第189話 一切の光無く
「スマン、アシュカ! ワシは世界を見てくる! じゃからあの話は保留にしてくれ!」
シヴァは『戦士長』就任を言い渡された後に幼馴染みのアシュカにだけそう打ち明けた。
「12時間後には『戦士長』なってしまう! そうなれば『太陽の大地』から自由に離れられん! チャンスは今しか――」
「そうか。【極光波】のお前なら外での活動に支障はあるまい。なに、私一人でも大丈夫だ。それと、『太陽の大地』とは違って外には交互に昼と夜があるからな。『太陽石』の陽気保持は怠るなよ。後、旅先で何か良さげな料理とか見つけたらレシピを手紙で送ってくれ」
シヴァが72時間悩んだ末の決断を受けた【極光剣】アシュカは、8時間後に授業を受ける子供達への教材作りをしながらそう返した。
「……引き止めんのか?」
意外な反応にシヴァは思わずそう聞き返す。アシュカは笑って振り返る。
「お前は『太陽の大地』に留まる様なヤツじゃないと思っていた。100年前から外に行きたそうにウズウズしてるのは解ってたぞ」
「やれやれ、“先生”と呼ばれるんがそんなに嬉しいんか?」
「ああ。嬉しいぞ。特に次の世代はもう追い付いて来ている。彼らがより強く歩む事に少しでも助けられるなら“先生”をやる価値はある」
「次の世代のぅ……ディーヤに『恩寵』の適正があった事か?」
「それは関係ない。ディーヤはいずれ誰かの『恩寵』を継ぐだろうが……まだ幼い。だから私達が導いてやればいい」
その後、シヴァは『太陽の大地』を離れて旅に出た。世界各地を巡り、旅が20年目に入った所で“夜”が広がっていると言う話を聞き『太陽の大地』へ帰郷。
夜と太陽を巡っての戦いによりアシュカは【夜王】との激戦の末に戦死したと知らされた。
シヴァは前から空席だった『戦士長』の席に正式に着く。盟約が効果を成さない事を理解し『ナイトパレス』への進行を『巫女』に提案するものの、
「『ナイトパレス』の“夜”はおかしいのです。シヴァ、貴方でもどうなるのか解らないわ。その時が来るまで力を磨きなさい」
夜は『太陽の民』にとって忌むべきモノ。故に未知数であり、決して侮ってはならない。
それから状況が拮抗して10年の歳月が経ち、クロエ・ヴォンガルフの襲撃が起こった。丁度、シヴァが『古代種』『地雷龍』と戦っている最中の出来事である。
「……やってくれるのぅ」
【極光壁】と【極光剣】が防備に当たるも、クロエに突破され『巫女』を傷つけられた。
同時に避難所もメアリー・ナイトが襲撃。
旅人のレイモンドの活躍により大事には至らなかったが、数名の子供を拐われ、その中にはクシが含まれていた。
即座に救出作戦が打診され。同時にディーヤが姿を消した。恐らく、クシを助けに行ったのだろう。
「ワシが連れ戻す」
その『戦士長』の決断を最早誰も否定しなかった。
「【極光波】シヴァ。貴殿の敗因は『太陽の民』であった事だ」
『ナイトメア』と完全に同調したブラットはシヴァを夜の中へと飲み込む。それは永劫に光を通さぬ夜であった。
「生と死の狭間は“進化”を加速させる。私に死ぬ覚悟が無いと思ったか?」
ブラットが夜に包まれた腕を支配者の様にかざすと周囲の夜が濃さを増し、シヴァの存在を全て飲み込む様に空間ごと縮んで行く。
「これで、夜の元に全てが繋がるのだ。礼を言うぞ。貴殿との戦いに死を感じなければ、ここまで『ナイトメア』を理解する事は出来なかった」
「なんじゃ。それならワシと同じってことかよ」
「なに? !?」
瞬間、爆発するような“陽気”をシヴァは放ち、ブラットは本気で抑え込みに集中する。
「テメェよりもよぉ! 死ぬの覚悟なんざ戦士としては生まれた時から、済ませとるんじゃ!」
この男……まだこれ程の“陽気”を!? 首都を吹き飛ばすつもりか!?
「さっきも言ったハズじゃ。家族の――妻の敵を死んでも討つとのぅ!!」
“そうだ、シヴァ。帰ったら式を上げる事を養子に迎えるディーヤとクシには話しとくぞ。帰ってきたら父と呼ばれたいだろう?”
シヴァは『太陽の大地』から、こそっと発つ日に一人見送りに来たアシュカにそう言われた事を思い出す。
「……別にええわい。ワシはあの二人に何も与えてないからのぅ」
当時返した言葉をシヴァは再び口にして笑う。
夜がシヴァの『極光の外套』を無理やり抑え込む様に光を覆っていく。
アシュカ、お前が戦士として死んだ事をワシは誇りに思う。
ディーヤ、クシの事はあまり過保護になりすぎるな。
「皆の衆、後は任せる――」
その姿は夜の中へ消えると『ナイトメア』に取り込まれた。
一切の光無く――




