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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第414話 今のは“キュン”と来ましたか?

 眼は不思議とすっと覚めた。

 寝起きの気だるさや眠気などを全く感じないスッキリとした気分は、身体が完璧に休めた様に調子が良かった。


「おはようございます、レイモンド様。身体機能は97%の好調値ですね。程よく空腹ではありませんか?」


 僕が起きると同時にベッドの横に立つドレッドさんが声をかけてくる。


「……ずっと横に立ってたんですか?」

「ふふ。その様な非効率な事は致しません。レイモンド様の身体を分析し、覚醒する確立が今最も高かったのです」


 そう言ってドレッドさんはベッドの脇を歩くと、シャー、とカーテンを開ける。陽射しに目を細めながら僕もベッドから降りて靴を履いた。

 見ると靴も綺麗に磨かれており、新品のような履き心地だ。


「レイモンド様」


 すると、ドレッドさんは一つの眼鏡を手渡して来た。


「これはなんです?」

「『サーチレンズ』と呼ばれる検索端末です。リアルタイムタイムで情報を表示してくれます。音声承認により、知りたいことも検索できますよ」


 僕に合わせて作られたのか、サイズはピッタリだった。『サーチレンズ』越しにドレッドさんを見ると、ピピ、と円形の枠が彼女の顔を捉えて情報が表示される。


“『オフィサーナンバーII』セカンダリー・ドレッド。

 以下、情報制限により閲覧には『オフィサーナンバー』及び、『マザー』の許可を取ってください”


「『オフィサーナンバー』に関連する情報は機密扱いです。他、個人情報も当人の許可が求められますが、それ以外なら大概のことは検索できますよ」

「それじゃ……」


 僕はDr.テラーなる人物の事を検索する。


“Dr.テラー。本名テラー・ジル・トニー。『人族』。『セントラル』植物庭園の南方にある診療所に滞在。開業時間――”


 テラーさんに会うための最低限の情報が出てきた。


「便利ですね」

「レイモンド様は時間が限られている様なので、行動が潤滑になればと思います」

「……僕に対する監視機能もついてます?」

「もちろん付いてますよ♪」


 『アステス』国内の存在は誰であっても徹底して管理される様だ。組織としてはかなり理想な形だけど、常に監視されている事は少し窮屈に感じる。

 僕が自由度の高い『ターミナル』や『星の探索者』で過ごしていたからそう思うのかな。


「レイモンド様は『アステス』の問題と真剣に向き合ってくれる故に気苦労があると思いますが、この一件が終わりましたから是非、観光もなさってください」

「そんな状況になっていると良いですけどね」


 残り42時間43分――

 『サーチレンズ』の端に表示されているその時間の先の未来はまだ想像できない。

 けど、ここで歩みを止めるほど僕の両足は軟でもなかった。






「おはようございます、レイモンド」


 テラーさんの所に行く前に朝食を済ませて『ツリー』から出たところでマザーさんと付き人のホワイトさんと遭遇した。


「おはようございます、マザーさん」


 すると、マザーさんは僕をじっと見てくる。昨日の別れ方は少し無理やりだったので、少し気まずい……


「あの……」

「昨晩は良く休めた様ですね。『サーチレンズ』は問題なく機能しています」


 48時間後に答えを聞くと言ったからか、昨晩の話題をぶり返す様子はない。少しほっとする。

 すると急に、びし! と僕を指さし、表情も無表情からキリッと視線を向けて――


「――その眼鏡、か、カッコいいじゃないの! べ、別に褒めて無いんだからね!!」


 唐突なマザーさんの様子に僕は思わず無言。

 ホワイトさんも無反応で状況を見守り、ドレッドさんは相変わらずニコニコ。とりあえず、僕が確認する。


「……どうしたんです? 急に……」


 困惑と冷静を半々にそう言うと、スッ……とマザーさんは指を引くと元の無表情に戻る。


「レイモンド、今のは“キュン”と来ましたか?」

「いや……どっちかと言うと困惑が強いです……」


 マザーさんは、ふむ、と考えをまとめる様に顎に手を当てる。


「ワン、どうやらレイモンドに“つんでれ”なる属性は刺さらない様です」

『“ギャップ萌え”は未開拓のジャンルです。成功率が低いのは仕方ないかと。次の遭遇では“ドジっ子”を試してみましょう』

「……」

「時間を取らせてすみません。何かありましたら優遇させてもらいます」


 そう言ってマザーさんは脇を抜けて歩いていく。次のエンカウントだと、ドジっ子を披露されるのかなぁ……

 すると、マザーさんは立ち止まり、


「レイモンド、『サーチレンズ』は貴方にとても似合っていますよ」

「あ……ありがとうございます」


 後ろ目でふわっと微笑んで褒めてきたソレに少しキュンとした。

 無自覚なのか、狙ったのかは分からないけど……


「レイモンド様、こちらです」

「あ、はい」


 ニコニコするドレッドさんの声が少し遠くで聞こえて、慌てて振り返り向き直る。






 いつの間にかドレッドさんは、二つの車輪を持つ乗り物に跨ってヘルメットを抱えていた。え? ナニコレ……


“水力中型自動二輪車『WBK-87』。『Tタイプ』に支給される。水力機関を搭載し水陸両用”


「何か凄い乗り物です?」


 『サーチレンズ』が情報を表示するが説明に専門用語が多くてちょっとよくわかんない。


「『Tタイプ』に支給されている乗り物です。この頭のヘアバンドと識別IDを感知してロックが解除され走行する事が可能になります」


 ギリスの人達が使ってた“空挺”の地上タイプかな?


「移動に時間はかけられませんから」


 ドレッドさんはヘルメットを渡して来る。被る必要のある意図を受け取り、カポッと装着。少し大きめサイズだった。


「後ろに座り、腰を掴んでください」

「……えっと……じゃあ失礼します」


 『WBK-87』の後ろに跨がるとドレッドさんの腰に手を回す。


「もっと、抱きつく感じでお願いします。振り落とされますよ?」

「……はい」


 空挺をマスターが改良して、ギリスに引きを出す前に試運転した際に後ろに乗った時は運転者がボルックさんだったから気にならなかったけど、女性だと必然的にドキドキす――


「最速で行きます。唾は飲み込まないでくださいね」


 いつの間にか頭部がヘルメットで覆われているドレッドさんが告げる。


「鼓膜が破れますので」

「え? うっ――ぎ!?」


 一瞬で最高速になったのではないかと思わせる加速を持って僕とドレッドさんはテラーさんの診療所へ向かう。

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