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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 第三幕 バトルロワイアル

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第102話 クロエVSカグラ

 その一戦の結末は誰にも分からなかった。

 しかし、スサノオだけは“巣”を展開出来た時点であのカグラに勝てる者は自分やヤマト以外には不可能だと思っていた。


「驚、い、た」


 しかし、ソレは中継モニター越しの判断であり、実際に向かい合う二人の状態はまるで違っている。


「大変だったわ。でも、ここまで来たのなら関係ない」


 クロエは両手で剣を持ちつつ、切っ先を下げる。綺麗だと思える姿勢で構えられた剣だが踏み込む意図が感じられない。


「貴女を捕まえた」


 凄、い……こん、な、の初、めて。


 【土蜘蛛】の巣の中心にやって来た存在で、1本の糸も絡まない存在を見たのは初めてだった。

 丁寧に除去しながら、ここまでの道を確保しつつクロエは前に立っているのだろう。

 そして、今も下手に動けば周囲の『縄張糸』が絡まる事を察し、“一撃で仕留める隙”か“後手番”を伺う意味でもこちらの動きを待っているのだ。


「ヤマ、兄、以外で、も居る、のね。世界、は広、い」

「『ライフリング』による制限下でもこれだけの事をやれる貴女も相当よ?」

「あり、がと」


 カグラはクロエの“待ち”に乗って攻める。

 『糸分身』を容易く切り裂くクロエの鋭い斬撃を警戒し、腕と身体には『糸鎧』を纏う。羽よりも軽く、岩よりも硬い『糸鎧』は今まで断たれた事がない。


「……」


 対するクロエは接近してくるカグラの拳を、剣を動かして刃の側面で丁寧に受けて反らし、身体を僅かに動かして回避する。見る者によってはそれだけでも高度な技術と解る動き。

 それでも場の主導権を握っているのはカグラだった。


 カグラへの斬撃は無効。

 下手に動けば“糸”が絡まる。


 【土蜘蛛】の巣を剣士が攻略するには、ヤマト程に圧倒的な実力を持つか、糸に這わす魔力を越える『炎魔法』にて一気に焼き尽くす事が主な攻略法だ。

 実際にソーナは己に『雷魔法』を纏う事で一度拘束を外している。

 しかし、クロエの使える魔法は『音魔法』と『水魔法』。現状でクロエがやっていることは単なる悪あがきでしかない。


「いつ、ま、で受、けら、れ、る?」


 互いに負ける気でこの場に居るワケではない。

 カグラはクロエが攻撃に転じる隙を与えぬ様に、ヒット&アウェイを繰り返す。

 クロエはカグラの接近戦はこちらに“糸”を絡める為の動きである事も察して受け流しに徹する。


 盤面はカグラの勝勢でクロエは劣勢。

 今は並みならぬ剣技でカグラの攻撃を流しているが、それもカグラの眼が慣れてくればいずれ対応出来なくなる。






『おおおっと! さすがの【水面剣士】も“眷属”カグラの前には防戦一方かぁ!?』


 実況が叫ぶ。

 攻めるカグラの拳をクロエは丁寧に捌き続ける中継映像に、観ている者は釘付けだ。


 【水面剣士】の技量相当だな。技術だけ見ればヤマトに匹敵するかもしれんが……相手が巣を展開したカグラでは勝ち目が無い。


 【土蜘蛛】はその性質上、突発的な戦闘が苦手な『妖魔族』。しかし、一度“巣”を作った【土蜘蛛】はほぼ無敵と言っても良い。


「それでも、あれだけ巣の中に入って糸が絡まない芸当は俺でも出来んな」


 さすがは、【牙王】の指導を受けただけはある。それに、盲目故に肉眼では見えない“糸”も捉えてんだろうな。


「…………」


 クロエが防戦をする様子にレイモンドは息を飲む。あまりに高度過ぎる戦いに先の展開が全く読めない。


「やるね、【水面剣士】。未だに“糸”の付着を許さないか」


 後は一撃で倒す事が唯一の勝機なのだが……カグラは【土蜘蛛】の弱点でもある、“突発的な戦闘”も出来るように個の戦闘技術を俺達が叩き込んだ。

 『糸鎧』はヤマトでも斬るのに手順が必要だ。そして、首を狙う大振りは小柄で小回りの効くカグラには隙でしかない。

 ま、【水面剣士】は良くやったよ。今のカグラに勝つには相性で上回るか、ヤマトやクルカント程の“一刀”を持たなけりゃ――


「――――ん?」


『【水面剣士】! 捌いて捌いて捌いて……捌き続ける! “眷属”カグラ! その拳は未だに掠りもしないぞぉぉ!!』


 スサノオはカグラとクロエの攻防を観てある違和感を覚えた。


 なんだ? この違和感は――


 そして、ソレに気がつくと思わず立ち上がる。


「馬鹿な! そんな事があり得るのか!!?」


 唐突に声を上げるスサノオに全員が注目する。


「おいおい。参ったぜこれは……はは。こんな事が出来るのかよ」


 思わず笑ってしまう。

 今も尚、“彼女”はソレを実行し続けている。ソレに気づいているのは俺だけだった。


「いつの間にか、その領域にまで手を伸ばしてたのか」


 やはり、『宵宮』に引き込もってばかりでは駄目だな。世界に出なきゃこうはならなかった。


「やれやれ。一本取られたぜ、こりゃ」


 この戦いの結末は当人にとっては最初から変わっていなかったらしい。

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