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マデラインの瞳 2

アリステアは、騎士団の詰所の窓から見える馬車停留所へ何気なく視線を向けると、そこにいた一人の女性に目が止まった。

その女性はお仕着せ姿で馬車を待っていた。停留所の灯りを反射して眼鏡が一瞬光った。銀色に輝く光が妖精の光の玉似て見えた。その彼女の眼鏡の奥から覗く瞳が、マデラインの瞳と同じ色合いに思えた。

遠目からだったから見間違いかもしれない。だからこそ、もっと近くで確かめたい衝動を覚えた。


半時ほど過ぎると小雨が降りだした。

再び窓の外を覗くと、馬車を待っている彼女の姿がまだそこにあった。

アリステアはその好機を逃さなかった。

「少し、出て来る」

そう部下に伝えると傘を携え詰所を出て、彼女のいる停留所へ足早に向かった。


「何かお困りでしょうか?」

アリステアに声をかけられて、見上げるようにこちらを見た彼女の瞳と目が合った。

眼鏡越しに見える菫色の瞳に、アリステアは息を飲んだ。


母と同じ瞳の色とはいえ、母親ではない異性のそれとでは全く別物なのだ。

ずっとこのまま見つめていたくなるような、目を離すことができなくなりそうな瞳に見惚れてしまった。


「迎えの馬車がいくら待っても来ずに困っておりました」

「どれくらい待たれているのですか?」

「約束した時間よりも、1時間以上は経っていると思います」

「もしお急ぎでしたら、 騎士団の馬車でお送りしましょうか?」

「そっ、そんなとんでもありません、自邸からの迎えを待っているだけなのです」

慌てた彼女の表情はあどけなく見えた。年齢は16、7といったところだろうか。

「職場はどちらですか?」

「繕い部の手伝いをさせていただいております」

「繕い部の仕事はこんなに遅くなるものなのですか?」

通いの侍女ならとうに帰宅している時間だ。

「いえ、確認作業が手間取って、今日はたまたま遅くなってしまったのです」

「そうだったのですか」


その時、馬車がようやく停留所に入って来た。

「イリナお嬢様、遅くなって申し訳ありません」

「気にしないで。迎えに来てくれるだけで助かるわ」


イリナと呼ばれた女性はアリステアに向き合うと、馬車が来て安心したのか、先ほどよりも明るい笑顔で礼を述べた。

「色々お気遣いいただきましてありがとうございました」

「では、お気をつけて」

アリステアは馬車の入り口を開くと、手を差し伸べて、彼女が乗り込むのを助けた。

まさしく騎士のお手本のような洗練された所作で見送るアリステアにイリナはドキリとした。


( この方は、もしや···、この制服は騎士団のもの、しかも上級士官の制服だわ)


「本当にありがとうございました、では失礼致します」


イリナは彼が何者か気がついて、恐縮しながら王城を後にした。



アリステアは、気になる女性の名前と職場を知ることができたことに満足していた。

お嬢様と呼ばれていたのだから、平民ではなくどこかのご令嬢なのだろう。家名は次に会った時にでも教えてもらえば済む。

令嬢が繕い部になど勤めるものなのか疑問だったが、後で繕い部に話を聞けば何かわかる筈だ。


イリナ嬢の菫色の瞳は極上のマデラインの瞳だった。

一瞬この女性が······と思ってしまったが、惜しむらくは、彼女の髪は金色だ。


菫色の瞳に、薄紅色の髪、それが啓示の相手なのだ。


フェネラの髪の乙女は何処(いずこ)に。


これでは啓示の相手を探し当てるまでに、三流の小説家か詩人のようになってしまいそうだなと、アリステアはひとりごちた。

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