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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第319話 ドレスアップをお願い♪

「っト……」


 モーファーとグリードを吹き飛ばしたディーヤは『太陽の宮殿』を囲む『黒繭』の中へ着地した。

 そこは『グリフォン』の着陸広場であり、ライン大河から『宮殿』へやってくる際の波止場でもある。


「スカイ……」


 ディーヤは身を挺して助けてくれたスカイの安否が頭をよぎるが、今はソニラの安否を優先する。

 『宮殿』へ入ろうとしたその時、『里』で唯一無二の光源である『虹色の光』がフッ……と消えた。


「!? 巫女様っ!」


 ディーヤが『宮殿』へ駆けようとした時、カカカと床を踏む足音が聞こえ、足を止めた。


「♪~♪~♪~」

「……」


 奥から鼻唄を口ずさみつつメアリーがアルファとダンスしながら現れた。

 巧みなステップは専門的な者でなくてもある程度の社交性があれば息の合ったデュエットに思わず眼を奪われるだろう。

 しかし、ディーヤは怪訝な眼を向けたままとりあえず待つ。


 そして、メアリーの海老反りポーズをアルファが支える姿勢でフィニッシュし、ディーヤを見た。


「こんばんは、ディディ♪ 私のダンスはどう?」

「意味が解らン」


 ディーヤは、キンッ、と『光刃』を放つが姿勢を戻したメアリーは右腕で受け止めた。


「ふふ。焦らないの。『夜』はまだまだ長いんだから」

「いヤ……『夜』はもう終わル。皆、その為に命を燃やしていル」


 楽観的なメアリーの様子とは対照的にディーヤは鋭い闘志を『戦面(クシャトリア)』の奥から放つ。


「あぁ……やっぱり、そうなのね。私に必要なのは最初から、ディディ……貴女だった」


 その瞬間、アルファがディーヤへ斬りかかる。その瞬発力は今までない程に速く、鋭く、瞬きの間に剣を振り下ろ――


「くだらン」


 ディーヤが歩み出すと、アルファは振り下ろすした剣ごと身体を横と縦に斬られ、霧散する。


「ベータ」


 メアリーがパチンッ、と指を鳴らすと突撃する様に出現したベータがディーヤの顔面に手甲を叩きつけ――


「フン!!」


 ディーヤの頭突きに手甲ごと腕を破壊され、その胴体に『光拳』を捩じ込まれメアリーへ吹き飛ぶ。


「ガンマ」


 飛んで来たベータを消すとディーヤの背後から無数の武器を振り下ろすガンマが――


「『極光の外套(ファラング)』!」


 発生させた『極光の外套(ファラング)』の衝撃波により武器は押し返され、更に影もなく消滅した。

 メアリーは右手をかざしてその『極光の外套(ファラング)』を受ける。


「前とは違って随分と元気ねぇ。私、ちょっと困っちゃうわ」

「知らン」


 ディーヤは歩みを止めない。メアリーは、ふふ、と笑うと、


「でも一歩遅かったわね、ディディ。ソニラ様は先ほど死去されたわ」


 メアリーは“虹色の玉”をディーヤに見せるように手の平に出現させる。


「コレが証明よ。ちなみに殺したのは私♪」


 精神的な揺さぶりをかける。肉体は精神に寄って強くなるが弱くもなる。

 『太陽の戦士』にとっての象徴であるソニラの死は、『太陽の宮殿』から出てきたメアリーの存在で信憑性が増している。


「だからね、ディディ。貴女達の戦いは無意味なの。戦争は終わったわ。だから――」

「だかラ、なんダ?」


 ディーヤは、ドンッ、と踏みしめる足を止めない。その眼は僅かにも絶望に染まっていなかった。


「どれだけを証明しようとモ、お前の口から出る言葉に何の価値は無イ。ディーヤが信じるのは、己の眼と背中を押す“魂”だけダ」

「へぇ……可愛い――」


 その時『宮殿』の奥から“虹色の光”が一瞬だけ光り、メアリーは思わず振り返った。


「! 今のは――」


 メアリーが動揺し、その隙をディーヤが捉え、『御光の剣』を構えて踏み込む。


「させませんよ」


 ルークが“黒い霧”となり、ディーヤの前に出る。


「邪魔ダ!」


 シルバームとの戦いで習得した『極光術』の同時に発動。放たれる『極光の外套(ファラング)』にルークは対応しきれずに霧散する。


「メアリー・ナイト!」


 『御光の剣』を振り抜く。


「――――」


 閃光とあらゆるモノを両断する一閃をメアリーは右腕で受け止めていた。


「……今の光は気になる所だけど……今はディディから目を離す方が失礼ね♪」


 『御光の剣』を受け止め、見下ろすメアリーと見上げるディーヤ。

 その時、アルファとベータが現れ左右から奇襲。ディーヤは『極光の外套(ファラング)』を放とうとした時――


「――――」


 メアリーが笑った為に一旦身を引いて距離を取る。


「ふふ。あらあら。怖いのかしら?」

「…………」


 アルファとベータがメアリーを護るように前に立ち塞がる。ルークも形を戻すとメアリーの側に現れた。


「ルーク、ドレスアップをお願い♪」

「了解しました、お嬢様」


 その言葉によりルークは再び“黒い霧”になるとメアリーの姿を覆うように包み、そして――


「ふふ」

「……」


 その服を黒のイブニングドレスへと変貌させた。


「さぁ、今宵のダンスを楽しみましょう。ディ~ディ~♪」


 メアリーはハットを夜空に投げる。

 そして、ダンスを申し出る様に手をディーヤに差し出すと瞳に映した。






 対岸に集まった『民』達と共にシルバームは船で『太陽の宮殿』に接近。ディーヤがメアリーを引き付けている間に裏側から『黒繭』に『虹色の光(ブリューナク)』で穴を開けてまだ残っている者達を救出していた。


「動かして良いわ」

「よし、ゆっくりだ」


 千華によって傷を縫われたソニラが真っ先に船に下ろされる。


「……世話をかけます、千華」

「ソニラ、キツイかと思うけど気を失ったらダメよ。今、貴女が倒れたと言う報が飛ぶと全ての戦線が崩れるわ」

「ええ……解っています」


 ソニラ事を心配しつつ、他の『民』も船に移る。


「……シルバーム、ディーヤは……『ブリューナク』を?」

「いや、無理でした。そもそも、俺の見立て違いです」


 シルバームはメアリーと相対した事を知らせる接触光を見る。


「ディーヤは『ブリューナク』が無くても二度と負けませんよ」

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