第322話 近ーい♡
【夜王】により『夜』で覆われ、メアリーにより唯一の希望である『虹色の柱』も奪われた。
加えて『太陽の巫女』の負傷、里にいる『戦士』達は軒並み戦闘不能、“陽気”に制限がかかる、と言う状況の詳細が伝わっていく事で『太陽の民』の戦意は維持できなくなって行く。
唯一の救いは、この状況が最前線へ伝わっていない事だった。
同時刻にゼフィラがミッドによって倒れるも戦士達の奮起によって戦線は互角を維持している。
だが……『虹色の柱』が消えた事による異変は遠目でも気づく者が出てくるだろう。
戦局は互角でも、精神的な優位では『夜軍』へ大きく傾く。
「…………」
知れば知るほど絶望的な状況にも関わらず、ディーヤは不思議と冷静に状況を見る事が出来ていた。
「アハハハハ!!」
メアリーと使い魔による攻撃。状況的に三対一。そして、
「お前は毎回後ろから来るナ」
背後に出現し槍や剣を振り下ろすガンマに対してディーヤ身を寄せる様に武器の内側に入り、背中をトン……と着ける。
「邪魔ダ」
『極光の外套』。ゼロ距離より炸裂する“陽気”にガンマは胴体が消滅し、ボロッ……と消え去った。
「ディーディッ!」
ディーヤは正面に意識を戻すと、メアリーが先行して来ていた。
『極光の外套』によるアルファとベータの消失をカバーするメアリーの動き。同じ手が通じないのはディーヤにも言える事だ。
「…………」
「!?」
ディーヤは欠けた『戦面』を脱ぐとメアリーに向かって投げつけた。
え? 『戦面』は貴女達にとって戦いには必要なモノでしょ?
メアリーの困惑は無理もない。
『太陽の戦士』において『戦面』は戦士としての誇りは勿論、効率よく“陽気”を取り込む為に必要な要素だからだ。ソレを捨てると言う行為は自らパワーダウンを選ぶ様なモノ――
「――――」
迷うメアリーとは対照的にディーヤは迷いなく踏み込むと『光拳』を突き出す。
「っ! ディディ!!」
ソレに合わせてメアリーは『戦面』を両断しつつ『滅光の剣』を振り下ろした。
「雑ダ」
メアリーの剣は最初のような不規則性が失われていた。
ディーヤは振り下ろしてくる『滅光の剣』の手首を“陽気”も持たない手で抑える。しかし、『滅光術』によって『光拳』は霧散した。
「ふふ……近ーい♡」
それは剣よりも近い間合い。互いが敵同士でなければ抱きつく距離である。
「ルーク♪ 逃がさないで」
『わかりました』
“黒い霧”がディーヤを閉じ込める様に包む。
「その執着ガ、お前を討ツ」
ディーヤは強く踏み込むと、メアリーから離れた“黒い霧”を置き去りにするように彼女の身体を押して行く。
『お嬢様!!』
『滅光術』は発動している。しかし、『恩寵』のよる“陽気”の増幅が『滅光術』の処理を上回っていた。
「ディ……ディ!!」
「うぉぉぉオオオ!!」
押される勢いを止められない。アルファ、ベータ、黒い霧が追ってくるが、ディーヤはここで決めるつもりで全力を吐き出す。
「『極光の外套』!!」
「くっ!」
身を寄せるディーヤからの『極光の外套』はこの距離なら有無を言わずに焼き殺す程の出力。だが『滅光術』により、軽く肌が焼けるに留まる。
消失が間に合わない……けど、このままだと貴女も勝ち目が無いわ――
いくら『恩寵』で増幅しているとは言え、『滅光術』により“陽気”はいずれ尽きる。ディーヤの狙いは……
「ああ……なる程ね♪」
『太陽の宮殿』を囲む『黒繭』。メアリーはディーヤの意図を読む。
「私を『黒化』させて終わらせるのね! けど、ソレは無理よ!」
メアリーは右腕を介して“陽気”を集め、身体が焼ける事を厭わずに片足をつけると地面を強く踏みしめる。
「『滅光術』があれば! 『陽気』を取り込んでも焼け死ぬ事はない!!」
更に高速再生によって、ダメージも無かった事に出来る。メアリーも僅かな時間なら右腕以外も『陽気』による身体強化を発現する事が可能だった。
「そんなモノは関係なイ」
メアリーが地面を踏みしめたタイミングでディーヤは押す勢いを止めて後ろに身を引いた。
「――え?」
「メアリー・ナイト」
少しだけ距離が開き、不意に消えた勢いに、メアリーは後ろに倒れながらディーヤを見る。
ディーヤの腕に光が宿る。それは小さく明滅して、吹けば消えそうな弱々しい光。
「――この一撃ガ、【極光剣】の神髄ダ!」
メアリーは『滅光術』を発動。しかし、ディーヤは腕の光を護る様に『極光の外套』にて相殺する。
「!! ディディ!!!!」
アルファ、ベータ、黒い霧がディーヤの背後に迫るも、それよりも先に居合のように構えたディーヤより閃光が放たれる。
「『御光の剣』!!」
それは『太陽の宮殿』を、『黑繭』を、ライン大河を――二つに割る閃光となり、夜を照らす。




