第397話 良い検証になる
拘束。
その単語が相手から放たれた時点で、カイルは即座に臨戦態勢に入った。
ソレは染み付いた動き。戦争と言う大一番な舞台を越えたカイルにとって『機人』程度の存在を斬り捨てる事に『霊剣ガラット』など必要としない。
「解りやすいの好きだぜ!」
「カイル! 待っ――」
レイモンドが静止するも腰の剣に手をかけて抜き放つ動作は必然的だった。
カイルが剣を抜く様を僕は止められなかった。
そう、止められなかったのに僕とカイルはいつの間にか地面に伏せる様に倒されていたのだ。
「――――」
「は?」
向かってきた二体の『機人』は僕たちを地面に押さえつける様に腕を背中に回し拘束している。
「――なんだ!? いつの間に!?」
カイルも何が起こったのか理解していなかった。僕は何とか視線を上げると、フォースさんの片眼の部位に片眼鏡の様な小さな魔法陣が出現しており、フッと消える。
『思った以上に反射で動く女児のようだな。【銀剣】カイルよ』
「うぐぐぐ……」
「…………」
僕たちは自己紹介をしていない。名乗ったのはジェイガンさんとの会話だけだ。どこまでこっちの事を知ってる? それに――
「……時間が飛んだ?」
『時操魔法』? しかし……時を止めた中で動けるのは本人だけのハズ。
僕達だけに作用したとしても、『停止空間』の予兆は欠片も感じなかった。
何が起こったのか理解出来ない。
今、僕たちの生殺与奪は完全にフォースさんに握られていると言ってもいいだろう。
『『霊剣ガラット』は特にマークさせて貰っていてね。『アステス』を破壊しうる武器と使い手として一番の懸念が君だったのだよ』
「いつから……ですか?」
『彼女が『ゼファー』を斬った時からだよ。本来なら拘束に向かうべきだったのだが、来てくれると言うのなら待つ方が効率的である』
最初からカイル狙い。こうなる事も予測済みだったのか。すると僕とカイルは拘束姿勢のまま、カチリ、と首輪を着けられた。
「なんだこれ!? くそー! 離せよ!」
『確実な一手を打たせてもらうよ』
フォースさんがカイルに手を翳すと首輪に紋章が現れた。明らかに何か起動している。
どうする……この首輪は僕なら反撃が出来る……
けど『アステス』を敵に回して……
マスターなら……ローハンさんなら……クロエさんなら……他の皆なら……こんな時……どうす――
そう考えていると、カイルは眠るように意思を失った。
「カイル!?」
『案ずるな。拙僧たちの許可が無ければ目覚める事の無い様に処理しただけである』
何をされたのか全くわからない。大技を使うような動作も魔力も何も感じなかった。
ここまで情報が拾えず、現状に推測すら立た無いなんて……
『おい! 待てや! フォース!』
「ジェイガンさん……?」
『ん?』
声が聞こえた方を後ろ目で見ると、キュラキュラ、と音を立てるベルトを巻いた車輪(キャタピラって言うらしい)の脚部をしたジェイガンさんが居た。
下半身そうなってたんですね。
『そいつらはボルックの身内だ! その意味くらい解るだろ!?』
僕たちはジェイガンさんにボルックさんと関わりがあるとは話していない。僕たちの情報はどこまで把握されているんだ?
『だから? と言っておこう。一部のコミュニティだけに有効な“身内”などと言う定義は『アステス』では通用しない』
他の『機人』がジェイガンさんを囲むように包囲する。
『我々の存在意義は『マザー』を護る事。そして、それは『アステス』を護り、世界を護る事に繋がる。この定義に異議を唱える君の不具合は相当に酷いようだな『JGN24』』
取り囲む『機人』達はジェイガンさんへ向かって白い泡みたいなモノを発射した。
『な! トリモチは止めろ! 俺の最高な身体が!』
『君は『型式JGN』の最後の一機故に『マザー』は見逃していたが、『オフィサーナンバー』に意見する不具合は看過できぬよ。アップデートを受けたまえ『JGN24』』
『離せやゴラァァァァ――』
と、ジェイガンさんは連れていかれた。
『では、君たちの処理に戻ろう』
「…………」
ジェイガンさんのおかげで、『アステス』から見た僕たちの立ち位置が大体解ってきた。
ボルックさんが、帰れない、と言ったのは合流してしまえば『星の探索者』が『アステス』と敵対関係になるからだ。
ジェイガンさんの話だと……ボルックさんは『マザー』に次ぐ権限を持つ言っていたけど、現状からしてソレは機能していないだろう。
「ボルックさんは……」
『情報開示制限に引っ掛からない範囲で答えよう。【戦機】ボルックはオフラインだ。彼は『マザー』の厚意を無下にした故に拘束されている』
やはりボルックさんは囚われているのか。
『満足したかな? では【銀剣】カイルの手足を切り落とそう』
「!」
『安心したまえ。生物的な死は避けるよ。『霊剣ガラット』の所持者が変わってしまったら本末転倒であるからな』
もはや……様子を見ている段階じゃない。
カイル……ボルックさん。二人に害が及んでいる。これ以上は黙ってられない。
僕は『重力魔法』で“黒球”を作り出すと押さえている『機人』の胴体を消滅させる。
『ほう』
「カイルに手は出させない……ボルックさんも返してもらう……」
立ち上がりカイルを取り押さえている『機人』を蹴り飛ばす。もはや、考えを巡らせている場合じゃない。カイルを連れて『アステス』を脱出しなければ。この情報を持ってローハンさん達と合流する。
内側から沸き上がる僕の血が牙を剥き出しにし全てを蹴散らす意思を放つ。
『空気が震えるのは『重力』による空間作用であるな。しかし、実に残念だ』
そこで、側面の“気配”に気がついた。いつの間にか蹴りが届くほどの間合いに『黒い機人』が入っている。
『良い検証になるとシミュレートが出ている。君と彼の『重力魔法』の差異。確実に記録してくれたまえよ、ブラック』
『黒い機人』の頭部には“III”と言う数字が傷のように刻まれていた。




