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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第294話 だから彼は彼女の前に立つ

「シルバーム、次はお前が私の跡目を継げ」


 それがお袋の遺言だった。

 俺の母親世代は、とある敵を討つと言う名目で『太陽の里』を離れ、そのまま全滅した。

 お袋達はナニと戦ったのか。シヴァ、アシュカ、ゼフィラは、いずれソイツと敵対する事を考えてより鋭く己を磨き、各々が『三陽士』となった。

 俺はビーチベッドに寝転がってその様子を眺めつつ適当に欠伸しながらアイツらと青年期を過ごした。


「よくやるよ、ホント」


 自分でも気づいてた。

 俺に才能なんて無い。あの三人とつるんでるのは、たまたま同世代で、尖ってた血筋からゼフィラと近い距離にいたからその輪に入れただけだ。


 天才が三人。いくら努力しようにも届かない存在に囲まれれば真面目にやるだけ比較される。

 『極光術』も鍛練方法は殆んど頭打ちで、俺が改善する必要なんてありはしない。いい感じに緩く生きて、アイツらの行く末でも見届けるくらいの立ち位置が俺にはお似合いだ。


「おい、この馬鹿」

「うぉ!? なんだ!? ゼフィラ!? 急に部屋に入ってくるな!」

「キャァ!? なによ、この女!?」

「シルバーム、部屋の外に出てろ」

「出るの俺!?」

「その女は『淫夢魔(サキュバス)』だ。お前を含め、何人かの『戦士』が被害に合ってる」

「え?」

「違うわよ! シルバーム! 信じて!」

「『極光の手甲(ガントレット)』」

「ウギァァ!? あたしの顔がぁ……何すんだぁ! このクソアマぁぁぁ!!」

「うわぁ……」

「『御光の剣』」

「ギァァァ!!?」


 てな感じで『太陽の里』に来る外からの女を引っ掻けては、尽くハズレで、毎回ゼフィラに踏み込まれてた。


「さようならユミちゃん……」

「まったく……少しは里の外の奴らを警戒しろ」

「しかたねぇだろ。昔から一番魅力的な女はこう言う事に興味無さそうだし」

「警告だけしておいてやる。アシュカに手を出したら、シヴァに顔の形が変わるまで殴られるぞ」

「違げーよ。お前だ」


 そう言った後、なんか240時間くらいゼフィラに避けられてたが、シヴァとアシュカの計らいで、アイツとの関係も色々と進んだ。

 進み過ぎて、そのままシャイアが産まれたんだが、その後も悪くない生活だった。


 多忙なゼフィラに代わってシャイアの世話は俺が殆んどやっていた。

 昔からお伽噺を聞かせてあげて、夜空の話を主に教える。すると絵の勉強を始め、次第には巫女様まで感心する様なモノを描くようになる。


「シルバーム。シャイアはまだ帰らないのか?」

「ん? なんだ。俺はお前の所に行ってると思ってたが」

「ふむ」


 その日は間も無くゼフィラの誕生日だった。奇しくも巫女様と被っている為に、祝うのは後回しになってしまうが、俺とシャイアは毎回サプライズを用意していた。

 今回の俺のプレゼントは千華さんにお願いして新しい腰巻き。シャイアは――


「心当たりがある。捜してくるよ」

「……今後は少しは私も時間を作る」

「気にするなよ。巫女様の生誕祭だ。お前はそっちに集中してな」


 夜空をお母さんに見せる。

 (シャイア)はそう言っていた。だから絵の勉強を始めて、描いた夜空の絵を(ゼフィラ)に見せるつもりなのだと俺は知っている。だから――


「……シャイア」


 絵を描くには夜を見上げなければならなかった。それは必然と『ナイトパレス』に近づくと言う事であり、娘は一人で行った事で奴隷商人に狙われた後だった。


「クソッ!」


 『ナイトパレス』へは近づかない事を『里』でも厳守されていたが、俺はそんな規則に縛られる生活をシャイアには味合わせたくなくて強く言っていなかった。

 シャイアが拐われた地点から近い民家へ駆け込む。無論、そこには『ナイトパレス』の住人が住んでいた。


「ひっ!? 『太陽の民』!?」

「お前ら『ナイトパレス』のヤツだな!? 女の子の『太陽の民』を見なかったか!?」

「し、知らない!」


 怯える眼に、知っていたとしてもまともな事は言わないと察し、俺はそのまま『ナイトパレス』の探索を続けた。

 そして、一つの情報を手に入れる。


「『コロッセオ』……そこに運び込まれたんだな?」

「ヒヒヒ、間違いねぇですぜ、旦那。情報料は……あんたの身柄ですぜ!」


 俺は抵抗せずに捕まり、『コロッセオ』へ。そして、そこに収容されていた奴隷からシャイアが悲痛な最後を遂げた事を聞いた。


「………………」


 俺のいい加減な生き方が……この悲劇を招いた。俺が……シャイアに夜空の話をしなければ……俺がもっと里に帰順するように育てておけば……娘は……


「……」


 『コロッセオ』の主であり、娘の死に直接関わった『ロイヤルガード』の一人ベクトラン。ソイツを討って……俺は帰ろう。

 この奴隷の身は俺の罪だ。長らく……使命から眼を背けて、堕落した俺が受けなければならない罰……同時に――


“シルバーム、お前は『ブリューナク』に手を出すな。強い志がなければ、その虹色に包まれ、お前自身が消滅する”


 母が言っていた事を思い出す。昔、一族の伝承を読み漁って読んで組み上げた『ブリューナク』の習得方法は、俺の頭の中だけに存在していた。


 結果として、クロエとレイモンドのおかげでベクトランを討てたワケなのだが。時間にして50年もかかった。

 里に戻ると状況は色々と変わっていた。

 アシュカは死に、シヴァは『戦士長』になっていた。そして――


「ディーヤでス」


 新たな【極光剣】は一人の幼い戦士が継いでいた。

 聞くところによると、ディーヤも両親を魔物によって失い、義母であったアシュカも【夜王】に敗北し失ったそうだ。


「二度か……」

「じゃから、ワシが育てとる。ディーヤは戦う事を選らんだからのぅ」

「……それよりも、お前はもっと側にいてやれよ」

「……自分の都合でアシュカと里を放って放浪してたワシにそんな資格はない」


 友は相変わらず堅物だった。

 シヴァとは自分を責める者同士、ディーヤを見守ると言う考えに落ち着いた気がした。

 だが、そのシヴァも死んだ。


「………そうかよ。もうこうなったら……【夜王】を殺すしかねぇな」


 これで最初で最後にする。

 『太陽の民』を救うために俺はこの命を最善のモノとすることを決めた。

 だが、正攻法では犬死にだ。だから【夜王】に近づくためには手土産が必要なのだ。

 

「……悪いなゼフィラ」


 俺は目の前に立つディーヤを見据えてそう呟く。これが俺の“最良”だ。

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