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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 第四幕 何を思い何を願う?

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第135話 『神嵐』

 炎と風。

 この両方は相反するモノではない。寧ろ、互いに冗長するモノ同士と言えるだろう。

 しかし、それはどちらかの出力が圧倒的に上回っていた場合には、どちらか(・・・・)は消える運命にある――


「やはり『七界剣』は別格だな! 『神風』と互角とは! だがその代償は身の丈に合ったモノか!?」


 『七界剣』は言わば、外付けの魔力端末のようなモノだ。武器事態が膨大な魔力を内包し、それにより桁の越えた魔法を行使する事が可能なのである。

 しかし、それでも限度はある。タオの身体は少しずつ『大紅蓮焦土』へと融けて行っていた。


「私が命を賭ける状況は一つだけですよ」


 タオはかつて、暗殺者だった自分を逆に『龍連』に迎え入れた龍天を思い出す。


 頭目の為に――


「はっはっは! その意思に俺も応えよう!!」


 『大紅蓮焦土』は『隕石火球(メティオバーン)』よりも威力が高い。大聖堂の防護魔法では流石に防ぎきれないな。ならば――


 正面から捩じ伏せる!!


「それと、忘れていませんか?」


 スサノオの周囲に時計を模した魔法陣が再び現れる。スイレンの魔眼が光り、血涙しつつもスサノオを捉えていた。


「私は一人で貴方と戦って居ませんよ?」


 魔法陣の長針と短針が12時に揃う――


「『|停止空――』」

「『神嵐(かみあらし)』」


 瞬間、全てを吹き飛ばす圧倒的な旋風が『大紅蓮焦土』を巻き込み、『停止空間』の為の魔力さえも霧散させた。

 『神嵐』によって生み出される効果は周囲の物体を問答無用で切り刻む鎌鼬も生み、タオとスイレンは防御手段を取る間もなく巻き込まれた。


「状況によるとは言え、俺に『神嵐(こいつ)』を使わせるとはな。本当に世界は広いぜ」


 スイレンは片腕を断ち切られ、身体に深い傷を負うと、大聖堂の周囲を囲む氷壁に叩きつけられた。そして、目の前には『炎剣イフリート』が突き刺ささる。


「タオ……」


 精霊化で『大紅蓮焦土』を放っていたタオは『神嵐』で完全に吹き散らされて消滅していた。


「片方が死んだか。まぁ、仕方ねぇ。お前は動くなよ? 『神嵐』は魔力を散らす効果がある。回復出来ずに死ぬぜ」


 スサノオは大聖堂へ向かう。すると、近くに石が落ちてきた。


「おいおい……」


 スサノオは投げたスイレンに向き直る。

 彼女は止血もせず、身体に走る深い傷から流れ出る血を構わずに立ち上がっていた。


「行か……せない……」

「……ったくよ」


 仕方ねぇ。とスサノオはスイレンの意識を直接飛ばそうとした時、大聖堂の上空に巨大な魔法陣が展開される。


「おい、冗談だろ」


 スサノオは魔法陣を見上げて思わず停止する。

 アレは【地皇帝】ガリアの――


 次に周囲の氷壁に魔法陣が出現すると上空の魔法陣と同調様に光り出した。発動しているのはスイレンだ。

 氷壁に魔力が溜まってたか。だが、コレは――


「おい、止めとけ。王地真が死ぬぞ」

「それが……“龍”の意志です」


 『ガリアの封印』終式――






 『停止空間』に捕らえたスサノオを、タオとスイレンに任せた地真は大聖堂の扉を抜ける。すると、


「迷ったのですか? 王地真殿」


 奥のステンドグラスの前にキングが立っていた。そして、その後ろには安置する様に“願いを叶える三つの珠”の最後の一つが存在している。


「【光人】キング。あんたは慈悲深いと聞く」

「それは人の物指しによります。しかし、貴方がそう言うのならそうなのでしょう」

「父が病で死にかけている」

「存じています」

「助けて欲しい」


 助けを求める者を『エンジェル教団』は拒まない。


「もちろんです。しかし、龍天殿の病――いや、“呪い”は解いたとしても既に手遅れです」


 『呪時』。それが龍天にかけられた病の正体だった。

 今、彼の体内時計は通常の三倍の速度で進んでいる。それはちょっとした病や傷でも深刻な状況まで時を進めてしまう、『闇魔法』では特に危険な代物。今現在、耐えて居られるのは龍天が“龍”だからだ。


 解くことは不可能。【千年公】でさえ、一時的に時間を緩やかにする事しか出来ない。


「【荒れ地の魔王】アンラ・アスラ様。かの王が治める地は決して侵略してはならない。それはこの世界に置けるタブーの一つです」


 【魔王】アスラは『闇魔法』――特に『呪魔法』の使い手では比肩する者は存在しない。しかし、アスラ本人は温厚で話の解る人格者であり優王としても国民からも強く信頼されている。


「何故、【魔王】の土地に手を出したのかは知りませんが……我々が龍天殿に手を貸せるのは安寧に逝く場を整えるのみです」

「“珠”を貰う」


 地真はそれ以上の余計な問答を拒否する様に告げた。


「それは出来ません」

「助けてくれるのだろう?」

「この“珠”が確実な“救い”には、なら無いからです」


 コツ……と地真はキングへ向かって歩を進める。


「俺たちは血と闇の中で生きてきた。その中で必要なのは結果だけを見て結論を出す事じゃない」

「…………」

「僅かな可能性にも手を伸ばす。どんなに可能性が低くとも、結局は“出来るか”“出来ないか”のどっちかだ。俺は――いや俺たち(・・・)は“出来ない”を覆してきた『王龍天(父親)』の背をずっと見てきた」


 だから――


「今度は俺たちが『王龍天』に見せる。どれだけの血が流れようとも、この生き方だけは否定させん」

「……それが地真殿の“主”なのですね」


“人は心の中に自分の“世界”を持つの。その人の願う“主”はその人だけのモノ”


 キングは“願いを叶える珠”を見せた時にゼウスに説かれた言葉を思い出す。


「ですが、この“珠”は我々にとっても多くの命の元にここにある。故に――」


 その瞬間、地真は斬られた。唐突に何をされたのか解らずに自らの鮮血に唖然として膝をつく。


「渡すわけには行きません」

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