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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第242話 世界を滅ぼす『極光術』

「ねぇ貴方」

「ん? ヒヒヒ。なんだい、お嬢ちゃん」

「私はメアリー。メアリー・ナイト」

「ヒヒヒ。こりゃ、とんだ大物がこんな奴隷の檻になんの様だい?」

「貴方、『太陽の民』でしょ?」

「……ヒヒヒ。何を言ってるのか解らねぇな?」

「貴方を見逃す。だから、私の望みを聞いてくれる?」

「……俺の言葉は無視かい?」

「聞いてくれる?」

「……まぁ聞くだけ聞くよ」

「ありがとう♪ 私、会いたいヒトが居るの――」


 その『吸血族』の少女は叶えてはならない望みを語った。






「よーし、来たな。ディーヤ」


 ディーヤはソニカへの報告を終えたその足でシルバームの自宅にある小さな修練場にやってきていた。

 『グリフォン』の幼体が物珍しげにディーヤの周りをウロウロする。


「ハイペリオン。こっちに来い」


 シルバームの言葉をハイペリオンはまだ理解していない様子で小さな翼を開くと、家の屋根に着地した。


「おーい。……まだ躾中でな。餌の時は降りてくるんだぜ?」

「シルバーム様。新しい技ヲ教えてくれるト聞きましタ」

「おっと、すまんな」


 『グリフォン』自慢はそこそこにシルバームは本題に入る事にした。


「これからお前に教えるのは俺の長年の研究の成果でな。いや……俺の一族が追い求めていた集大成と言える『極光術』だ」


 『太陽の里』でもチャラチャラしたイメージが強いシルバームであるが、彼は腐っても『太陽の戦士』が使う『極光術』を編み出す家系である。

 そんな彼が編み出した新たな『極光術』をこのタイミングで教えるとなると、先の戦いにおいて重要なモノだとディーヤは悟った。

 緊張しつつ気合いを入れて聞き返す。


「い、一体どのようナ……」

「まぁ、座って話そうぜ。いきなり覚えろ、は俺のスタンスじゃない」


 シルバームは椅子を寄せて座るとディーヤも、差し出された椅子に、ちょこん、と座る。


「お前は『太陽の民』に伝わる最古の伝説を知ってるか?」

「一番古い伝説……【世界覚】エデンと『太陽の民』の事ですカ?」

「いいや、それよりもっと古い。『太陽の民』と言う定義が生まれる前から、俺たちに存在する二つの『秘宝』の事だ」


 それは今となっては文献も廃れ、口伝でしか残っていない。しかし、その口伝も途絶え途絶えであり、いずれは全て失われていく段階にあった。


「二つの……『秘宝』?」

「『虹色の光』ブリューナク。『極光の主』クラウソラス」

「ブリューナク……クラウソラス……」


 初めて聞く言葉にディーヤは反復するように聞き返す。


「この二つは名前だけが俺の家系に伝わっていてな。本来はどんなモンなのかは不明だが……二つに共通言い伝えとして、発動すれば勝利をもたらすと言われている」

「勝利……」

「『極光術』は多くあるが、その中でも現代で使えるモノを編纂して『太陽の戦士』が会得できる形にしたモノは全部で三つある」

「『極光の手甲(ガントレット)』『御光の剣』『極光の外套(ファラング)』ですネ」

「そうだ。研鑽を積めば『太陽の戦士』はその三つが会得可能だ。だが、ソレらは本来『恩寵』に合わせて調整したモノなんだよ」


 『恩寵』を使うことで本来の出力を生む。『三陽士』以外の『太陽の戦士』が振るうとなればかなりの陽気を必要とするだろう。


「まぁ、その三つをマイルドにしたのが『光拳』『光刃』。こっちは『太陽の戦士』は全員使える」


 それらは『極光術』の基礎となる二つ。『太陽の戦士』は『光拳』『光刃』を使える様になる事で一人前であると言われる。


「だが、俺は昔の伝説が気になってな。そもそも、夜に苦しむ『太陽の民』が『太陽の大地』が無い最古の時代はどうやって命を繋いで来たのか。その理由を考えていた」


 文献は残っていなくても里に多くのヒントがあった。そして、ベクトランの命を狙う50年の投獄生活でたどり着いたのである。


「『ブリューナク』はあらゆるモノを陽気へと変える究極の『極光術』だ」

「あらゆるモノを……『陽気』ニ?」

「固体や液体を問わずにあらゆるモノをな」


 ソレは目の前の常識を別の角度から見るシルバームだったからこそ気づいたのである。


「『太陽の大地』が出来てから安定して『陽気』を得られるようになった『太陽の民』は『ブリューナク』を必要としなくなった。故に技術は次第に廃れていき、今では誰も必要としない」

「…………忘れるべきでは無かったでス」

「いや、実はなそうとも言えないんだ。『ブリューナク』は本来なら使うべきじゃないんだよ」

「?」


 シルバームは『ブリューナク』の危険性をディーヤへ伝える。


「さっきも言ったが『ブリューナク』はあらゆるモノの“『陽気』へと変える”。つまり『陽気』が足りない時は『ブリューナク』を絶えず使ってたんだろう」

「……それでハ……まだ『太陽の大地』が無かった頃ハ……同胞が犠牲ニ?」

「いや、俺の推測だが……先祖は他の存在を『陽気』に変えて生き延びていたんだ」


 【世界覚】エデン・ノーレッジは『ナイトメアロッド』にて『太陽の大地』を作る事で『太陽の民』を助けた。

 だが、それ以上に犠牲となるモノ達を減らす事が一番の理由だったのだとシルバームは考えている。


「俺もベクトランでソレを確認してる。だから、『ブリューナク』を得る奴は誰よりも己を律する必要がある」


 『太陽の戦士』全てが『ブリューナク』を使えるのではあれば、滅びの始まりと言えるだろう。

 もとより安住の地を求めていた『太陽の民』は『太陽の大地』を手に入れた事で余計な脅威を減らす為に『ブリューナク』を廃らせる事を決めたのだとシルバームは結論づけていた。


「…………ディーヤにソレが勤まるのでしょうカ?」

「お前じゃ無きゃダメだ」


 シルバームはディーヤを見据えた。


「お前は大切な者達を失っても己で道を見つけて立ち上がった。だからこそ『ブリューナク』を正しく使えると俺は思っている」

「シルバーム様……」

「とは言え、会得は簡単じゃない。かなり辛いぞ? それに戦争に間に合うかはお前次第になる」

「……『ブリューナク』を覚えれバ……【夜王】を倒しテ……みんなを護れますカ?」


 その言葉と強い意志を宿すディーヤの瞳にシルバームは驚くと、フッ、と笑う。


「ああ。お前なら出来るさ」


 そう告げるシルバームにディーヤは、宜しくお願いしまス、と頭を下げた。

 そのシルバームの笑みが、知恵を教えてくれたアシュカや戦い方を教えてくれたシヴァと重なった気がしたからだった。

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