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フェネラの髪 マデラインの瞳 2

イリナが目を覚ましたのは、瀟洒なモンターク公爵邸の一室だった。

騎士団長アリステア·モンサームから説明されても、状況を受け止めるのにしばらく混乱した。

ここが安全な場所と知っても、規模こそは違うがまるで王城のような佇まいにイリナは落ち着けなかった。


例の縁談は回避され(馬丁には別の女性を紹介済み)、当面はモンターク公爵家で、刺繍専門の侍女として置いてもらえることになった。

以前団長から聞かされていた通り、あの御柳の花の刺繍は大好評で、当主夫妻からも誉めちぎられてしまった。


「バディム公爵のことは気にしなくていい。何かあれば伯父上が君の盾になってくれるよ、ここも王家の盾のひとつだからね。もちろん私もモンサーム伯爵として全力で守らせてもらうよ」

「···ありがとうございます。ですが、なぜ私などをこのように助けていただけるのですか?」

「君が私と同じ一族かもしれないからさ」

「···一族?···それはどのような······」

イリナはアリステアの言葉に困惑しかできない。

「驚くのは無理ないけれど、今度ある人達を招いて茶会をしようと思うんだ。その時に全部話すよ」

そう話すアリステアはどこか嬉しげだった。




その茶会に招かれたのは、ソフィー·デジレ女伯とその令息であるノエル·デジレ副団長だった。

「イリナ嬢、お久しぶりですね」

「副団長様、デジレ女伯様、お会いできまして光栄に存じます」

「イリナ嬢、そんなに緊張しないで。あれ? 眼鏡はもうしてないの? その方が断然美人ですよねっ、団長」

イリナはモンターク邸で暮らすようになってからは、伊達眼鏡を外していた。


「モンサーム伯爵令息様、本日はお招きいただきありがとうございます。早速ではございますがお茶会の趣旨を伺っても?」

デジレ女伯爵の凛とした佇まいと美丈夫ぶりにイリナは見惚れていた。

亜麻色の髪と矢車菊のような蒼い瞳は人の視線を惹くには十分だ。

当代の若い令嬢達にとって自立した女性の理想像として憧れの人物であるのは、それはイリナも同じだった。

特に実父とその後妻から不当な扱いを受けたイリナにとって、自分もこのように生きられたらという羨望の眼差しを否応なしに向けてしまう相手なのだ。


「デジレ女伯様は、クリス·モンサームをご存知でしょうか?」

「ええ、存じております。ノエルの実父でございますから」

「母上、何をおっしゃるのです?!」

ノエルは激しく狼狽した。

「クリス·モンサームは私の親戚なんだよ。だから言ったろう? 君は他人に思えないって」

「······!」

「こちらにお招きいただくと言うことは、その件しかございませんからね。本日は覚悟して参りました。でも、なぜ今それをお尋ねになるのでしょうか?」

女伯は微塵も動揺を見せずに毅然とアリステアを見つめている。

「思いがけず、身近に二人も一族を見つけたからです」

アリステアがそう答えると、女伯はイリナへ視線を向けた。

「では、こちらのお嬢様も?」

「ええ、おそらくは」

「あの···では私もそのクリス様とご関係があるのでしょうか?」

イリナが慌てて尋ねた。

「なぜそのように?」

女伯が怪訝な顔を見せた。

「それは、私がノエル様と同じ髪色だからです」

イリナは、お仕着せの帽子を外すと、スルリとカツラを素早く取った。


一同はみな息を飲んだが、アリステアは呆然とした。


イリナが薄紅色の髪の持ち主だったとは。


「フェネ···」

アリステアは驚喜から誤って母の名を口にしそうになった。

アリステアは咄嗟に自分の頬をパシリと手で叩いた。


『フェネラの髪、マデラインの瞳』


その言葉を今まで何度繰り返し、どれだけ自分に言い聞かせてきたことか。


そのせいで、やっと見つけた啓示通りの相手にイリナではなくフェネラと呼んでしまいそうになったのだ。


アリステアは席を立ってイリナの手を取ると喜悦に満ちた声で告げた。

「君は、モンサーム伯爵夫人になる人だ」


今度はイリナが呆然とする番だった。

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