しいんです」

『カイルの現状をデータで送る』


 カイルとテラーさんの話はずっと平行線になりそうだったので僕とボルックさんが話を進める。


「ふむ……『トランス』期間は4日とちょっと……か。とりあえず寝台に運んで」


 『サーチレンズ』でカイルの状態を確認したテラーさんは扉を開いて診療所へ招いてくれた。中に入ると緑豊かな室内にカイルは、おー! と興味深く声を上げる。

 僕はそのままカイルを寝台に寝かせた。


「カイルちゃん、ちょっと触診するよー、感覚があったら教えてねー」

「あはは。くすぐってぇ」


 テラーさんは身体の要所を指先で触りながらカイルの反応を見ていく。

 僕の『サーチレンズ』にもリアルタイムで情報が共有される。ボルックさんも同じ様に見ているハズだ。


「上半身は既に腕が動いてるから……うん、2日で元通り動ける様になるよ」

『戦闘訓練もしたい。12時間でやって欲しい』

「12時間? 急だね」

「『おふさーなんばー』と戦るんだ! 2日じゃ間に合わねぇ!」

「え? 私の聞き違いかなぁ……『オフィサーナンバー』と戦う……?」

「事情を説明します」


 僕はマザーさんとの協議に伴う結果をテラーさんにも伝えた。


「これはまた……随分と強引な解釈だね。35時間後に決闘とは……」

「『アステス』に足りないのは“原始的な感情”です。マザーさんと話して、彼女と『オフィサーナンバー』の方々にはそれが宿る可能性は十分にあると思います」

「まぁ、『アステス』ってずっと事務作業してる様なモノだからねぇ。状況に緩急が無いと、変化も起こらない……か。でも、マザー+『オフィサーナンバー』と戦う必要ある?」

「あるぜ! 強えーヤツだったら誰でも戦いたくなるだろ!?」

「カイルちゃんは考え方が独特だねー」

『固定された理論を覆すには、理屈に合わない道理を通す必要がある。その瞬間、1と0のマトリクスに“変数”が生まれる。それで『死病』を治療出来るだろう』


 テラーさんは改めて僕たちを見る。

 冗談は欠片も無い。『アステス』に挑むことに迷いがない僕たちの様子にテラーさんも理解した様に微笑んだ。


「そういう事なら私もマザーに反抗しちゃお。新しい風を『アステス』に吹かせてやろうぜい」

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