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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第297話 包み隠さず話しなさい

 二人を見つけた千華とカルニカは倒れるシルバームに縋る様に泣いているディーヤに駆寄った。


「ディーヤ!」

「千華様! カルニカ! シルバーム様を……助けテ!」


 カルニカは懇願されるが、安らかなシルバームの表情と貫かれた様子を見て――


「ディーヤ、もうシルバーム様は……」

「ウぅぅぅ……」

「……」


 悲壮に暮れる場の雰囲気の中、千華はシルバームの傍らに歩いてくると、しゃがみ――


「何を美談にしようとしているのよ」

「……エ?」

「……え?」


 悲しみの欠片もなく、いつものジト眼でシルバームに語りかける千華へディーヤとカルニカは視線を向けた。


「さっさと起きなさい。シルバーム」

「…………」

「どうやら、気付けが必要なようね。カルニカ、裏返すから手伝って。シルバームのお尻を――」

「わぁ!!? ソレは止めろ!!」


 カッ、と眼を見開いてシルバームは叫んだ。


「!!?」

「ええ!!?」


 ディーヤとカルニカは驚きにそんな声を上げるが、千華は呆れると立ち上がって腕を組んで見下ろす。


「この子の常套手段よ。死んだフリ」

「……いや……ホントに勘弁してくださいよ……貫通したのはマジなんですから……痛てて……俺の作戦が……」

「ディーヤの心に傷を残すのが作戦なら、看過できないわね」


 シルバームは、ちらっとディーヤを見る。彼女は俯いて表情が伺えない。


「ディ、ディーヤ。これはだな……お前がより強い【極光剣】になるために必要な――」


 シルバームが言い訳を告げ終わる前にディーヤは彼に抱きついた。


「良かっタ……シルバーム様ァ……」


 うぇーん、と泣き出した様子に唾悪くシルバームは頬を掻く。傷が痛むが……それを受け入れろ、と言いたげな千華の視線に我慢するしかなかった。


「身体は貫通してるけど、臓器や骨は傷ついてないわ。上手く躱したモノね」

「そこは、俺の『極光術』への理解度ですよ。後は……ディーヤのおかげでもあります」


 ディーヤとの攻防で最後に放たれた『御光の剣』は今まで以上に洗練されたモノだった。故に臓器を傷つける程の破壊は生まず肉と皮膚だけで済んだのだ。


「それだけ?」

「後……千華さんの服のおかげです……」

「よろしい。シルバーム、これだけは言っておくわ。ディーヤを泣かせるなら一回きりにして、次は本当に死になさい」

「それは……どっちも勘弁ですね……」


 そう言いつつ、シルバームはディーヤを宥める様にその頭を優しく撫でる。






 その後、千華がシルバームの傷口を縫って塞ぎ、カルニカの持ってきた薬を飲む。

 『陽気』の多いこの場所なら、薬の効果は倍増。即回復とは行かずとも、立ち上がるくらいは出来るようになった。


「痛てて……」

「大丈夫ですカ……?」

「ディーヤ、心配する必要はないわ。どうせ、死んだフリでもして戦争後にしれっと生きてましたーって現れるつもりだったんだろうから。サボり癖もここまで来れば神がかりね」


 千華の言葉に、うわぁ……と流石のディーヤとカルニカは視線を向ける。


「ち、違うぞ、ディーヤ、カルニカ! これは戦略だ!」

「なら、包み隠さず話しなさい」


 千華の言葉にシルバームは都市の出口へ向かいながら自分の考えていた作戦を語る。


「『虹色の光(ブリューナク)』で【夜王】を奇襲するつもりでした」


 それは誰にも言っていない、シルバームだけが立てた唯一無二の勝算だった。


「【夜王】がマークしてるのは『三陽士』と『太陽の戦士』。加えて戦場では、レイモンドは勿論、カイルとローハンも注目されるでしょう。裏切る予定のクロエも」

「ええ。私が【夜王】でもそうするわ」

「だから俺は影に徹したんです。ノーマークからの一撃は絶対に躱せない。これは実証済みです」


 ベクトランを倒した時がまさにその形だった。


「その為には完璧な透明にならなきゃ意味がない」


 失敗は出来ない。故にシルバームは万全に万全を考えた。


「味方からのマークも外れれば俺は完全な死人です。【夜王】を討つ確率がグッと高くなる」

「【夜王】は不死よ。『ブリューナク』は通じるの?」

「通じます」


 シルバームは迷い無く言い切る。切り札が増えた一方、ディーヤは少し落胆した。


「デは……『ブリューナク』ハ……」

「悪いなディーヤ。『ブリューナク』を使えるヤツをおいそれと増やすワケには行かねぇんだ。それが『極光術』を伝える俺の血筋の使命でもある」

「イいんでス。ディーヤはディーヤに出来る事をやりまス!」

「ははは。その活きだ。痛てて……」


 その後、シルバームの先導で出口へ向かう。

 それは千華達がやってきた道ではなく、『太陽の神殿』の台座の下がずれてそこから外へ出た。


「ここに入り口があったのね」

「千華さん達はどうやって中に?」

「側面からよ」


 外の空気を吸う。だが、干渉に浸る間は無かった。


「――おいおい……嘘だろ?」

「これは……」

「なんて事……」

「太陽ガ……」


 決して隠れる事のない太陽が消え、夜になっていた。






 彼方に見える『虹光の柱』だけが『太陽の里』の位置を証明している。


「これが【夜王】の『ナイトメア』の力ね」


 世界を永久の夜に覆う。それが【夜王】の目的であり、その中に『太陽の民』の居場所はない。

 今までは、どことなく夢のような話だった。しかし、現実に起こる事のない事が起こっている以上、自分達の“滅び”はカウントダウンに入っているのだと認識する。


「コルル」

「フライアン」


 千華とカルニカを運んだ『グリフォン』フライアンがバサッと降りてくる。


「フライアンだけじゃ四人は運べないわ。カルニカとディーヤは先に里に帰りなさい」

「ディーヤよりもシルバーム様の方ガ……」


 皆が望む『虹色の光(ブリューナク)』を持つのはシルバームだ。ディーヤは、己の役回りは全て彼に置き換える方が良いと口にする。


「いや……ディーヤ、俺は当初の作戦通りお前の影に隠れる」


 少し疲れた様子のシルバームは近くの柱に背を預けて座った。


「この体たらくさ。前線には立てん。それに今の『太陽の民』に必要なのはお前の方だよ」


 その時、バサッと月の光に影がかかり、全員が夜空を見上げた。それは一体の『グリフォン』――


「スカイ!」


 義片翼を持つ『グリフォン』のスカイは、ディーヤの目の前に降り立つ。そして、じっと彼女を見下ろした。


「スカイ……ディーヤ達ヲ捜していたのカ?」

「ココロロ」


 スカイは次に『太陽の里』の『虹光の柱』へ視線を向けた。


「マサカ……里に敵ガ?」

「! スカイ、それは本当!?」

「ココカカ」


 『グリフォン』の意図を読めるカルニカは確認の為に問う。


「……来るとしたらメアリーだな。あの女は……本気の本気で“アイツ”に会いに来てる。邪魔する奴らは皆殺しだ」

「スカイ、フライアン、あなた達が居れば全員運べるわよね?」

「ココカカ!」

「コルルル!」


 千華の言葉を二体は肯定する。


「千華さん」

「戦ってくれるんすか?」

「ここまで来るなら私も店に引っ込んでは居られないわ。次に店を壊された際の弁償の請求先は貴方達に討れるでしょ?」


 何より『巣』を留守の間に部外者が侵すなど『土蜘蛛』にとっては最大級の侮辱であった。


「私は『巣』を護るわ。あなた達は護るべきモノの為に戦いなさい」

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