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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第400話記念外伝 ヤキュー17 信じていたから

「…………」


 4回表。未だにノーアウトでありながら、一番打者(ニーノ)に回る。

 彼女は面子の中で比べるなら比較的にスペックは低い方だ。それでも、彼女の事を良く知る者は誰もが一番を打たせるだろう。


「さてと」


 トーン――

 と、水面に一滴を落とした様な音がニーノを中心にプレイフィールドに広がる。


 『反響感知』


 ソレは『雷魔法』『広域検知』とは似て非なるモノだった。

 『広域検知』は物質の位置情報しか確認出来ない事に対し、『反響感知』による索敵は範囲内全ての“音”を知る事が可能となる。


 ふむ。3点を取られたにしては不自然なほど落ち着いているね。


 しかしニーノが使う『反響感知』はワケが違う。範囲に入る物は全て水中に落とされたに等しく、発生する音を事細かに掌握。全ての(情報)がニーノの認識下へと収まる。

 聴くのは守備陣の心音。それは最早見えるレベルで聴こえる程に精度が高く、経験則からその鼓動の速さで次の動きが解る。いくら動きを偽っても、動き出しに起こる骨や臓器の動きは誤魔化せない。

 この時点で守備陣の次の動きは丸裸も同然だった。しかし、例外が一人だけいる――


 ほぅ。【水面剣士】の噂は聞いているけれど……ファングが溺愛するわけだ。ベーオウルフ以来だよ。僕が聴こえないのは。


 クロエだけは音が反響してこない。音と水に精通する者として、ここまでの使い手に出会うのは久しぶりだった。

 しかし問題はない。読み取れない時の経験も十分にある。


 クロウはセットポジションから、身体を開いて大きく振りかぶり、腕を振り抜く。


「ボール」


 落差の大きいフォーク。いきなりの決め球を打者(ニーノ)は完璧に聴こえて(・・・・)いた。


「ふふ、甘いね。僕は音を聞き間違えないよ?」


 全部解る。

 何を投げるか。タイミング。コース。そして投手(クロウ)の気持ち――


「君はワクワクしているね!」


 高めのストレートをニーノは捉えると、キィン! とライナー状の当たりにて、二塁手(サリア)の頭上を抜く。


「さぁ、君達の音色は僕を止められるかな?」






 ニーノ・A・ペルギウス。

 オレはこの女が面倒だと思ってる。昔からウザったらしくマウントを取ってくるコイツは、逃げ回るだけしか出来ないザコだ。


 故にソレに特化しているのだ。


 弱者がきちんと弱者をしている。強者の中での弱者の立ち回りが分かってる。だから厄介なのだ。

 ニーノは目立ちたがり屋だが、欲しいのは名声などではない。

 多くの人を魅了する、その瞬間だけ輝く事に全神経を注いでいる。その為ならあらゆる手段を用いて“勝利”を手繰り寄せる。逃げるが勝ち、負けるが勝ち、を地で行くヤツなのだ。


『ニーノ選手、高めを捉え打った!! サリア選手の頭上を抜ける一打! 右中間に落ち、ローハン選手が追いつく!』


 だが……今回ばかりは負けて貰う!


 オレは『雷経路』にて打球の方向へ即座に回り込むとバウンドを読んでグローブを構え――


 トッ――


「――――」


 打球が弾まずに捕球し損ね、股下を抜けて行った。

 球の回転数を『音魔法』で助長しやがったか!?


『わかりやすい音だね、ローハン』

「テメッ」


 走りながらデフォルトで煽ってくんな!

 ニーノは一塁を蹴ってダイヤを回る。主審(ルシアン)が止める気配が無い所を見るに、イレギュラー扱いとして判断したのだろう。


 壁際に転がるボールは『雷経路』で追うと壁に激突する。身体強化で追うしかない。


『実に君達はわかりやすいよ』


 この瞬間、オレ達はニーノのステージ内に強制的に参加させられいる状態だ。走者にも関わらず、こちらの動きを誘導する様にニーノは動いている。

 挙動一つで相手の視線や思考を誘導する、マジシャンの基本テクニックでもある視線誘導(ミスディレクション)。ニーノが扱う視線誘導は本当に相手に認識させないレベルのモノだ。知らなければいつの間にか支配下に置かれている。

 無論、顔を合わせて即座に使えるワケじゃない。相手の性格や能力を知る時間が必要であり、癖の強い『星の探索者』を理解するには時間が必要だったのだろう。


 オレが捕球し、振り向いた時には走者(ニーノ)二塁(セカンド)を蹴って三塁(サード)に向かっていた。

 投げようとした時、ゴボッ、と水中に落とされたと錯覚するニーノの気配。『反響検知』にて行動の全てを把握されていると感じ取った。


 ここで、返球を内野に戻せば走者(ニーノ)は三塁止まり。こちらの行動が読まれ、更に無意識に動きをコントロールされているのなら、ここで止ま――


『ローハン』


 しかし、妥協をしない女が三塁(サード)でグローブを構えていた。


「――サリア! スメラギ! 中継はいい! 前を開けろ!!」


 オレは数歩の助走を行い、勢いをつけつつ『雷送』にてボールを三塁(サード)へと放つ。

 頼むぜ――クロエ!






 『雷送』。

 ソレを受けられるのはスメラギとゼウスだけだった。受けた時に同じ『雷魔法』で相殺しなければ電流が身体に残り次の行動に支障を来すからである。


 ローハン。君は僕の裏をかいたつもりなのだろうけど、『雷送』による三塁への送球も僕の誘導通りさ。


 ニーノからすれば『雷送』による返球は想定内だった。


 唯一、『反響検知』を相殺する【水面剣士】なら僕を刺せると思ったかい? けど、ソレは無理だ。彼女に『雷送』の完璧な捕球は出来ない。


 『音魔法』と『水魔法』に特化しているクロエが『雷魔法』を使った事例は一切ない。故に、この『雷送』は受けられない。

 何とかエラーを身体で止めたとしてもタッチに動け無いだろう。走者(ニーノ)はセーフになり、エラーならそのままホームへ駆け抜けられる。

 どちらにせよ傷口を広げるだけで無意味だ。


「そんな事はわかってる」


 『雷送』を纏う返球は、一度地面に着地するとワンバウンドを挟んで更に加速。その際に『雷魔法』が大きく散った。


「!」

「何度も同じミスを犯すほど、オレはマヌケじゃねぇ」


 ソレはペナルティを受けた時から己の中で更新した“知識”。

 直接捕球するには『雷魔法』による相殺が必要になるが、一度バウンドを挟むことによって『雷魔法』を大きく散らせる事を考えたのだ。

 その代わり、速度は5割増で捕球難易度はあがる。だが――


その女(クロエ)捕球()るぜ」


 走者と射線が被らない様に三塁(サード)へ突き刺さる返球をクロエは走者(ニーノ)がたどり着くコンマ5秒前に捕球――


 信じていたから。


 ワンバウンドによる速度増加。

 完璧な捕球。

 クロエは身体を開く様にグローブを振り抜くと、収まったボールで三塁へ走り込む走者(ニーノ)をタッチした。






「――――」


 グローブは空を切る(・・・・)

 ニーノは“聴いていた”。ローハンの『雷送』が初回のモノとは違った音をしている事に。だから――


「届くと思ったよ」


 その場で急停止。互いに音が聴こえないクロエとニーノ。そうなった場合、瞬間的な動作のアドバンテージは視覚者(ニーノ)の方が上だった。


 一呼吸の間も無い刹那。その神がかりなニーノによるタッチの回避は三塁(サード)への到着を確実なモノとする。


「信じていました」


 しかし、とん……とグローブとは反対の手に握られたボールが急停止から再び勢いをつける前のニーノにタッチ――――された。


「――――」

「アウト!!」


 ウォオッ! と球場に割れんばかりの歓声が上がる。






『クロエ選手、ニーノ選手を止めたぁぁぁ!! イレギュラーも混じった驚異のスリーベース! ローハン選手の高速の返球を見事にキャッチし、ニーノ選手との駆け引きに勝ったクロエ選手には脱帽を禁じえません!!』


 クロエはタッチを空振った。

 しかし、振り抜きつつグローブを開き、ボールを目の前に落としたのである。ソレを空いた手で捕球し、急停止したニーノへタッチしたのだ。


「君の駆け引きの強さと身体能力は知ってたつもりだったけどね。まさか、僕の予想を遥かに越えるとは」


 負けたよ、とニーノはダイヤから出ると微笑みながらヘルメットを取る。


「信じていましたから」

「何をだい?」

「ローハンを信じる貴女を」


 ローハンは必ず三塁へ到達するよりも速く返球する。ニーノはソレを信じ、ソレを前提に動くだろうとクロエは信じたのだ。


「それで僕の急停止を読んだのかい? 僕がそのまま駆け込んでいたら、クロスプレーになってただろう。ボールがこぼれて僕はセーフだったよ?」

「そうなっても問題ありません」


 クロエはマウンドのクロウへボールを返球する。


「私達は誰一人としてホームベースを踏ませる気はありませんので」


 と、美麗な顔で微笑むクロエであるが、その内側に宿る闘志は抑えきれずに溢れている様だった。


「これはこれは……手強いねぇ」


 ニーノは微笑みながら肩を竦める。

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