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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第287話 すげー! 真っ暗だ!

「これが……“夜”か」


 『太陽の戦士』と『夜軍』がぶつかり合っている最中、史上において初めて“夜”に包まれた『太陽の里』では、民たちが動揺していた。

 自分達の命の源である“陽気”。それが一切断たれている瞬間が永遠に続くと思うと、恐怖を感じるのも無理はない。

 経験の浅い子供達は今までに無い状況にはしゃいでいる子もいるが。


「すげー! 真っ暗だ!」

「皆さん! “陽気”の残る、洞窟や自宅から出ないように!」

「これが……【夜王】の力か……」

「『グリフォン』は夜でも飛べる?」

「夜目に慣れれば行けるハズだ」


 それでも大きな混乱が無かったのは、ローハンが事前に説明し、ある程度の備えをしていた事と、


「あ! 巫女様だ!」


 数人の『太陽の戦士』の護衛と共に『グリフォン』で戦線から帰還するソニラが上空を通過したからである。

 『太陽の巫女』は『太陽の宮殿』へと戻って行く。






「いやはや、戦線からは二十キロ近くあるというのに、ここまで届くか」

「とんでもないわねぇん。【夜王】ちゃんの力は」


 『太陽の宮殿』にて、戦線から広がる“夜”を見上げる眼鏡をかけた男――ヴェーダとオカマのヴァラジャは改めて驚愕していた。


「ローハンの事前説明のおかげで混乱は起こっていないが、長くは持たないだろう」

「綱渡りみたいな作戦よん。シルバームちゃんとディーヤちゃんもまだ帰らないし」

「千華様とカルニカに任せるしかあるまい。『ブリューナク』……疑わしいが発動可能であるのなら、それが最後の切り札になるだろう」

「これ程の力を持つ相手に……ディーヤちゃんに全部(ゆだ)ねないといけないなんて……本当に情けないわ」


 本来なら『恩寵』を返すと言った時点でディーヤには戦いから外れてもらうべきなのだ。

 立て続けに家族を失い、半身とも言える弟も失った。それでも彼女は戦う事を選んだ。我々大人達が……【極光剣】として生きる様に育ててしまったから――


「……だからこそ、ボク達が模範にならなければならないな。彼女が己の歩み方を疑わぬ様に」

「……そうね」


 その時、ソニラの帰還する『グリフォン』が遠目に見えてきた。

 

「巫女様……よかった」

「とりあえず、と言った所か」


 ヴェーダは、パチン、と指を鳴らすと『宮殿』の着陸地点を明るく表示させ『グリフォン』を誘導し、丁寧に着地する三体より、ソニラと護衛の戦士二人が共に降りた。


「貴方達は戦線に戻りなさい。一人でも多くの力を合わせるのです」

「「はい!!」」


 護衛の二人は『宮殿』に待機している別の『グリフォン』によって戦線へ。


「ご無事で何よりです」

「怪我は無いようですね」

「戦士達が護ってくれました。ヴァラジャ、医療班の指揮の為に戦線へ行きなさい。貴方の力が必要になります」

「はい」

「ヴェーダ、里の状況を」


 ヴァラジャは一礼し、ソニラは『宮殿』を早足にヴェーダと歩きながら『虹光の柱』へ向かう。


「事前の説明と準備が民の心に余裕を持たせています。しかし……あまり長くは持たないかと」

「恐怖を思い出します(・・・・・・)。かつて、夜に怯えるしかなかった初代巫女の『記憶』……この『記憶』を今の子供達に与えてはなりません」

「解っています」

「シルバームとディーヤの行方は?」

「それが……未だに知れず、千華様とカルニカが捜索に向かいました」


“戦線の目的は競り勝つ事じゃなく【夜王】を首都から引っ張り出して、退路を塞ぎ、確実に倒すモノだ。だが……オレ達じゃ“殺す”事は出来ても“倒す”事は出来ない。ディーヤが遅れる分、死体が増え、作戦の成功率が下がる。その事を念頭に置いててくれ”


「巫女様。シルバームですが……彼は本当にこちらの側なのでしょうか?」

「…………」

「作戦を詳細に知り、鍵となるディーヤに『ブリューナク』を教える。失われた“極光術”をこのタイミングで発現するなど……少し都合が良すぎると思いませんか?」

「ヴェーダ。何が言いたいのです?」

「かつて『太陽の里』がクロエに襲撃された時、メアリーは的確に子供達の避難所を狙いました。あの時は、シルバームが生きているとは思わなかったので偶然だと思っていました。しかし、今考えれば……一番疑わしいのは――」

「ヴェーダ、彼は違います」

「巫女様……」

「その発現は今後控える様に。現状では無駄な混乱を招くだけです」


 そうこう話していると『虹光の柱』の伸びる中庭へたどり着いた。


「シルバームもディーヤも必ず戻ります。今は私の言葉を信じなさい」

「……わかりました。ボクは心身を賭して貴女を御守りします」


 その言葉にソニラは微笑むと、『虹光の柱』に手をかざす。


「『サンロッド』よ……民に太陽を――」


 『虹光の柱』を囲う様に光の輪が生まれると、ゆっくりと上昇し夜空に穴を開ける。


 太陽の光が『宮殿』を照らし、それは広がる様に一帯へ。

 夜が明ける――






 広がった光の輪は『ナイトメア』によって発生した“夜”を押し返す様に広がった。

 それは『土坂』の戦場まで届くも、力を強めた『ナイトメア』に止められて拮抗。

 そして更に力の増す『ナイトメア』によって塗り潰すが如く、空は再び“夜”に包まれた。


「っ……」

「巫女様!?」


 強い疲労感を感じたソニラは一度フラつき、ヴェーダが声を上げる。


「……大丈夫です。少し、集中します。ヴェーダ、邪魔が入らない様にしてください」

「はい!」


 ソニラの身体は『虹光の柱』と同調する様に虹色の光に包まれていく。


 太陽を取り戻そうとすれば【夜王】は前に出れず『ナイトメア』を使わざる得ないだろう。【極光剣】は必ず戻る。それまで、【夜王】を抑えて置かねば。






「うっふっふ~♪ 夜は……何も陽気を遮断するだけじゃ無いのよ~♪」


 実験体と共に『ビリジア密林』を抜けたメアリーは崖上から『太陽の里』をうっとりと見下ろした。


「ここが……“あの方”を強く感じられる場所……うふふ♪」

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