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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第178話 【夜王】の演説

 ブラットがパーティーの壇上に上がると、騒がしかった会場が静まり返った。

 ソレは【夜王】の“威”であり『ナイトパレス』の絶対者による言葉は決して遮ってはならないと知っているからである。

 かの王の機嫌を損ねるだけで貴族と言えど平民以下の位まで、即座に落とされるだろう。


「今宵は我が国の1000年の節目に貴公達と立ち会えることを心から嬉しく思う」


 ブラットの演説が始まる。彼の三人の実子も後ろに立つクロエも、場に集まった貴族の面々も静かに聞き入る。


「我々の先祖は過去にこの地へ流れて来た。言い伝えでは生存競争に負けたと言う……否! それは誤りだ!」


 ブラットは力強く宣言する様に語気を強く叫ぶ。


「我々は敗者などではない! その証拠が、この1000年続いた『ナイトパレス』だ! 私が王となった事、そして秘宝『ナイトメア』により夜が広がる事、これらは世界に定められた結末である!」


 そう言いつつブラットが手を翳すと、夜が形作る様に一つのブローチ――『ナイトメア』が会場の頭上に浮いていた。

 『ナイトメア』は夜よりも濃い闇を靄のように纏っている。


「この私――【夜王】ブラット・ナイトがここに宣言しよう! 『ナイトパレス』は滅びぬ! そして、世界を支配する永久の帝国となることを!!」


 オォ!!

 と、歓声が上がり拍手が起こる。それは、ブラットの言うことが妄言や虚言ではなく、本当に実現できると理解した故の称賛であった。


「本日はその節目となる! この日を我々の歴史に刻もう!」


 場の雰囲気や貴族達の気分は最高潮となる。






“流石は陛下”

“『太陽の民』には煮えにを飲まされ続けてますからなぁ”

“奴らも知れずと降伏してくるでしょう”

“その時は愛玩として飼うのも良いですな”

“ははは。餌代がかさみますぞ”


 などと『太陽の民』など眼中に無い様子でパーティーを再開する。それもそのハズ。

 『太陽の民』は夜に生きられない。

 広がり続ける夜を前にいずれ成す術もなく絶滅する奴らを誰が気にかけようか。


 宙に浮いた『ナイトメア』をブラットを手元にゆっくり降ろすとその手に握り、首からペンダントの様に下げた。


「ご立派な演説でした」

「クロエ、ミッドを呼んでくれるか? 話があると――」

「おおっ! まさに伝説が始まった瞬間に立ち会えたと言う所ですな! 実に心を揺さぶる演説! 実に感銘したしましたぞ、ブラット殿下!」


 その時、横から軽薄に話しかけて来た男がいた。礼服に身を包み、頭にはシルクハット。片眼鏡(モノクル)に髪の毛をオールバックに纏めた中年の男である。

 姿勢が良く、気品のある雰囲気は金に糸目をつけない階級の格を感じさせる。

 クロエが、警戒する様にブラットの前に出た。


「おや、こちらのレディも中々な美人だ! どうかなお嬢さん。私と一曲踊りませんか? 良ければその後も二人きりで夜を――」

「……仕事中ですので」


 クロエの返答に男は笑う。


「これはフラれましたか! はっはっは」

「御仁、パーティーを楽しんで行くと良い。それでは――」


 ブラットは貴族の誰かが招いた外からの客であると理解したが手間をかける事もないと考えて興味なく歩み出し――


「殿下、『シーアーサーブレード』は実在しましたぞ」


 その言葉に動きを止めた。そして振り向かずに返答する。


「……海底の錆びた夢だな」

「いえ、最新ですよ。殿下程の方であれば噂くらいはここに届いているのでは? アーサー・ペルギウスが『シーモール』に現れた、と」


 クロエは無言。ブラットは男へ向き直る。


「……名を聞いても宜しいか? 御仁」

「ルシアン・B・ドラグスです、陛下。以後お見知りおきを。ちなみに先程の話は興味がおありで?」


 ルシアンはニッ、と笑い。クロエは今頃、どこぞの【審判官】がデスクに座って、くしゃみをしていると察し、軽く嘆息を吐いた。






「あら、珍しいわ」


 メアリーは父に臆する事無く話しかけるルシアンを見て物珍しく感じる。

 御父様は媚を売る者を極端に嫌い、興味が無ければ見向きもしない。そして、無理に取り繕うとすれば低下層まで身分を剥奪される事もある。

 そんな御父様が歩みを返すなんて……ねぇ。


「外からの客かな? 陛下を話しかけるなんてね」


 ネストーレはワインをクイッと飲む。


「羽振りは良さそうだぜ? どっかのアホな商人だろ」


 ミッドは父が足を止めた事は気になったが、大方物珍しい話題で一時的に釣ったのだと察する。


「…………」


 メアリーはルシアンをじっと見る。その瞳には魔法陣が現れ、“魔眼”となりルシアンの本質を探った。その時――


「メアリー様。宜しいでしょうか」


 その時、会場の雑務をしているボーイが畏まってやって来た。メアリーは不機嫌に“魔眼”を元に戻す。


「もぅ……下らない事だったら貴方を“開く”わよ」

「も、申し訳ありません。緊急との事で……」


 ボーイは預かったメモをメアリーに手渡す。それを、ピラッと開いて読むと、彼女の表情はみるみる上機嫌になっていく。


「あはっ。ここも惜しいけど、こっちが優先ね♪」

「どうした? メアリー」

「用事か? メア姉」

「ええ。ネズミ取りに獲物が掛かったの。先に失礼するわ」


 メアリーは立ち上がるとルシアンと話をするブラットを見る。こちらを振り向かないが、丁寧に会釈し会場を後にした。

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