第13話 うらやまけしからん!
「大佐。隊士は全員無事です。レクス少佐も三日後には配置に戻れると」
ローハンとの戦闘後。『ギルス騎士団』の陣営では早急に状況の回復が行われていた。
「そうか。アプローチ組はどうなってる?」
「戻りましたが、やはり最下層への侵入は厳しいようです」
「一旦引き上げさせろ。隊士を再編する」
「解りました」
テーブルに置かれた『願いを叶える珠』に関する情報を見ながらジャンヌはゼウスから言われた事を思い出す。
“私達が『願いを叶える珠』を手に入れたら貴女に譲るわ。それで手打ちにしない?”
「あの【千年公】が本当に興味が無いと言うのなら。恐らく……」
珠に“願いを叶える力”など無い可能性が高くなる。
「えぇ!? ゼウスさん! 珠を譲ることにしたのか!?」
「そうよ。そうしなきゃ、ジャンヌ大佐は引かなかったから」
オレとカイルは遺跡都市から少し離れた深緑にあるベースキャンプに居た。
クラン『星の探索者』。
メンバー一人ずつのテント。その真ん中には共同で使う物が集められている。周囲の樹には侵入者を検知する魔法が張られており、クランメンバー以外がキャンプに入ると内部の者に分かる様になっている。
近くには魔道車輪車が待機しており、荷物を全部乗せてそれで移動する。
『星の探索者』は決まった拠点を持たないが、補給や利便性から大都アルテミスを起点に世界各地へ神秘を追い求めるクランなのだ。
「ロー。貴方のテントは別の子が使ってるの。どうしましょうか?」
「別に外でもいいよ。寝袋をくれれば」
「何言ってんだよ、おっさん。別にオレのところで寝ればいいじゃん!」
カイルが提案してくる。コイツ……自分が何を言ってるのかわかってんのか?
「あらあらカイル。ボルックやスメラギは絶対に泊めようとしないのに」
「二人は自分のテントあるじゃん。でもおっさんは無いんだろ? じゃあオレのテントでいいじゃん!」
こいつ……普段からこんなに無防備なのか? 悪い男に普通に引っ掛かりそう。
「だ、そうよ。よかったわね、ロー」
「『音魔法』でこそこそ耳打ちするの止めてくれませんかねぇ」
「おっさん……俺と一緒は嫌か?」
うっ……そんな不安そうな上目遣いを向けてくんなよ。だが……逆に考えてみればカイルにとってオレは信頼に値する存在と言うことになる。
ならば、オレもソレを証明せねばなるまい。
「わかったよ。お前の世話になるわ」
「おう!」
「大丈夫よ、ローハン」
すると、サリアが銃を一度スライドさせて告げる。
「カイルに手を出したらあたしが殺してあげるから」
「へーへー、そんときはよろしくな」
「サ、サリアさん! おっさんはそんなヤツじゃないから!」
あー、メンドくせぇ女から弟子に庇われるのは気分が良いぜぇ。
「何やら! 懐かしき声!」
その時、天井から場の面子に声が届く。この仰々しい『音魔法』の使い手は……
「忍!」
その場で起こるつむじ風。回りを巻き込むような吸引力や攻撃性は無く、ヤツが派手に登場するときに使う演出である。
ぶわっ! とつむじ風が消えると直立不動で印を組みながら立つ、覆面の男がそこには居た。
「【烈風忍者】スメラギ! 只今帰還致しました!」
ドンっ! と言いたげな雰囲気で忍者のスメラギは場の面子にそう告げる。
「お帰りなさい、スメラギ」
「相変わらずスメラギ、カッケー!」
「ふっ、カイルよ。某の様に成りたければ! このスメラギの弟子となるのだ!」
「あ、いや。師匠はおっさんだけでいいから」
「ふっ。これで213回目か。お前とその実りに断られるのは」
「オメー、人の弟子を狙うんじゃねぇよ」
普通にカイルの胸をガン見して会話をしやがって。本体はそっちじゃねぇだろが。
「ローハン……久しいな。嘘かと思っていたぞ」
「何がだ?」
「貴様の様なヤツが! カイルの様な美女の師だと言うことをな! さっさと寿命で死ね!」
くわっ! と眼を見開いてオレに眼光を向けてくる。
「なぁなぁ、おっさん。おっさんって、もしかして皆と仲悪いのか?」
「この忍者に関しては嫉妬してるだけだから気にすんな」
「それよりも、さっさと報告しなさいよ。遺跡から戻ったんでしょ? ボルックとレイモンドはどうしたのよ?」
「レイモンド? 新入りか?」
オレは知らない名前が出たので聞くとカイルが答える。
「レイモンドは俺が入る時から居たから、おっさんが抜けてから入ったんだと思う」
クランマスターがメンバー入りを認めるヤツだ。オレの抜けた穴を埋める役割だとしたら、相当に出来るヤツだろう。
「本来なら某は、同胞と共に遺跡に入る予定であったが、少し妙な情報を聞いた故に別行動をとったのだ」
「結果は?」
クランマスターが情報の開示を求めるとスメラギは前まで歩き、頭を垂れる。
「ハッ! 主様! どうやら『エンジェル教団』が“願いを叶える珠”を一つ手に入れたそうなのです!」
「あら、そうなの」
「情報じゃ最下層にあるって話だけど、『教団』は中層に行くのがやっとな戦力だったハズよね?」
「“執行官”が来たと言う噂だ。無論、それも確認して来た。来たのは……和風巨乳美女のアマテラスだ!」
「おいおい。マジかよ」
よりにもよってあの女か。状況によっては戦争になるぞ。
「くっ! しかし……しかし! このスメラギ一生の不覚! 完璧なる隠密にて二日をかけて内殿に侵入し、“珠”を肉薄! この手に一度は納めたものの! 立ちはだかる巨乳撫子アマテラスを前に! 奪い返されてしまったのだ!」
拳を地面に打ち付けて悔しがるスメラギ。
「おい、コラ」
絶対に巨乳見てただろ、と軽蔑の眼を向けるサリア。
「スメラギ……」
何と言って良いのかわからない、苦笑いをするカイル。
「あらあら。ふふ」
相変わらずメンバーの一喜一憂を楽しむクランマスター。
「まず、その煩悩を何とかしろよ。忍者マン」
「ローハンよ。お前もあのたわわを持つ大和撫子の前に立てば解る! 男なら抗えぬモノがあるとな!」
「あの女の事は知ってるよ。昔、死ぬほど燃える夜をヤりあったんでな」
主に燃えてたのは、城とか城下町なんだけどな。
「なにぃ! 貴様! うらやまけしからん! そこに直れ! 首を跳ねてくれる!」
メンドくせぇなぁ……コイツ。
「……燃える夜……」
「はぁ……ウチの男どもは馬鹿ばっかね」
「ふふ。本当に賑やかね」
死ねぃ! とクナイを投げてくるアホ忍者と戯れていると、ボルックと新顔のレイモンドが帰還した。




