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マデラインの瞳 1

アリステアは父の王室との因縁のある国で働くのは気が進まなかった。

『マデラインの瞳だよ』

妖精らがベシュロム行きを渋る自分にそれを言うというのは、自分の妻になる女性がベシュロムにいることを示唆していることを察知し、仕方なく父の古巣の騎士団に入った。

かつての父の同僚らからは冷やかしの対象になるのは予測できた。

元王女の公爵夫人が人事にまで口を出して、自分を近衛には絶対させるなと圧力をかけてきたのも想定内だ。

父と同じ道を進むつもりもなく、近衛を目標にしていたわけでも全くなかったから、近衛などなれなくても自分は一向にかまわなかった。

周囲だけがなぜなれないのかとか、自分のことを不遇だとか勝手に騒いで関心を寄せていただけだ。


自分にはこの国でどうしても見つけたい人がいるから、不本意な環境でも、どんなにやりにくい状況でも、なるべく涼しい顔をしてやり過ごすだけだ。


これではまるで純愛小説の主人公みたいじゃないかと、自分で自分を嘲笑ってしまいそうになる。


そんな自分の嫁探しはまだ進んでいない。


騎士団員として王宮には出入りはしているが、フェネラの髪、マデラインの瞳を持つ女性にはまだ出会ってはいない。

母上のように王宮勤めの侍女や女性官吏の令嬢の中にいるのかもしれないが、それらしい人物は見かけない。隊の任務の遠征先や道中でもそれは同じだった。

あまり気の進まない夜会に顔を出してもそんな人はいなかった。


第一、本当にフェネラの髪ならば、あの珍しい髪色で一発で見つけられそうなものだ。


だから騎士団でノエルを目にした時は本当に驚いた。女性以外のあの髪色の人間を見るのははじめてだったからだ。


「君が女の子だったら良かったのに」

なんて冗談を言ってしまうと、あらぬ誤解を招くだろうから、それだけは禁句だと自重している。


髪色から探すのが手っ取り早いと思っていたのに、これがなかなかいないものなのだ。

ただ一人、マデラインの瞳を持つ女性だけは見つけた。でも残念ながら髪色は違っていた。髪色と瞳の両方が妖精の啓示と合致する女性には今のところ出会えてはいない。



「お兄様、それはまるでガラスの靴の姫の物語みたいですね」

「ガラスの靴?」

「舞踏会で残していったガラスの靴に、足がピッタリはまる女性を王子が探すお話ですよ」


三年前にシャゼルの王子妃候補に決まった妹のジュリーは、兄の妖精の啓示の相手探しを楽しんでいる。まるで恋愛ものの劇でも見ているかのように。

怖い夢を見ると自分のベッドに潜り込みに来ていたあの小さな妹が、まさか王子妃になるなんて本当に人の運命はわからないものだ。


それは妖精公爵一族でも同じことだ。


父が受けたジュリーについての妖精の啓示によると、『表と裏の王族の血を混ぜよ』というものだった。

既にベシュロム王家を見限った妖精達には彼らなりの思惑があるのだろう。

ジュリーを通じて王室に血を混ぜるということは、シャゼルの王家はまだこの先も長く存続して行く筈だ。


ベシュロム王家は滅びに向かっている。

元王女が天寿を全うせずに亡くなったのもそのうちのひとつだろう。

王太子の嫡男も病弱だと聞いている。側室を二人持ったがいずれも女児しか授かっていない。今後世継ぎ問題が取り沙汰されていく筈だ。

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