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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第367話 ナメやがってよ!

 戦場と言うテーブル。

 座り向かい合うのはローハンとブラッド。

 互いに手札を切り、横へ流していく。

 しかし、ブラッドの場には常に残る一枚があった。


 『不死』


 そのカードだけは、何をしても横に流せない。更に時間をかければかけるほど、ブラッドの手札は増えていく。


 『夜闇の雷霆』


 そのカードは勝負を決める一枚。図らずとも、ローハンが与えてしまったモノ。

 処理するカードはある。だが、それら全ては『シャドウゴースト』と言う縛りによって封じられている。


 『天空三門陣』


 数少ない“縛り”のかからないカード。だが、ソレに重ねるようにブラッドは、もう一枚の『夜闇の雷霆』を投げる。

 詰み。『夜闇の雷霆』により、まとめて消し飛ぶ。だが、ブラッドは『不死』で生き残るだろう。


 手番はローハン。場に――


「コレはお前にとって、どんな意味に映る?」


 結果を予測できない『ジョーカー』を投げる。






 質量と言うモノは生物が感じる上でもっとも単純な物差しと言えるだろう。

 視界を覆う津波や、全てを巻き上げる竜巻などと遭遇した場合は誰しもが戦おうとは思わない。

 自殺行為。今、レイモンド達が『夜闇の雷霆』へ向かっていく行為はソレに近い事をしていた。


「っ……!」

「あっはっは! スッゲー!」

『これ以上近づけませんよー!』


 押し返されるように髪の毛は後ろへ流れ、リースは必死にカイルの服にしがみつく。


 『夜闇の雷霆』は質量の塊である。近づくだけでさえ困難な程の反発エネルギーは、『天空三門陣』との接触により更に周囲を遠ざける力を生んでいる。


「カイル、ここから何とか出来ないの!?」

「もうちょっと近づいてくれ! そしたら――斬れる!」

『斬る!? 斬るって何をですかー!?』


 自分でも何をやっているのか僕にも解らない。

 こんなの普通じゃないし、津波や竜巻に正面から向かっていくなど、正気の沙汰じゃない。もう一撃の『雷霆』擬きも間も無く接触する。でも、何でだろう――


「笑っちゃうなぁ……この状況」


 『霊剣ガラット』の力は知ってる。でも、それ以上に迷いの無いカイルの言葉に……この無茶を正面から何とかなると思ってしまう。


 踏み出す。『重力』を前に張り反発エネルギーを抑えつつ走る。

 押し返される。それでもまだ、近づく――


「レイモンド」


 カイルの合図に僕は背負う彼女の靴底を手の平に乗せる様に組み換える。彼女は身体を起こしながら、背の『霊剣ガラット』の柄を握った。


「うぉぉおおおりゃぁあああ!!」


 紫色の刀身が勢いよく抜き放たれる――






「――――」

「お前にとっては“凶”だったな」


 二枚の『夜闇の雷霆』のカードは横に流れ、『カイルとレイモンド(ジョーカー)』のカードがローハンの場に残る。






“『シャドウゴースト』の出現条件で幾つかの定説がある”

“定説……ですか?”

“あまりにも強すぎる能力は淘汰される。だが、ある条件下なら振るったとしても相殺される場合があるんだ”

“その条件ってなんです?”


 『夜闇の雷霆』は二つに分かれると、エネルギーの固定化を見失って乱雑に混じり合い周囲に拡散。

 真下へは『天空三門陣』によって被害は生まれないが、真横にいたカイル、レイモンド、リースは揉みくちゃに吹き飛ばされた。


「うわぁぁぁあああ――」

『落ちるー!!』


 方向感覚を失う程に回転しながら落下するカイルとしがみつくリース。

 レイモンドは『重力』の足場を跳び移りながら、カイルとリースを横から抱える様に保護。影響の少ない『天空三門陣』の下へ移動する。


「サンキュー、レイモンド」

『た、助かりました……』


“『遺跡内部』で発生する災害に対してのカウンターだ。災害そのモノが世界に多大なダメージを与える場合、それを沈静化させる力を発揮しても『シャドウゴースト』は出てこない”


「ホントに――」


 崩れて霧散していく二つの『夜闇の雷霆』を確認しながらも、『シャドウゴースト』の気配が無い様子から、ローハンの定説は間違ってなかった事を認識。

 霧散する『夜闇の雷霆』の隙間から月の光が戦場へと降り注ぐ。


『わぁ……綺麗です……』

「この瞬間だけだね」


 その幻惑的な光景を最も近い位置で見れるのは役得だろう。


「よーし! レイモンド! 【夜王】と戦いに行くぞ! おっさんの所に降りてくれ!」

「……君ってホントに花より団子だよね」

「? なんだそれ?」

「『ジパング』の言い回しだよ」


 その時、月の光が消えた。いや、隠れたのである。


「ちょっと……」

『はわ……はわわわ……』


 三撃。三つの『夜闇の雷霆』が降り落ちて来ていた。

 【夜王】に制限は無いのか? それとも『ナイトメア』の力なのか?


 遠目から見ても再び、絶望を見せつけられる場面だがカイルは笑っていた。


「ナメやがってよ! レイモンド、リース、もっかい行くぞ! 全部、ぶった斬ってやるぜ!」


 どうやら、脳筋には嬉々とする状況らしい。レイモンドは一度、カイルを空中に放るとお姫様抱っこから背中に抱え直す。


「君と一緒だと疲れるよ」

「そうか? 俺はレイモンドと一緒だと楽しいけどな!」


 会話が通じなくなってきたので、無言で足に徹しようとしたその時、


「ん?」

「あん? なんだこれ?」

『翠色の……雪?』


 『夜闇の雷霆』を透過するソレは戦場全体へ降り注ぐ――

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