第273話 乱戦
「戦場における、集団戦闘講座を始めるぞー」
オレは広場にて『夜軍』との衝突する際に必要になってくる立ち回りについてのレクチャーを始めていた。(無論『千年華』のエプロンを装備)
『円陣』では観客席に使われている円形の段席には、老若男女の『太陽の戦士』が座り、オレが見える様に扇状に座っている。
全員に聞こえる様に『音魔法』で声を飛ばしていると、バッ! と席に座るカイルが手を上げた。
「はい! おっさん!」
「どうした? 我が弟子よ。まだ何も言ってないが?」
「普通に戦うのと何が違うの? 皆、いつも通り連携すれば余裕じゃん」
『太陽の戦士』は各々が高い実力と戦士を選ばない連携力がある。長年の戦いの中で生存力を上げることを考えた故に洗練された戦闘スタイルなのだろう。
カイルに関しても『星の探索者』は戦争なんて経験するクランじゃないからその手の経験は皆無。前に『古代砂海軍』と衝突した際にはクランメンバー総出で戦い、マスターが一瞬で終わらせたみたいだしイメージが無いんだろう。
「残念ながら余裕じゃない。このまま戦えば保って一時間でオレ達は『太陽の里』まで退却しなきゃならなくなる」
オレの言葉に場がざわつく。
「その理由を聞こう」
ざわつきはゼフィラの質問で止まった。
「体力切れだ」
「それは無い。我々は『戦士』だ。少なくとも24時間は戦い続けられる」
そーだぞー! 嘗めるなよー! とゼフィラに賛同する声が上がる。
「それは呼吸が出来る場合の話だ」
「? 意味がわからん」
体格の大きいスワラジャの爺さんが腕を組んで唸る。
「四方戦線。戦場における歩兵のぶつかり合いは、常に四方からの敵意に注視する必要がある」
「そのくらいなら――」
「回避行動は取れない」
プリヤが言いたい事に対してオレは先に結論を出して止める。
「敵も味方も入り乱れる戦場だ。眼につく奴を倒しても次、また次と押し寄せてくる。そいつら全員がこっちを殺す事だけを念頭に置いて武器を向けて来るんだ。手加減は出来ない。こっちはずっと全力疾走してる様なモンだよ」
「だが、それだけで一時間も掛からずに退却する事になるのは些か大袈裟じゃないかい?」
ライラックは、まだ理解の追い付かない『太陽の戦士』達の思ってる事を口にした。
「常に周囲から死の危機に晒されつつ、目の前の敵を次から次へ相手にする。こっちが動けなくなるまで永遠にだ」
「俺達には『極光術』がある! 奴らには有効なハズだ!」
「相手がソレに対して何も対策を取らないワケがないだろ?」
昔は『太陽の戦士』を侮った故に、『三陽士』だけで圧勝できたのだろう。
しかし、今回の相手は『太陽の戦士』の事を深く知る【夜王】ブラッド・ナイトだ。間違いなくこちらに対する阻害を行ってくる。
「基本的には敵との衝突で『極光術』の力は半減するモノだと考えて置いた方がいい。しかも相手は雑魚じゃなくて精鋭だ。一人一人がそう簡単にはやられない。人数で勝ってる以上、盾もって突っ込んでくる人海戦術をやられるだけでこっちが圧殺される」
「じゃあ、私達に勝ち目、無いの?」
チトラが不安そうに聞いてくるが、そんな事は全然ない。
「いや、『太陽の戦士』が積み上げてきた“連携力”と“陽気”への理解。この二つがあれば十分に戦線を維持できる」
オレは鉄の棒を使って皆に見える様に地面に戦場での布陣を描きつつ説明した。
「ローハン、これは――」
「最前線精鋭の維持だ。『太陽の戦士』の連携力ならこれくらい行けるだろ。群にはペアでもチームでも勝てない。ならこっちも群で当たるしかない」
「しかし、これに大前提となる地形は何処にもないぞ?」
「これから皆で掘るんだよ。『ビリジア密林』をな」
その後、オレが現場監督やって『太陽の民』総出で『土坂』を作った。
正直な所、半信半疑なヤツが多かったと思う。
俺達『太陽の戦士』が戦いの中で息を切らす事があるのか? と誰もが思ったハズだ。
「『極光の手甲』!」
夜。乱戦。気が抜けず、常に殺気に当てられ続けている。
目の前のヤツをぶっ飛ばしても一撃で倒れない。打ち込む『陽気』の一部が弾かれている様な感覚は、敵の一人一人が加護を付与されている様だった。
精神と肉体から来る両方の疲労から、いつの間にか息を切らしていた。
“『極光の手甲』の一撃では敵は倒れない。『光剣』と『御光の剣』を使える者が中心となり相対せよ”
丘を越えようとした敵を迎撃したゼフィラ様が思った以上に敵の能力が高くなっている事を示唆した。
「! っと――」
敵の後ろから槍が突き出て、ソレを避けた先には剣を振り降ろす敵が居た。
隣で戦っていたハズの仲間がいつの間にか居ない。気がつけば自分だけ孤立――
斧、剣、槍、鉄槌。俺を確実に殺す意思を持って、それらが四方から襲いかかる。
避ける……防ぐ……倒す……どれも――無理だ……
「……あっ……」
死ぬ。向けられてくる武器と敵の殺意に当てられて、最後に俺は硬直した――
「どっ! オッラァ!!」
その時、横からカイルが駆けてきた。
槍を持ってるヤツを蹴りで吹っ飛ばし、その反動を利用して剣を持ってるヤツへ切り返すと鎧ごと切り裂き、斧を振り下ろすヤツへは持っている剣を投げ刺す。
そして、カイルの背後に鉄槌を振り上げたヤツを俺は『極光の手甲』でぶん殴って吹っ飛ばす。
「サンキュー、クォーラ」
カイルは、にへっ、と笑って俺にお礼を言うと斧のヤツに投げた自分の剣を回収する。薄く汗を掻いては居るが、まだまだ余裕な感じだ。
「お、この剣も使えるじゃん。ラッキー」
自分の剣を鞘に納め、敵の剣を手に取って一度振って感触を確かめる。
「後ろにスワラジャの爺ちゃんが居るから、一旦あっちと合流しろな。じゃ!」
「あ、カイル――」
俺が礼を言う間も無くカイルは、お前はおっさんより強くねぇー! と叫び笑いながら敵へ突っ込んで行った。
「……良い女過ぎるだろ」
この戦いが終わったら絶対に告白する!




