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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第184話 『太陽の民』風情が!

 『幻覚煙』はレイモンドが退却用に持っていた煙幕を、オレが街中で花として売られていた薬草を使って改良した代物だ。

 本来は無害なモノ同士だが、適切な配合をする事で空気より比重の重い『幻覚煙』となる。

 オレはパーティー会場に行ったときに【夜王】の演説の最中にテーブルの下に転がしておいて、リースへ離脱するときにピンを抜く様に告げておいたのだ。


「ローハンさん、大丈夫ですか」

「助かったぜ……レイモンド」


 結果、場の面々は幻覚を見る。追撃をさせない時間稼ぎには十分だっただろうし、クロエの『ロイヤルガード』としての“顔”も保てた。アイツにはまだスパイをやっててもらわんとな。


 オレはマスクをつけたレイモンドに抱えられながら、パーティー会場から離脱し何とか裏路地まで逃げ延びた所である。


『だ、大丈夫ですか!? ローハンさん!』

「ほら、やっぱり俺も行った方が良かったじゃん!」


 心配そうに寄ってくるリースとカイルが各々声を上げる。

 カイルは退却要員の予備として待機して貰っていたのだ。


「カイル、お前が来たらもっと収集がつかなくなったぜ」


 カイルは幻覚の影響をモロに受けるだろうからな。


「収穫はありました?」


 壁に背を預けて座るオレに手を貸してくれたレイモンドが聞いてくる。


「まだ推測の域は出ない。【夜王】と戦れれば良かったんだが……お高く止まってた事と、クロエの割り込みが早すぎた」


 まぁ……『ロイヤルガード』としてなら仕方ない動きか。肩と足の斬り傷。足に関しては少し治療の間が必要だ。痛みだけは消しておく。

 まったく。オレの事を刻み過ぎだろあの女……


「『ナイトメア』は間違いなくアーティファクトだが……アレは“杖”じゃない」

「? じゃあ、ここに『ないとめあろっど』は無いのか?」

『……近づいた時に解ったんですが『ナイトメア』に石碑を解く魔力の断片を感じました。恐らく……』

「多分、『ナイトメアロッド』は今、二つに分かれてる」


 リースの今の言葉で確信。

 想定してた中で一番面倒なことになった。恐らく、もう片方――『太陽の民』の情報も必要になるだろう。


「レイモンド『太陽の巫女』に取り次げないか?」

「可能です」

「じゃあ、今度はディーヤのトコだな!」

「痛てて……今夜中に『ナイトパレス』から離れるぞ」

『今夜中ですか?』

「ああ。今すぐだ。プリアとチトラを拾って『太陽の大地』に行く。『ナイトパレス』に留まるのは危険だ」

「後、ディーヤもだぜ、おっさん!」

「アイツの用事が済んでたらな」


 【夜王】ブラット・ナイト。

 もしも、オレの想像通りなら……ヤツは本当に“不死”だろう。だが、そのカラクリは【死霊王】と同じだ。


「ネストーレが言ってた事が本当なら、シヴァに期待するしかねぇ」






 『御光の剣』による一閃は『独房棟』を大きく斬りズラし、それによって事態に気づいた衛士たちがディーヤへ殺到していた。


「『太陽の民』風情が! こんな所まで侵入しおってからにっ!」

「新しい個体だ! 捕まえたヤツが金一封だぞ!」

「協力して捕まえたら割り勘で良いんだよなぁ?!」

「『御光の剣』!!」

「「「ぎゃぁぁぁぁ!!」」」


 ディーヤは通路から湧いてくる敵を怒りのままに吹き飛ばすが、徐々に技の精度と出力が弱くなる。


「ハァ……ハァ……」

「疲れてるぞ! 今だ! 網を投げろ!」

「『極光の外套(ファラング)』!!」


 バサッ、と覆い被さる様に放られた網を焼き飛ばすほどの“陽気”を放つ。そのまま敵をも焼き尽くす『極光の外套』は近くの鉄格子のロックする魔法陣を停止させた。


 すると、一斉に鉄格子は拘束としての機能を失い、中に収容されていたモノたちが出てくる。


「ハァ……ハァ……」


 ディーヤは息切れを起こし膝をつく。『極光の外套』の範囲外だった敵の生き残りに視線を向ける。


「! 何て事を! 鐘を鳴らして施設全体に伝えろ! 拘束していた実験体が逃げ出し――」


 と、声を上げて指示を出していた『吸血鬼』の男は唐突に液体に浴びせられると、蒸発する音と共に溶け始めた。


「ぎゃぁぁぁぁ!?」

「きゅーきゅー」


 そんな鳴き声を出しながら檻から這い出る様に現れたのは、魔物『溶解蠍』である。


「どうやら、自由か」


 すると、片腕と片目の無い『海人』がディーヤと並ぶ様に立つ。


「我々に自由を与えてくれた事を感謝する。小さき戦士よ」


 他の檻からも、ザワザワ……と実験の末に原形を失ったモノ達が這い出てきた。

 あらゆる種族と魔物。それらを混ぜ合わされたモノまで居る。ソレらは『海人』とディーヤを追い抜いてゾロゾロと外へ向かって出て行った。


 貴様ら檻に戻――ぐわっ! か、鐘を鳴らせ! わぎゃあ!?

 などと阿鼻叫喚な悲鳴が聞こえてくる。

 ディーヤはそんな事よりも、ふらつきながら檻の中で横たわる(クシ)に歩み寄る。


「……ディーヤはクシを迎えに来ただけダ」

「ならば、今の内に行くが良い。我々が時間を稼ごう」

「…………オ前達も逃げるんだロ?」

「我々は長い実験の末に最早命は長くはない。それに元に戻れぬ者もいる。だが……クシがその様な運命を辿る必要はない」

「…………ソうカ」


 『海人』とクシの関係は良く解らないが、今の優先は彼らではない。弟を背負うと少しだけ握り返す力を感じた。


「モう、大丈夫だ、クシ。ディーヤが居ル」


 すると、何事かと様子を見に来た衛士がディーヤと『海人』を見つけ声を上げた。


「! 貴様ら! 大人しく檻に戻――」


 と、言葉を言い切る前に『海人』は斬られた鉄格子を引っこ抜いて衛士に投げると、その身体を貫いて絶命させた。ぐえっ、と短い悲鳴を響かせる。


「小さき戦士よ。何も考えず走れ!」

「アリガトウ」


 壁に張り付けになった衛士の前でディーヤと『海人』は別れて駆け出す。

 大混乱の『独房棟』の最中、ディーヤはクシを連れて脱出を開始した。






「あらあら。とても……とても騒がしいわねぇ……」


 その『独房棟』の正面入口に停まった馬車から降りるメアリーは、頬に手を当てて冷ややかに微笑む。

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