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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 第四幕 何を思い何を願う?

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第124話 抗争

「ふざけんなテメェ!」

「んだとぉ!? やんのかコラァ!!」


 その小さな小競り合いは『遺跡都市』の街中で始まった。


 『龍連』が『エンジェル教団』へ攻め入る。


 そんな噂はここ数日でピークに達し、『エンジェル教団』の信者が経営する店は軒並み『龍連』には商品を提供しなかった。

 キングの指示ではなく、信者たちが各々で『エンジェル教団』を想っての行動。故にその動きはキングも予想していなかった。

 その火種はあらゆる所に飛び火し、信者も、関係の無い面子まで巻き込んで乱闘となる始末。

 ソレは『遺跡都市』全体に広がりつつあった。


「マズイな」


 その話を聞いたキングは大聖堂の前を護らせていた者達を全員、鎮圧に向かわせた。

 しかし、『遺跡都市』は広く、それでも足りないくらいだ。


「アマテラス、ヤマト殿。お二方も向かって貰えるか?」

「良いのですか?」

「…………」


 最高戦力である二人をこの場から外す事は誰がどう見ても愚策だろう。


「本来なら私が行きたい所だが……ここを離れるワケには行かない。それに、アマテラスとヤマト殿なら信者も『龍連』の者達も有無を言わずに争いを止めるだろう」


 カグラが居れば有無を言わさずに鎮圧出来ただろう。しかし、彼女は何よりも人員が必要な場を任せてある。


 それに、本殿の信徒なら信者も話を聞いて冷静になると考えての事だ。特に、アマテラスの神秘性とヤマトの圧倒的な気配は場に現れるだけで注目を集める程の雰囲気がある。


「では、私も最適な動きでこの戦いに参じましょう」

「…………スサノオ」

「ああ、解ってるよ」


 スサノオはヤマトの言いたいことを理解するとそう返事を返す。


「我が君、色即是空でお願いしますよ」

「ええ。スサノオ、キング様、クァン様、鋼次郎。お気をつけて」


 それを言い残し、アマテラスとヤマトは大聖堂から離れて行った。


「まぁ、陽動だな」

「子供でも分かるね」

「来るか!?」


 アマテラスとヤマトが場から消えた。

 今が絶好の機会であると、スサノオ、クァン、鋼次郎は気を張りつめる。


「……誰も死なずに場を納める事は不可能……か」


 確実に誰かが死ぬ。キングは“主”が与える試練として、この瞬間を逃げること無く受け止める覚悟を決めた。






「アマテラスとヤマトがか?」

「はい。離れました、若」

「キング司祭は慈悲深いですからねぇ。信者達が傷つく様を見過ごせるハズがない」

「だが……その上でも最高戦力を手放すとは」

「罠です。間違いありません」

「それか、余程“暴力”に自信があるのか……」

「……キング司祭の情報はあまりにも少ないです。彼の活動の大半は慈善事業で、幾つもある孤児院の経営者でもあります」

「戦闘経験が無い……ワケは無いですよねぇ」

「……若、情報が入りました。アマテラスとヤマトは『遺跡都市』の乱闘を止めずに私たちの拠点を襲撃しました。恐らく……頭目狙いだったかと」

「被害は?」

「建物は破壊されましたが、人員の被害はゼロです。あの二人と交戦をしないように徹底させてます」

「それで良い。雑多に紛れ込んだ方が、奴らも手は出せないだろう」


 部下達には、より多くを巻き込む乱闘を起こす様に伝えてある。頭目に関しても……問題はない。


「行くぞ、タオ、スイレン。最後の“珠”を奪取()る」






「これは凄いですね」

「中佐、感心してる場合じゃありませんよ!」


 『エンジェル教団』と『龍連』が火種で始まった乱闘騒ぎの最中、此度の情報を集めに街へ来ていた、ジルドレとキキアも巻き込まれていた。


「お手本のような暴動です。元々治安組織等が存在しない故に、火は中々消えないでしょうね」


 うぉぉぉ! と、なりふり構わずに殴りかかって来た暴徒をジルドレはサッと避けて、トン、と軽く押すと他の暴徒へぶつかり、その二人で争い始めた。


「集団心理が働いてますね。これは実に興味深い――」

「中佐! レクス隊長がポイントXに『空挺』を待機させてるそうです! 行きましょう!」


 その時、キィン……と斬撃が飛んだ。近くの建物の一つが斜めにズレると形を維持できずそのまま崩れる。


「おやおや」

「あ、アレは!」


 ジルドレとキキアは建物を両断したであろうヤマトと側に立つアマテラスを見る。


 ふむ……あの御二方は『エンジェル教団』の最高戦力。それが何故、この場に? まさか暴徒の鎮圧……


「まさか……もう出揃っていたのか」


 ジルドレは場の情報から『エンジェル教団』と『龍連』の状況を読み取った。


「行きましょう、キキア中尉。大佐に良い土産が出来ました」

「私は最初からそのつもりですよ! どけ! お前ら!」


 キキアが道をこじ開け、その後ろをジルドレは歩き、回収ポイントへ向かった。






「アマテラス、ハズレだ」

「うーん。困りましたね」


 『龍連』の本拠点建物を両断したヤマトは刀を鞘に納める。端から中はもぬけの殻。それでも構わずにアマテラスはヤマトへ建物を切る様に告げたのだ。


「皆さん、止まる様子が無さそうです」


 建物が崩れたにも関わらず、暴徒は収まる気配が無い。その時、


「何してんだ! テメェ!」


 暴徒の一人がアマテラスへナイフを腰に貯めながら突進してきた。

 ヤマトはアマテラスの前に出ると特に労すること無くその暴徒を制圧。

 倒れた暴徒は、くそ……と苦悶を漏らすと、そこへアマテラスが覗き込む様に瞳を合わせる。


「貴方『龍連』の方ですね?」

「はぁ!? んなわけ――」


 アマテラスはその暴徒の額に人差し指を当てると、そこから“白火”を引っ張り出す。暴徒はフッと意識を失った。


「どうだ?」

「やはり『龍連』の方でした。どうやら、この暴動は彼らの仕業のようです」

「……狙いは“珠”か」


 ヤマトは大聖堂へ踵を返す。すると、


「ヤマト、違います」


 アマテラスの声に足を止める。

 今の“記憶火”から王龍天は『星の探索者』の元へ行っている事を読み取っていた。


「この戦いを最小の犠牲且つ、最短で終らせに行きましょう」


 王龍天を討ちに『星の探索者』へ――

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