第400話記念外伝 ヤキュー2 頑固な『木』
「貴方が【キャプテン】クライブなんですか?!」
「我、世界を守護する者なり」
「姉ちゃん! 【キャプテン】だよ! 生キャプテン!」
「そうみたいね」
「美麗剣士よ」
「……何かしら?」
「“テーブル”に座る素質はある。だが、枷がソレを妨げている」
「それは助言として受け取っても?」
「我、事実しか語れぬ」
「……」
「『エルフ』か。ゼウスより話は聞いていたが、よもや【魔弾】をメンバーに加えるとはな」
「テンペスト様、あたし達の事は……貴女達の間ではどのように伝わっているのですか?」
「当時の眷属達は皆、妾も含め『エルフ』の排斥を陛下に進言した。しかし、陛下及び、ゼウスがソレを却下したのだ」
「…………マスターにとんでもない事をしたと思います。あたし自身も……」
「知っておる。しかし、友が迎え入れたならば外野がとやかく言うことではなかろう。個人がとやかく言うのはお門違いだ」
「……はい」
「…………」
いやさ、なんでお前ら仲良く向かい合って飯を食ってるの? さっきまで戦争一歩手前みたいな雰囲気だったじゃん。
ガリアの爺さんが放った衝撃発言を受け、マスターは正面からこう行った。
“まずは、ご飯にしましょう(キリッ)“
そんでもってガリアの爺さんは、
“悪くない提案だ。空腹では冷静な思考が難しい。私たちは既に済ませているのでデザートでも良いかな? 友よ”
“ええ。構わないわ(キリッ)”
てな会話をして『白銀市場』に連絡してデリバリーを頼んだ。『魔道車輪車』からテーブルを引っ張り出して氷原に設置。皆で囲って、デリバリーも来て今に至る。
「■〇◎▲▽◇……」
「すまん、ネイチャー。何言ってるか分かんねぇ」
ネイチャーはスメラギを張り付けにしたままオレの横に体育座りでミストを受けている。
オレは、フィッシュ&チップスを食べながら海水を真水に変える装置を動かし、霧状にしてネイチャーに水を与えていた。(真水変換器とミスト装置はこっちの私物)
100%植物のコイツは水分と太陽が食事なのである。水分が海水しかない『アイスアイランド』の氷原に移動して来るなっつの。
「うぬぬぅ……」
「スメラギ、水だ。飲め」
「かたじけない……」
スメラギがずっと張り付けなのは当人の希望でもあった。マスターに迷惑をかけまいとしているんだが、意味あんのかこれ? とりあえず覆面の下からストローで飲ませてやった。色々と封印されてる事もあってだいぶ参ってるな。
「……ローハン、隣良いかしら?」
すると、クロエが弟の側を離れてオレのトコにやって来た。クロウは……眼をキラキラさせてクライブと話してるな。
まぁ、【キャプテン】クライブは男の子の夢。オレもガキの頃はクロウと同じ気持ちだったが直で会った時に半裸の変態だと知った瞬間、魔法が解けたな。
「珍しいな。クロウは良いのか?」
「ええ。【キャプテン】は良くも悪くも、危害を加える者じゃないって解ったから」
“良くも悪くも”
クロエはクライブの本質を少しだけ感じ取ってるようだ。
「クライブは子供に人気があるからな」
「なぜ、クロウがあそこまで熱を上げるのか分からないわ」
「お前らが風呂に関して熱を、上げるのと同じだよ」
男には男の、女には女の指向性と言うモノがある。生物的に男は他者に憧れ、女は自分を磨く傾向が強いのだ。
「【キャプテン】クライブ……ね」
「おいおい、戦り合おうとか思うなよ? て言うか……奴に戦意湧くか?」
「不思議な程に湧かないわね。何故かしら?」
ソレがクライブの異質さなのだ。奴は数少ない“テーブル”に座ってる存在であり、そこに座る者はマスターやガリアの爺さん程の“格”が求められる。言うなれば――
「アイツは神様に片足突っ込んでるヤツだ。存在自体がバグってる。意識しても時間の無駄だぞ」
ガリアの爺さんも、よくあんな奴見つけたよ、ホント。
「それでも私からしたら、いずれ通過しなければならない相手よ」
「……お前は何と戦うつもりなんだ? クロウを護るだけなら今でも十分過ぎるだろ」
「内緒。アナタも秘密にしてる事があるみたいだし」
ツーン、と突き放す様な言い回し。
【オールデッドワン】の事は話すべきじゃないし、コイツに知られた日にゃ、延々と挑んで来そうでコワイ。
「話は変わるけど、ローハンはガリアさんの言葉の意味はどう捉えてる?」
「誰が一人排除しろって話だろ? オレも初めての経験だよ。マスターはガリアの爺さんと何らかの取引があるみたいだ」
オレも初耳。と言うよりは今まで話す必要が無かったのかもしれない。
「あのマスターが唸る程よ。覚悟はしておいた方が良いかもしれないわ」
「そん時はオレが消えるよ」
戦争で仲間を失ったからか。オレは誰かを犠牲にしてまで生きる程の執着心は無かった。
マスターから『PTSD』の診断を受けてるし、オレも大分イカれてるな。
「自己犠牲がアナタの美徳?」
少しだけ怒り口調のクロエ。何怒ってんだ?
「こう見えても戦場じゃ殿でね。自己犠牲は得意なんだ」
「……そう。私には理解できない感覚よ」
「理解されてたまるかよ。お前はクロウと自分の道だけ見てればいいさ。雑音はオレに任せとけ」
この気持ちは知る奴だけが苦しまなければならない。そうする事で戦争は終わっていくのだ。
それに……クロエにはセクハラ(パイタッチ)の件もあるし……【牙王】にチクられない程度には好感度を稼いでおかないと……
「……隣に……立ち止まりそうになる」
「ん? 何か言ったか?」
「なにも。貴方ともいずれは決着をつけるわ。【霊剣ガラット】の所有者になることは私の通過点だから」
気のせいかも知れないが……勝手に消えることは許さない、と言われた気がした。
「……お前は……ホントに良い女だな、おい」
「ええ。知ってるわ」
まぁ、笑ってくれるくらいには好感が上がっている様だ。
「実に惜しい」
「でしょ? 自慢の家族よ」
ゼウスとガリアは皆の集まるテーブルから少し離れた所に一卓設け、そこで二人だけで食事をしていた。
「ガリア、『契約』を確認しておくわ。現時点で貴方の定めた“制限”を私は超えてしまっていると言う事ね?」
「その通りだ」
ガリアは改めてゼウスに対して説明する。
「君は『創世の神秘』の中でも稀有な生い立ちを得た。本来ならば我々は世間と深く関わるべきではない。しかし……エデンの遺志と私の判断で君の“繋がり”を尊重し世界へ歩かせる選択肢を容認した」
「彼女と【地皇帝】の深き心には感謝しているわ」
「しかし、同時にとある懸念を考えざる得なかった。理由は君も理解しているだろう」
「『創世の神秘』にヒトの意志が集まり過ぎる事への危惧」
それは、『創世の神秘』の存在意義に直結するモノだった。
「そうだ。何故、我々が『創世の神秘』となったのか。『知識』を司る【原始の木】である君なら誰よりも解っているだろう?」
「……ええ」
「エデンは世界の未来の為に我々も世界への干渉が必要だと説いていた。故に各々で歩き出し、囁かれる程度に人々への干渉を始めた」
ガリアとゼウスは同じ“テーブル”に座る者たちを思い出す。
「【星の金属】は人の進化を見届ける為に。【始まりの火】は消える物語を後世に伝える為に。【呼び水】は世界の罪を清算する為に。【原始の木】は――」
「世界を誰よりも慈しんだから、人に手を差し伸べると決めた」
ゼウスの言葉にガリアは、ふむ、と納得する。
「故になのだ、友よ。世界を歩けば君は困っている者達を無視できない。そして、彼らを助け、迎え入れるだろう。その結果、過剰とも言える者たちが君の下へ集い一国家を超える力になる。そんな、君たちが動くだけで世界の模様が変わってしまう」
「ええ。だから貴方は私の側に置く人材に“制限”をかけた」
「【千年公】としての君は世界から師として認知されている。弟子と師は理想の一致した他人だ。しかし、家族はそうとも行くまい」
ゼウスは手の平を見る。かつて、家族となった時に着けた傷は消えているが、繋がりは決して消えないだろう。
「……それが兄達が最初に私に教えてくれた『知識』。それを蔑ろにする事は絶対に出来ないわ」
「その意思は私も蔑ろにする気はない。故にこの“制限”は護って貰わねばならないのだ」
ガリアの言うことは理解できる。
彼は世界の安定を第一に考え、ソレを乱す可能性のある者たちを“眷属”として迎えた。無論、ソレが出来たのは【地皇帝】ガリア・ラウンドと言う存在性と【創生の土】としての威厳があったからだろう。
「改めて告げる、友よ。クロウ・ヴォンガルフ以外のメンバーを一人、君の側から離すのだ。旅は残りのメンバーだけで続けても問題はあるまい」
きっと、真っ先に抜ける事に挙手するのはローだろう。あの子の心はまだ戦火の中にある。一人には出来ない。無論、他のメンバーもそうだ。
ゼウスは一度目を閉じ、そして考えをまとめる。
「……ガリア。私からの要望を良いかしら?」
「聞こう」
「貴方の定める“制限”を解除して頂戴」
その言葉にガリアは素直に驚いた。【原始の木】が事の重要性に気づいていない、又は無視した事に。
「友よ。それは――」
「貴方の言いたい事はわかる。彼女の様に世界を想う心も。けど、貴方がソレを譲れない様に、この想いだけは私も譲れない」
「…………では、君の方で私が納得できる解答を提示してくれ」
「もちろんよ。なにも根拠無しに貴方の言葉を否定しないわ」
ゼウスはテーブルに魔力を込めると、ぴこん、と一枚の葉が生える。それを集中的に成長させて大きくすると、プチ、と取り、指先に熱を宿し焦がす様に何かを書き始める。そして、
「ガリア、この中から一箇所選んで頂戴」
書き終わったゼウスは葉をガリアに向ける。そこに書かれていたのは4つのスポーツだった。
「『星の探索者』は各々が力を振り回す存在じゃない。例え、どんな事があっても私が皆を世界を良くする方へ導けると証明するわ」
「……指導者として望んだ結末へ導けると?」
「ええ。受けてくれるなら必ず証明すると約束しましょう」
ガリアは思わず笑った。そのゼウスに友の面影を見た故に懐かしさを思い出したのだ。
彼女も頑固だったな……
「良いだろう。私達が勝ったら『星の探索者』は解散してもらう」
「私達が勝ったら“制限”を外してもらうわ」
そして、4つのスポーツの中でガリアは『野球』を指さした。




