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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 第三幕 バトルロワイアル

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第105話 一番強いのは貴女ではないな

 【天光流】『二四六九侍(にしむくさむらい)』“確定捕縛”


 落下を始めた周囲が全て停止していた。

 クロエとカグラの足場にしている瓦礫も、周囲に浮かび上がったビル群も、発生した『縄張糸』によって完全に拘束されて宙に浮かんだまま、時が止まったかのように停止する。

 その中で動く者はカグラ一人。クロエも完全に捕縛されていた。

 極め細かくなった砂粒や土だけがパラパラと下へ落ちる。


「貴、女は、強か、った」


 カグラは目の前で剣を向けたまま停止するクロエを見上げる。

 クロエは剣を振るった姿勢で停止していた。どうにかしようと身体を動かしているが、完全に捕らわれた状態では『縄張糸』を切り払う事は出来ない。


 危な、かっ、た……でも、これ、で、終、わり。


 カグラは制限下にも関わらず、ここまで本気を出さなければ止められなかったクロエを素直に称賛していた。

 しかも、彼女が使ったのは『音魔法』だけ。もしも『水魔法』を使える水辺であれば結末は逆だったかもしれない。


 カグラは落ちた『ライフリング』へ手を伸ばす。

 後は、彼、女の、『ライ、フリン、グ』を破、壊して、カグラ、の勝ち――


「――――えっ……?」


 カグラの世界が不意にひっくり返った。『ライフリング』が拾えずに思わず転ぶ。


「そうね。貴女は強かったわ」


 それは僅かな、本当に僅かな振動。糸を通して伝わる振動がカグラの平衡感覚を麻痺させていた。


 嘘、あり、得、ない……、だって、貴、女は……糸の、付着、を嫌っ、てい、た。だから、捕まえ、て――


 そこでカグラの全てを理解した。ここまでの戦いの全て……『縄張糸』で捕縛させる事(・・・・・・)が狙いなのだと。


 平衡感覚を乱す振動は更に視界を揺らがせ、意識を失いかけた所でカグラは『縄張糸』を全て解除。糸との接続を全て断ち、クロエからの攻撃を止めた。

 『縄張糸』の解除により停止していた瓦礫やビル群は落下。その間に何とか『ライフリング』を掴むも、自由になったクロエが通り抜け、カグラの『ライフリング』を斬り壊す。


「強い技を持っているから勝てるワケじゃないの。もしそうなら、眼の見えない私はずっと弱者でしかない」


 ズゥゥン、と重々しい音を立てて落下したビル群が倒れて土煙を生む。


 カグラはクロエを他の者と同じく捕縛すれば無力化できると思っていた。実際、クロエもその様に動いていたし、糸の付着と『縄張糸』の発動を阻害し続けた。

 しかし、ソレは全て間違いだった。

 クロエは捕まった時から糸を通じて『音魔法』による微細な振動をカグラへ流していたのだ。

 カグラの能力は糸に依存している。故にカグラにとって“糸”は決して裏切らない味方だとクロエは看破。逆にソレを利用する事で王手をかけられると確信していた。


 結果、カグラは糸を通じてクロエに平衡感覚を乱されて『縄張糸』を放棄。まさか、自分の巣に自分がかかる(・・・・・・)とは思っていなかったのだ。


「…………なん、て、言う、魔、法?」


 カグラは自分の平衡感覚を乱した『音魔法』の事を問う。


「ただの声を飛ばす程度の振動を生む『音魔法』よ。名前も何もない。誰だって出来る簡単な魔法なの」


 故に『ライフリング』の制限下でも十分に使えた。

 クロエは仮面を拾うと強制転送で消え始めたカグラへ手渡す。


「でも、次は通じないわね」

「――う、ん。次は、カグ、ラが勝、つ」

「いいえ。次も私が勝つわ」


 最後までそれだけは譲らないクロエにカグラは笑うと強制転送にて消え去った。

 上空に浮かぶ、生存者リストから“カグラ”の名前が消える。クロエの名前だけが残って浮かぶが、彼女の意識は正面に向いていた。


「次は貴方が来るのかしら?」

「…………」


 クロエは、カグラを排除するために形を成し始めた『シャドウゴースト』――“黒ヤマト”へ視線を向ける。

 しかし、その形は完全に成る事はなく、そのまま消え去った。






『決まったぁぁぁ!! 勝者は【水面剣士】! クロエ・ヴォンガルフ! ヒヤリとする場面は多々あったが! 結果は無傷の圧勝! この女に勝てるヤツは地上に存在してるのかぁぁ!!?』


「だ、そうだぜ、ヤマト。お前の目に叶う相手じゃね?」


 転送広間にてカグラ迎えに来たスサノオは、場に響く実況の締めの言葉にヤマトを見る。


「機会があれば……な」


 対するヤマトの反応は淡白だった。相変わらず何を基準に刀を抜くのか解らない親友にスサノオは、敷居の高い事で、と嘆息を吐く。


「惜しかったですねカグラ」

「姫、様?」


 戻ってきたカグラは出迎えてくれた主に驚いた。アマテラスは切り傷だらけのカグラの手を優しく取るとその怪我を治癒させる。


「あり、がと、う。でも、お土、産……無くな、った……」


 この物語(戦い)を伝えるつもりだったカグラは、時間がかかり過ぎた故にアマテラスがここに来てしまったと気落ちする。


「カグラ、物語に必要なのはその道中です。同じ結末の物語でも違う色を感じる事が出来るのは至る為の“道”が違うから。貴女が今回得た物語を私に聞かせて?」

「う、ん」


 カグラはアマテラスと手を繋ぐと、おっぱいの大きい人と小さい人のタッグが面白かった、と話しながら共に歩いていく。その後ろから、配当金は無しかー、とカグラに賭けていたスサノオは続き、ヤマトは――


「……やはり、一番強いのは貴女(きじょ)ではないな」


 戻ってきたクロエを一目見て、その実力を測ると踵を返し転送広間を後にした。

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