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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第191話 ここより先は【極光壁】

 ボロボロの王の間には『ロイヤルガード』の他に『ナイトパレス』全域を管理する宰相や臣下の面々も召集されていた。


「『戦士長』シヴァを討った。ヤツは『恩寵』を持つ『三陽士』【極光波】だった」

「……『ロイヤルガード』の一人として無様な真似を晒し、申し訳ありません」


 王の間に呼ばれた『ロイヤルガード』の中で、腕を治療されたミッドは頭を垂れて謝罪する。

 ブラットはそんなミッドを、王座に座り、見下ろしながら告げる。


「ミッドよ、気に病むな。ヤツはお前達三人では成す術もなかっただろう。クロエ以外ではな」

「恐縮です」

「…………」


 そう応えるクロエに、ミッドは悔しそうに、ぎりっと奥歯を噛み締める。


「私も『ナイトメア』に対し更なる理解を得た。故に『太陽の大地』へ侵攻する」


 その言葉にミッドは顔を上げ、メアリーは、あら、と自分の頬に手を当てる。長子ネストーレは無言で聞く。


「陛下、徴兵が必要です」


 すると、『ナイトパレス』の軍事力を把握し管理する臣下が声を上げた。


「『ナイトパレス』全域の兵はかき集めても約500。これだけでは『太陽の大地』へ侵攻するには到底足りません」


 “夜”が『太陽の民』にとって毒である様に、“太陽”は『吸血族』にとっての毒。まともに行動できるのはクロエだけだろう。


「前回のクロエ様の強襲は相手が油断していた故に通った一回きりの作戦です。しかも、当初の作戦内容をから大きく外れて、クロエ様の突破力と、アドリブを重ねてようやくでした」


 クロエは単身で突破し『太陽の巫女』を傷つけた。しかし、逆を返せば傷つける(・・・・)事しか出来なかったとも言える。


「現在はクロエ様の実力も『太陽の民』には周知されています。太陽に対する対策が無い以上、兵は一万は必要かと……」

「200で十分だ」


 臣下の予想を切り捨てるようなブラットの言葉に他の者達がざわめく。200など自殺志願者を選定する様なモノだ。


「し、しかし陛下――」

「太陽の恐ろしさは私が一番良く知っている。その化身とも呼べる【極光波】と戦い、より理解を深めた上でな」


 乾燥し、焦げた旗に、破壊された『魔剣ヴェノム』。

 夜の中心『ナイトパレス』の首都。更に【夜王】の秘宝『ナイトメア』を使っても尚、この被害。その王の間の戦い跡を見れば、【極光波】はブラット以外では成す術もなく殺られていた事が深く理解できるだろう。


「その上で侵攻できると判断したのだ。次の戦いが終われば我々は太陽に怯える事は無くなる。『太陽の大地』を夜に染め上げる事で、永劫なる夜の帝国が始まるのだ」


 その言葉に誰も意見しない。それを現実に成せると思えるほどの力を場の全員がブラットから感じ取ったからである。


「無言は肯定とする。200の精鋭を招集せよ。二週間後に『太陽の大地』へ侵攻する」


 場の全員がその王命に返事をする中、王座の頭上に浮かぶ、秘宝『ナイトメア』は漆黒を放っていた。






「いや、そうじゃなくてな。手綱を引いて停止。馬は全身しか出来ないから、それを念頭に置いてだな――」

「ええっと……こう!」

「うおっ!?」


 オレはカイルに馬車の扱い方をレクチャーしていた。

 しかし、繊細な事が作業が苦手な愛弟子は馬を引っ張る力加減が掴めず、馬車は急停止する。


「きゅ、急に止まった……」

「カイルよぉ、馬は生物なんだぜ? お前も後ろから首をクイってやられると前に進めないだろ?」

「うん」

「だから、止める時はゆっくり引け。じゃないとびっくりするから」

「わかった」

「よし、そんじゃ手綱を波らせて走らせろ」

「よっ」(ぺちん)

「もっと強く」

「だぁ!!」(バシン!) ヒヒーン。


 再びパカる。おっおっ、おお!! と後ろに引っ張られる重力を受けつつカイルは感動してるな。こう言う反応は見てて楽しいぜ。


「急に止まったり動いたリ。何をやってるんダ……」


 すると休んでいたディーヤが荷台から顔を出してきた。


「ディーヤ、道は太陽を目指せば良いんだよな?」


 オレはクシの事はなるべく話題に出さない方向で行く。


「アア。ダいぶ明るくなってきタ」


 『ナイトパレス』の首都を離れる程に明るさが増す。今見ても本当に異常な地域だ。マスターが見たら眼を輝かせそう。


「アの山。光柱が見えるだロ?」


 地平線の先は広域に太陽の光が降り注いで明るくなっているが、更にその中で一際強い光の柱が存在する箇所が見える。


「アそこが『太陽の大地』の中心地ダ」


 “陽気”をこの辺りからも得始めているのか、ディーヤの様子は前よりも力強く感じる。

 すると、更に荷台からプリヤとチトラが顔を出した。


「あー、ホント潤う……」

「やっぱり、太陽は良い」


 国境らしきモノは無いが、自然と周囲の環境は夜から昼へと変わり、馬車は光の柱を目指して駆けていく。

 レイモンドは、ぐっすり寝ており、クシの遺体は布でくるんである。


「うぉ!? たぁ!? くそっ! ええい!」


 手綱に苦戦するカイルの声をBGMにしているとプリヤが、


「ちびっ子。アンタね、ゼフィラさんからの折檻を覚悟しなさいよ」

「…………」

「ディーヤ。クシの事を差し引いてもゼフィラさんに泣き落としは通用しない」

「はっ! よっ! はぁぁぁ!!」(カイル)

「そのゼフィラってのが『太陽の巫女』さんか?」


 オレは三人の会話に割り込む。カイルは放置で大丈夫そうだ。


「違うわ。ゼフィラさんは『三陽士』の一人で【極光壁】」

「『太陽の大地』にいる民を護るのが【極光壁】の仕事」

「だから安心出来るんだよねぇ。ほら、あそこにトーテムポールあるでしょ? 中心地に近づけば近づくほど、ゼフィラさんに護られ――」


 その時、オレとカイルは運転席から弾かれた。唐突に押し退けられた様に落馬する。

 カイルは、なんだぁ!? と即座に反応して着地。

 オレは受け身を取って転がって衝撃を逃がす。痛てて……誰だよ。クロエに斬られた傷が開くだろが!


 手綱は咄嗟にプリヤが取って馬車を急停止。ふー、と息を吐いて安堵している様を確認。


「ったく。一体なんだ?」

「おっさん、もう少しで馬と解り合えそうな気がする!」


 カイル君は落とされた謎攻撃よりも、操馬の方に興味がある様だ。すると、


「ゲッ……」

「ゼフィラさん……」

「……ゼフィラ様」

「ううん……何ですか? 急に止まって……」


 休息を邪魔されて不機嫌なレイモンドも出てきたが、オレとカイルの目の前には全く知らない女が現れた。


「ここより先は【極光壁】。故に『太陽の民』とその身内以外は越えられない」


 その女は見下すような鋭い目付きで、そんな言ってきた。嫌な空気だ。

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