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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第175話 世界に太陽は要らぬ

 首都が遠目で見え始めると、馬車を走らせる道にも変化が出てきた。


「舗装されてるな」


 今までは剥き出しの土の凸凹を走っていたが、馬車の揺れが少なくなった様子から平坦に整備された道に入った様だ。

 首都の整地技術は『アルテミス』に匹敵するかもな。


「揺れないナ」

「おっさん、街まだ?」


 荷台から運転席に顔を出すのは腹ペコツインズ。強盗殲滅ツアーにて手に入れた食料に満たされたカイルとディーヤは間も無く着く『ナイトパレス』の首都が待ち遠しい様子だ。


「もう見えてるからな。ディーヤ、お前は首都に着いたらどうするんだ? 弟を捜すって言ってもアテはあんのか?」

「大丈夫ダ。『太陽の民』の気配は他の者とは違ウ。ドこにいるのかすぐにわかル」

「魔力感知みたいなモンか!」

「魔力? ナンダそれハ」


 え? ン? とカイルとディーヤは互いの認識の違いに頭に?を浮かべた。


「タマニそんな事を言う外来者が居ル。ケド『太陽の民』はそんなモノに頼らなイ」

「えー。でも、お前は常に魔力を吐き出しまくってるぞ?」

「コレは『恩寵』。ディーヤが巫女様から貰った力ダ」

「よくわかんねぇな……」


 ディーヤは自分が魔力を使っている事を自覚していない。オレはディーヤの戦い方を見ていたが、余りにも非効率過ぎるのだ。

 無駄に魔力を纏い、ぶっ放して、とにかく正面を全て破壊する。

 ディーヤが未熟なのか、それとも『太陽の民』の特徴なのかは解らないが……そう言えば。


「ディーヤ。お前、戦化粧と『戦面(クシャトリラ)』を持ってないな」

「あ、そうだ。『太陽の民(おまえら)』って『戦面(クシャトリラ)』持ってんだろ?」

「…………忘れたのダ」

「え?」

「故郷の寝所に忘れて来たのダ! 何度も言わせるナ!」

「お、おう……なんかスマン」


 謎にカイルが謝る構図になってるのは面白いな。急いでたにしても、準備や旅先のプランが余りにも疎かだ。

 ディーヤは『太陽の民』でもかなり未熟な部類か? 『三陽士』って言う偉い戦士だと言うから何か策があると思ったんだがなぁ。


「ソレだけ急がねばならなかっタ。クシは……ディーヤが護ル。ヴァルハラへ行った父と母との約束ダ」

「ヴァルハラ?」

「戦士達の安住の地ダ。『太陽の民』は皆が戦士。生涯戦い続けル。故に死後にようやく休めるのダ」


 そう告げるディーヤの言葉には悲しみはなく、安心した様子を感じさせた。


『弟さんを絶対に助け出しましょう!』

「だな! ディーヤ、俺達も協力するぜ!」

「おいおい。待て待て」


 相手の事情に感化されて本来の目的を見失いそうになっている二人にオレは釘を刺す。


「オレ達はオレ達の事情がある。ディーヤに協力してる暇はねぇぞ」

「あ、そうだった……でもさ!」

「でもじゃない。ディーヤも護られる様な奴じゃないし、オレ達の目的は首都に入るまでが同じだ。それ以降は道が別れるのは解ってただろう」

『うー、ですが……』

「カイル、リース。オ前達が【水面剣士】と仲間である以上、一緒には行動できなイ。馬車を止めてくレ」


 オレは一度路肩に寄せて馬車を停止すると、ディーヤは荷台から降りた。


「ディーヤ……」

「ケド、考えは改めタ。オ前達は良い奴ダ。モシ、どこにも行くアテが無くなったら『太陽の大地』に来るが良イ。歓迎すル」


 オレは簡易食料の包みをディーヤへ投げる。


「考えて食えよ。もし、帰るアテが無いならこの馬車かオレらを探せ。『太陽の大地』とやらに送るくらいの時間はある」

「オッサン……」

「おっさんじゃない。ローハンだ」

「カイル、リース、オッサン。助かっタ。コノ恩は必ず返ス」


 そう言ってディーヤはペコリとお辞儀をすると、タタター、と走って行った。


『行っちゃいましたね……』

「もっと話したかったなー」

「他人は他人。オレらはオレら。行くぞ」


 『太陽の民』と僅かにも繋がりが出来たのは良い事だが……あっちを頼る事態になる時は相当にヤバい状況になるだろうな。






 【夜王】ブラット・ナイト。

 9代目『ナイトパレス』の国王であるが、元は貴族の一つであるナイト家が前王家を都落ちさせて成り上がる事で王座へと座った。

 政治的手腕、圧倒的な実力は比肩する者は皆無と言われる程であるが、何よりも彼が秀でているのは征服欲である。

 自分よりも上にあるモノ、優位であるモノが何よりも許せなかった。


「故になのだ。【太陽の巫女】よ」


 王座の間に浮かぶのは濃い闇を纏う小さなブローチ――秘宝『ナイトメア』。

 ソレは王家となる家柄が代々継ぐ事を義務とされ、『ナイトパレス』周囲を常に夜として維持しているアーティファクトだった。


「陛下」


 そこへ、現れたメイドが丁寧な所作で声をかける。


「本日は建国1000年目となるパーティーが御座います。クロエ様は既に会場の警備指揮を執っておいでです。陛下もご準備を」

「うむ。クロエは実に有能である」


 ブラットはその言葉に身を翻すとメイドはその後ろから続いた。


「セスタ」

「はい。なんでしょう?」

「夜は好きか?」

「勿論でごさいます、陛下」

「私もだ」


 故に許せぬ。

 古き盟約が。

 頭を垂れぬ『太陽の民』が。

 “太陽”そのものが。


「世界に太陽は要らぬ」


 そうする事で我ら『吸血族』の永久の征服が成るのだ。

ディーヤ

挿絵(By みてみん)

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