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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第404話 愛を持ってして

「おはようございます、レイモンド様」

「……おはようございます」


 次に目を覚ました時には日は完全に落ちていた。

 前に起きた時はまだ昼間だったが相当に眠っていたらしい。

 ドレッドさんは僕が起きると同時に声を聞けてきたけど……ずっと起きるのを待ってたんだろうか……


「レイモンド様の身体機能から間もなく目覚めると判断したのです。身体情報は逐一確認しておりますので」


 そう言ってドレッドさんは糸目で微笑むと、僕に着けたギブスを外しに掛かる。

 見ると、手や足に機材が設置され繋がっている。どうやらこれで色々と監視されていたようだ。


「…………」


 ドレッドさんは距離が近くても息遣いを感じない。集中しても心音も聴こえない事からやはり、彼女も『機人』の様だ。それに微睡みの中で見た彼女の眼のナンバーは……


「外れました。もう少々お待ち下さい。手足の機器も外しますので。三日も眠って空腹でしょう? 食事を用意しておりますので」

「え……僕は三日も意識を?」

「正確には前に目覚めた時点で三日経っていました。あれから4時間28分で目覚められましたよ。蘇生処置は問題ありませんでしたが、意識の覚醒はどうしても運が絡みます。レイモンド様は三日で済んで良かった方です」


 蘇生処置……やはり、首を折られた事実は間違いない様だ。すると、ドレッドさんは僕の首にギブスの代わりに黒い金属の首輪をカチリとつけた。


「不快感があると想いますが『アステス』で自由に動き回る上で、『首輪(マーカー)』の着用は必要不可欠だと思っていてください」


 『首輪』……これは、ここに来てすぐにフォースさんからも着けられたモノだ。


「位置情報と身体状況を逐一確認する為のモノです。レイモンド様は蘇生したばかりなので」

「……ドレッドさん。一つ聞いても良いですか?」

「なんでしょう?」


 ドレッドさんは僕の手足の機器を外しながら会話に応じる。


「なぜ僕を生かすんです? 僕は『ツリー』を壊そうとしたんですよ?」


 僕が迷いなく殺されたのは、反抗以上に『ツリー』を狙った事が大きいと考えている。『ツリー』は『マザー』の住居であり、『アステス』の心臓部だ。

 未遂に終わったとは言え一度、殺した相手を蘇生するなど、合理的に状況を判断する『アステス』の特性を考えると不可解な動きだ。


「マザーの意思だからです。あの方が貴方を生かすように命令を下したのなら、私達はそれに従うまで」

「……マザーがもし間違っていたら?」

「ふふ。それはもっともあり得ない事ですよ。マザーはこの『フロンティア』の誰よりも正しい。その判断は疑うべきではありません」


 糸目を少し開けたドレッドさんの右眼に『II』の数字が見える。


「……ドレッドさんは『オフィサーナンバー』ですか?」

「質問は一つと言う約束です。それに私に聞くよりも、マザーへ直接尋ねられるがよろしいかと」

「会わせてくれるんですか?」

「もちろんです。マザーもレイモンド様が起きるのを待っていますよ」


 ニコ、と微笑むドレッドさんの表情は人工的に作られたモノにしては少し温かみを感じた。

 外からの情報が欲しいのかな? それか……『太陽の民』と『ナイトパレス』の戦争の話とか。

 もし、合理的に交渉が出来るなら、カイルとボルックさんの事を何とか出来るかもしれない。






「…………」


 元の服を渡されて着替えてから、ドレッドさんの後に続く。

 改めて僕が居る場所はどこか無機質な様子を感じた。

 通路は余計な凹凸がなく、照明なども壁や天井に埋め込まれている。特徴が無くて逆に迷ってしまいそうであるが、横を見ると首都『セントラル』を一望できる窓が壁となっていた。

 どうやらここは『ツリー』の内部らしい。夜になっても『セントラル』の街並みを浮かび上がらせる様な光は闇の危険性など感じさせない様だった。


「こちらです」


 そう言ってドレッドさんは行き止まりで振り返り、壁に手を翳した。すると壁は、ピシ……と縦に割れると、扉のようにゆっくり開く。


 月明かりが差し込み、扉の向こう側にはガラス張りの小さなテラスが設けられていた。そこに一人の女の子が座り、『白い機人』から出される紅茶を飲んでいた。


「――――」

「レイモンド様。お先にお入りください」

「あ、はい」


 正直に言うと、少しだけ見惚れた。

 『月の魔力』を意識する様になってから、僕に取って月と夜は特別なモノになってたし、それと完璧にマッチする女の子はミステリアスな空気を感じさせる。

 テラスに歩み入ると、ドレッドさんも入り、扉は壁に戻る。そして、


「レイモンド・スラッシュですね」


 彼女が僕を見ずに声を発する。それは、淡々としながらもどこか澄んでいて、言葉一つ一つが真理を感じさせた。この雰囲気を僕は知ってる……


「レイモンド様。席へ」

「あ、はい……」


 また惚けてしまった。回り込むと『白い機人』が着席を促すように椅子を引いてくれた。僕はお礼を言いつつ彼女の正面に座る。

 彼女は蒼い髪に、髪留めの様な機器をつけ、合わせてくる蒼い瞳はこちらの心まで覗くように透き通っていた。


「貴女は……何者ですか?」


 神秘。そう、僕が彼女から感じたのはマスターやガリアさん、アイン様と同じ……『創世の神秘』の雰囲気だったのだ。


「私の個体名は『マザー』です。ようこそ『永遠の国(アステス)』へ」


 カチャ……と手に持った紅茶を下ろす彼女は無機質に僕へ告げる。

 聞きたいことは沢山あると言うのに、会話をする事さえも憚られる様な雰囲気に中々言葉が出ない。


「レイモンド・スラッシュ」


 すると、マザーは淡々と話し出した。


「愛を持ってして、私に子供を授けてもらえないでしょうか?」

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はい?」


 思わずそんな言葉が出た瞬間、ぐー、と三日の空腹を満たすように僕の身体も発言した。

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