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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第174話 腹ペコハザード

 ぎゅるるるる!!!


「…………」

『…………』


 ぎゅるるるるー! ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅるるるる!!


「…………」

『ロ、ローハンさん。後どれくらいで首都に着くんですか?』

「橋が壊れてて遠回りしたから、後三日だな」


 ぎゅるるるる! ぎゅぎゅーぎゅるるるる!


 うるせぇなぁ……

 オレは馬車を運転しながら地図を片手に『ナイトパレス』の首都へ向かっていた。

 道中でスレ違う馬車や、宿屋に寄って話を聞いて進むこと四日。最後に人に会ったのは二日前で今は延々と森の中を進んでる。

 ずっと夜と言うだけあって不気味な国だが慣れれば逆になんて事はない。

 問題は周囲の環境よりも荷台から聞こえてくる騒音のような腹の虫の音だ。

 それは二重奏。カイルとディーヤが俯せで死んだように動きを止めて、腹だけを鳴らしているのである。


「腹へったぁ……」

「グぬぬ……エネルギーが足りなイ……」


 そんな声が辛うじて聞こえて来るのでまだ生きてるな。


「おっさん……飯の時間は……まだ?」

「まだだ。二時間前に朝飯を食べただろうが」

「アレっぽっちじゃ……足りン」


 そして、ぎゅるるるる! と訴えてくる。

 ディーヤに関しては『太陽の民』として日光に当たれないので消耗する体力は普段の倍らしい。(ファーストコンタクトの時はマジでギリギリだったようだ)

 しかし、カイルに関しては……なんでこんなに燃費が悪くなってんだ? おかげでエンゲル係数が倍近くに引き上がり、食料はギリギリだぞ。


『なんか……カイルは可笑しくないですか?』

「だよな。アイツも相当食うが、ここまで極端なヤツじゃない――」


 そこまで考えて、ふと思い至った。

 ……『共感覚(ユニゾン)』がディーヤを指定しているのか? そんなまさか……いや、それは十分に考えられる。

 恐らく『太陽の民』の特性を得ているのだろう。こんなデメリットもあるとは。器用なオンオフの制御を教えるにも『共感覚』はオレも深掘りしていない知識である為、今はカイルの感覚に期待するしかない。


「しょうがねぇな」


 オレは近くに川辺を見つけたので、馬車をそちらへ回す。


「早めに飯にするか」

『その方が良さそうですね』


 馬車を止め、運転席から降りるとリースを肩に乗せて荷台の幕を開ける。


「早めに飯にするぞー。道具の用意してくれ」


 そう言うと、カイルとディーヤはズルズルと荷台から這いずって降り、ゾンビのようにキャンプの準備を始めた。

 無言なのは少しでも空腹を紛らわせるだな。普通にヤバい領域まで来ている様だ。

 さて、オレは鍋を――


「ヒャッハー! 金を出しなぁ!」


 あっ……


「やっぱり『太陽の民』だぁ! ツいてるぜぇ!」

「『結晶蝶』が喋ってたぞ! ソイツも売れるぅ!」

「すんげぇ宝剣もあるぜ! しかも二本!」

「馬車、馬、剣、ガキ、蝶! 余すことなく捌けるぜぇ! でもおっさんはイラネ! 死んどけ!」


 そんな声と共に刃物を舌なめずりする強盗団が現れた。

 どうやら、ずっと着けてきていたらしい。そりゃ、騒音を鳴らしながら進んでたんだから強盗の一つも引き付けるか。


『ローハンさん。マズイですよ!』

「……だな」

「ヒャッハー。逃がさねぇぜ!」

「巨乳美少女……イイ! 一発ヤるぞぉ!」

「『太陽の民』の方はガキか! レアだぜぇ!」

「あの『結晶蝶』は……とにかく売る!」

「オヤジはぶっ殺せ!」


 その時、ゆらり……とカイルとディーヤが立ち上がる。


「馬は以外は持ってくるなよ」

「飯っ!」

「食わせロォ!!」


 オレは強盗はカイルとディーヤに任せて夕飯の準備を開始。薪を集めてっと。

 

「自分達から来やがった! 捕まえろ!」


 結構良い川辺だな。水も綺麗で、少し濾過するだけで普通に飲めそうだ。


「ぐぇっ……なんだ……このガキ……」

「バカやろう! 弱ってるとは言え『太陽の民』だぞ! まずは網で拘束――ゴェ……」

「巨乳も速いぞ! 右行った!」


 程よい高さの木片を組んで、薪を詰んで火を着けて、と。


「クソ、こいつら! 馬ばかり優先して殺りやがる!」

「俺たちの逃げ足を断つつもりか!?」


 川の水をオレのこしらえた簡易濾過装置に通して綺麗な水に変換。うむ完璧だ。鍋に入れて火をつける。沸騰する間に野菜を一口大に切って、関所で買った鳥骨を砕いた粉末を入れて――


「うぉぉぉ、『結晶蝶』を寄越せ!」

『キャア! ローハンさん!』


 オレは適当な石を投げて、ソイツを気絶させる。干し肉をナイフで少し切って沸騰する鍋に入れてと。


「リース、味見してくんね?」

『え? あ、はい。……美味しいです』


 ストローで、ちゅーとスープの味付けに満足するリース。よし、取りあえずはこんなモンか。


「ば、馬鹿な……十人だぞ!? 俺たちは十人で――ぐわらっ」


 最後の一人をディーヤが拳で心臓をぶち抜いていた。

 強盗はカイルに剣で殺られ、ディーヤはパワーをモノを言わせて直接ぶん殴って殺ってるな。

 『太陽の民』は魔法よりもフィジカル面にステータスが寄った民族の様だ。


「おっさん! おっさん! 馬! 飯!」

「ゴ馳走ダァ! 馬六頭! ディーヤは生で良イ!」


 強盗十人。ソイツらが乗っていた馬六頭もきっちり仕留めた腹ペコゾンビ二人にオレは、こらこら、と告げる。


「手と顔を洗いなさい。血まみれのままだと食欲も失せるぞ。スープを作ったからそっちを先に食べてな。その間に馬を調理しとくから」


 はーい♪ とカイルとディーヤは手を上げて川で顔と手を洗いに向かう。

 リースが、熱いですから気をつけて、とスープを飲む二人の回りを飛んでいた。


「さてと」


 魔法を使って手早くやるか。本当は丁寧に解体した方が馬は旨い肉になるのだが、今回は質よりも量。次はオレらの馬車馬に襲いかかりかねん。


 その後、馬六頭分の肉を平然と平らげた腹ペコゾンビどもは、オレが気を失わせた強盗を起こして拠点に案内させて襲撃。


「飯だ! 飯があるんだろ!?」

「全部寄越せヨ!」

「な、なんだ!? お前ら!」


 結構な砦だったんだが、腹ペコゾンビは恐ろしいぜ。

 ディーヤが門を蹴り壊し、カイルが強盗を風の様に殺り、ものの数分でボスへ肉薄。


「この蛮族めが! 馬を食べるなど『太陽の民』は魔の化身――グピピピィッ!?」(カシラ死亡)


 オレが馬車をトコトコ歩かせて砦へ入った頃には、中は完全に制圧されていた。


「おっさん、飯!」

「アー、腹へっタ」

『…………』

「まぁ、待ってろ」


 オレは調理開始。野菜とかもあるから良い感じに栄養バランスも考えてっと。そのままモグモグと飯を食べながら生きてた奴から次の強盗団の情報を得た。


「馬鹿が……俺たちなんて三下だ……上納金を収めてる下部組織に過ぎん……お前ら……殺されるぞっ!」


 と、言うことなのでそっちも襲撃。(全部カイルとディーヤがやった。オレは馬車の運転と調理だけ)


 結論だけ言えば、強盗団はかなりの規模の組織だったがオレらの敵じゃなかった。拠点から拠点へ飯を食いながら移動。

 強盗団にとっての生物災害(バイオハザード)を繰り返して、三日。最後の砦を潰した所でいつの間にか首都が遠目で見える所まで来ていた。


「よし、飯を食って、休んだら首都に入るぞ」

「おう!」(もぐもぐ)

「ヤっとだナ」(ガツガツ)

『…………ローハンさん。旅っていつもこんな感じなんですか?』

「人の三大欲求は恐ろしいって事だよ」


 質の良い貴金属も手に入ったし、金に変えるか。もはや、どっちが強盗かわかんねぇな。

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