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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 終幕 滅びの先導者

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第171話 『ろいやるがーど』?

「額はこんなモノでどうでしょうか?」


 質の鑑定を終えた店主は金貨50枚を提示する。


「金貨10は引いて良い。情報料でな」

「! ありがとうございやす!」


 店主の反応を見るに情報一つで金貨一枚は多い部類か。この相場はこの辺りでも通じそうだな。

 次は『ナイトパレス』の首都に行って情報を集めてみるか。


「おっさん、おっさん」

「ん? って、お前は何やってんだ?」


 カイルは獣の骨を仮面のように被って遊んでいた。オレのリアクションがあまり良くなかったのか、すぽっと外して顔を出す。


「あっちに試着可ってあったからさ」

「はっはっは。お嬢ちゃんは御目が高いな! そいつは『太陽の民』の戦面(クシャトリラ)だ」

「『戦面(クシャトリラ)』?」


 カイルが尋ね返した様子に店主が応える。


「『太陽の民』は戦化粧と『戦面(クシャトリラ)』をつける事で太陽の恩恵を得る戦士になる。『戦面(クシャトリラ)』を持ってる『太陽の民』には注意しなよ。そいつは相当にやるぞ」


 特定の民族間に伝わる秘術って所か。クライブの奴も似たような事をしてるっけ。


「へー。おっさん、オレも『戦面(クシャトリラ)』を着ければ強くなれっかな?」

「限定的に強くなっても不便なだけだ。『霊剣ガラット』にそっぽ向かれちまうぞ」

「それはヤダ!」


 カイルは『戦面(クシャトリラ)』を元の位置に直しに行った。


「そうだ、旦那。情報料は多めに貰いやしたんで、少し色を着けておきやすぜ」

「ん?」

「今、『太陽の民』を捕まえたら報償金が出るんでさぁ。捕まえて『ナイトパレス』に連れて行くだけで相当儲かりますぜ」

『なんか……酷い話ですね』

「そりゃ、お人好しな考えだな『結晶蝶』の嬢ちゃんよ。自分達の事で手一杯な奴が世界には溢れてんのさ」

「『太陽の民』の特徴は?」

『ローハンさん!?』

「聞くだけだ。別に捕まえようなんて思ってねぇよ」


 オレの言葉にリースはほっとする。『結晶蝶』なのに、こう言う表情は何となく解るんだよな。


「褐色の肌、灰色の髪、子供でも戦化粧をしてるのが特徴です。『戦面(クシャトリラ)』を持ってたら間違いないですな」

「さっき、店から出ていった奴か?」


 ちらりとだが、その特徴だったと覚えている。


「あはは……お恥ずかしい。なんでも光る石を買い取って欲しいとか来ましてね。そしたら髪の色で察しましたよ」

「そうか。ここらじゃ『太陽の民』は普通なのか?」

「いいえ。昔はそれなりに見かける事はありましたが、夜がここまで来てからは全く」


 地図では『太陽の民』が住む地域はここから相当遠い。見た目も子供だったが……事情がありそうだな。


「旦那の方は『ナイトパレス』の首都へ?」

「そのつもりだ」

「でしたら『ロイヤルガード』にはお気をつけを」

「『ろいやるがーど』?」


 カイルが戻ってくる。


「『ナイトパレス』の主にして【夜王】ブラット・ナイト。その王を護る三人の実子と【水面剣士】の事です。奴らは『ナイトパレス』では【夜王】の次に権力を持つ者達で、眼をつけられると有無を言う間も無く血を抜かれますぜ」






「おっさん……【水面剣士】って――」

「同じ異名を名乗る奴はそうはいない。恐らくクロエだな」

「やっぱり!」


 オレ達は夜(昼)飯を適当な屋台から買って食べ歩きしながら馬車へ戻っていた。


『知り合いですか?』

「同じ組織のメンバーだ」

「クロエさんは滅茶苦茶強いんだ! 眼が見えないのにスゲーんだぜ!」

『眼が見えないのに?』

「クロエは『音魔法』と『水魔法』を使って敵を捕捉する。アイツからすれぱ眼が見えないなんてデメリットにすらならない」


 夜の国など、クロエからすれば全く意味はない。それよりも――


「なんでクロエがここに居るかが重要だ」

「あ、そう言えば!」


 カイルもクロエの存在がイレギュラーであることに気がついた様だ。

 強制転移。巻き込まれたのはオレとカイルだけかと思っていたが……いや、マスターの指示でオレらを探しに来たのか?

 となれば、マスターを含めてクランメンバーの全員が『遺跡』内部に来ている可能性が高い。


 クロエが何故、『ロイヤルガード』をやっているのかは不明だが……接触できればそのままマスターと連絡を取れるかもしれん。

 残りの“杖”と“王冠”を集める必要なく帰れる方法を見つけられるかも。


「行き先はほぼ固定だな。『ナイトパレス』の首都に向かうぞ」

「おう!」

『はい』


 馬車を預けている停留所へに着くと、オレは疲れた馬は馬車から外して手綱を握る。


「オレはコイツらを売って新しい馬を買ってくる。カイルは待機な」

「わかった」

「何かあっても勝手に離れるんじゃないぞ? 暴れるのも禁止。余計な騒ぎは起こ――」

「わかってるって!」

「リース」

『カ、カイルは大丈夫ですよ! 多分……』

「もー、おっさん早く行けって!」


 まぁ、落ち着きのない愛弟子でも少しの間くらいは待てるか。






「全く!」


 おっさんが馬をトコトコ連れていく様子に俺は目くじらを立てた。

 だってよ! 俺が落ち着きなく走り回る様な奴だって思われてんだぜ!? 怒るなってのか無理な話だ!


『カ、カイル。ローハンさんが帰るまでに荷物の様子でも確認しましょ?』

「ああ」


 ちょっとリースに気を使わせちゃったのは反省点。感情も相手に与える不利な情報であるとクロエさんに教わってるんだけど……隠すのって結構難しいよなぁ。


「……クロエさんに会えるんだ」


 おっさんとリースとの旅も悪くないけど、クロエさんも一緒だと頼もしさが倍増だ。


「リース、クロエさんは良い人だからきっと友達になれるぜ」

『会うのが楽しみです』


 荷台の後ろに回って布幕を開こうとしたその時、


「!!? んな!?」

『カイル!?』


 逆に何かが飛び出すように延びてきて俺の首を掴んだ。


「今、【水面剣士】の名を口にしたナ?」


 ソイツは褐色の肌に灰色の髪をした女だった。背は俺よりも低いのに首を片手で掴み上げる程の力で鋭い目付きを見上げてくる。


「アノ女と、どう言う関係ダ?」

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