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フェネラの髪 マデラインの瞳 3

「ひとつ君達に試してもらいたいことがあるんだ」

「何ですか?」

「これから行く森に入れるかどうかで、一族かどうかハッキリするよ」


アリステアに提案されて、ノエルとイリナはモンターク公爵家の領地にある妖精の森に連れてこられていた。


「まず私が入るから、ノエル、私のあとからついて来てくれるか?」

「わかりました」

ノエルはごくりと唾を飲み込んだ。

「じゃあ、行くぞ」

少し躊躇った後に、ノエルは大股で妖精の森への第一歩を踏みしめた。


そして何の問題もなく森の中へ入って行った。

アリステアは満面の笑みで森から引き返してきた。

「じゃあ次は君だ。私の手を決して離さないでくれ」

アリステアは手を差し出して、イリナの手をしっかりと握った。

「行くよ」

「は、はい」

イリナははじめ不安を感じていたが、アリステアといれば大丈夫なのだと言うことを察知した。

微塵も不安の無い自信に満ちた表情を見せるアリステアの姿からそれがわかったからだ。


イリナは小さく1歩を踏み込んだ。


『ようこそイリナ』

『わあ、ノエルだ。クリスの子だよね』


イリナには妖精達の声は聞こえなかったが、刺繍の銀糸の煌めきを思わせる光の玉を見ることができた。


これが妖精の光なのだろうか。本物の御柳の花が咲き誇る森を見て感嘆の声を上げた。


「素敵! 絵本の世界みたい」


イリナは自分の刺繍を見てアリステアが言っていたことがよくわかった。


ノエルもはじめて見る花と森に目を奪われていた。

妖精公爵一族という説明をアリステアに受けたが、その信じ難い内容をまだ受け止め切れていない。

ただ、アリステアのこれまでの不思議な言動の数々の原因を理解した。


自分の父が俳優のマルセルだということもまだ実感が無い。言われて見れば彼に似ていなくもない。母と離婚した父よりはずっと似ていることは確かだ。

母も妖精公爵一族のことは知らなかったようだ。


ノエルは突然今までの自分の認識や世界が揺らぎ戸惑っている。だが、同じ一族が傍にいてくれることは心強いと感じていた。


「イリナ嬢、新入り同士よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「まあ、これで他の奴らにもやっと春が来そうですね、団長」

「今後はアリスと呼んでくれ、君は見た目が若いから私よりも歳上だとは思わなかったんだ」

ノエルはアリステアの兄よりも歳上だった。全くそんな風には見えないのだが。


『アリス、わかったって言ってたのに全然わかっていなかったよね』

「ん? どういうことだ?」

『イリナがフェネラの髪だよって意味で君に()()()()?って聞いたのに』

「えっ? そういう意味だったのか!」

あの時は、イリナは違うんだよという、逆の意味で「わかっているよね?」という表現だとアリステアは受け取っていたのだ。


彼女ではないことをわかっていると。


それなら、イリナは啓示の相手だとハッキリ言ってくれればよかったのに!


妖精との意志疎通はまだまだ難しいと思うアリステアだった。



それからしばらくして、アリステアとイリナは婚約した。


イリナの後見人としてデジレ女伯が名乗りを上げ、イリナを養女にした。


母の実家のモール伯爵家か、母の姉パトリシアの嫁ぎ先の侯爵家にイリナを預けるつもりでいたアリステアにとって、またとない申し出だった。


イリナがモンサーム伯爵令息と婚約するとエステリ子爵らは手のひら返しですり寄って来たが、イリナは父らへ絶縁状を送り、夫妻によって受けた不当な成育環境への慰謝料を法を味方につけて勝ち取った。

このニュースは、他の不遇な子女らにも泣き寝入りしないで立ち上がることを促し、不当な扱いをした実の親もしくは義理の親は罰せられるという意識改革、改善に貢献した。


以後デジレ伯爵家は、法律に強いフォークナー伯爵家と協力し、不遇な子女らの待遇改善、自立支援、問題解決を援助する家門になって行った。


***


前ベシュロム国王の喪が明けると、アリステアとイリナはモンターク公爵邸にて結婚披露を行った。


その日余興に招かれたのは黒髪の道化師だった。

彼の無言劇は大いに会場を沸かせた。

喝采も冷めやらぬ中、道化師はデジレ女伯の傍へ歩み寄ると、ひっくり返した山高帽を差し出して囁いた。


「レディ、1万ルルはお持ちでしょうか?」

「ええ、もちろん用意しておりましてよ」


女伯は席を立ち上がり、ドレスの裾を翻すと勢いよく道化師に抱きついた。

道化師と女伯は口づけを交わすと、いつまでも抱擁し合った。



その後、ノエルはデジレ伯爵家へ行儀見習いに来ていた女性と結婚した。

子どもの頃にマルセルに引き取られた、薄紅色の髪を持つ通称ピピ、本名フィリパと呼ばれる女性だ。



妖精公爵一族に、デジレ伯爵家が加わったのはそのような経緯だったと妖精公爵の備忘録には記されている。


騎士団長と副団長が共に薄紅色の髪を持つ伴侶を持ったことで、世間での薄紅色の髪への印象は刷新されていった。

これまでのように揶揄されることはなくなり、幸せな家庭、幸福な結婚の象徴として広まって行くのだった。



(了)

これでシリーズ3は終わりです。読んでくださりありがとうございます。

アリステアよりもマルセル(クリス)の出番の多いシリーズになぜかなってしまいました(汗)


この後、少しダーク目の番外編があります。


いよいよシリーズ4になります。



若かりし頃、マルセル·マルソーのパントマイムを来日時に一度だけ観たことがあります。もうご老体ではありましたが、それはそれは素晴らしいものでございました。

知らなかったのですが、昨年彼の映画が公開されていたのですね、まだ見てないのでこれから見たいと思います。

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