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#48∞49:エピローグ∞プロローグ

 長いトンネル。白い。両側だけじゃなく、上下も湾曲しているから、これはチューブみたいなもの?


 それが私の知覚できる全てだった。身体も全然動かせないから、そこにあるかどうかも分からなくて。それでも「前」は分かったから、進めさせていった。自分の「意識の体」みたいなものを。


 「うしろの方」に戻れないことは、分かっていたけど。どうしようもなくて。


 そんなままならない中でもやっぱり意識の中にあるのは、シンゴさんの色々であって。秋葉原の「ジョセフィーヌ」で初めて出会った時、貴方は私にひとめぼれしたとか言っていたけど、それは私も同じ。


 「運命」って思っちゃったのも、無理ないでしょ? こんなことあるのかって、本当に幸せだった。


 ……から、信じられなくて。それがいきなり断ち切られたことを。ああこれが未練とかゆーやつなんだ、とか、客観的に見ようとしても、私の底の底の方は、全然納得してくれそうもなくて。


 だから創り上げていった。自分を納得させるためだけのストーリーを。ハッピーエンドでも、バッドエンドでも、納得してこのままならない現実から旅立っていける、そんな後押ししてくれるようなエピソードを。


 虚構の中の私は、輝いていて。シンゴさんにもシンデレラのように選んでもらえて。子供も……いて。


 そこに至るまでの経緯は、どうしても埋められなかったから、未来から飛ばされてきたことにして。そうしてつつがない円環の中で完結するようなお話になるまで、何度も何度もリングを磨くように精査して。だけど。


 やっぱり駄目で。デバッグ役を買って出てくれた私の中の彼……天城クンのお眼鏡にかなうものはどうしても構築できなくて。


 でも奇跡はあるんだね……貴方がやっぱり助けてくれた。「竜道」という、貴方がいつか語ってくれた名前を持つ使者となって。


 それでも結末はやっぱり覆せなかったけどね。


 え?


 ……覆さなくていいって? え、それってどういう……


 辻褄なんか合わなくてもいいって? え、でもそれじゃあ……


――目覚めてしまえばいい。そうすれば、辻褄も何も無いよ、目覚めちゃダメなんて『細則』、無かっただろ?


 貴方の言葉は、笑ってしまうほどあっさりと、するりと私の全身を揺らし震わせて。


「……」


 次の瞬間、私はごくごく自然な朝の目覚めのように、気怠くも極めてすっと、十二年間横たわっていた病室のベッドの上で上体を起こしている。


 傍らで小難しそうなビジネス書みたいなのを読んでいた貴方は、少しびっくりした顔をしたけれど、ごくごく自然に「あ、おはよう」とかの挨拶をしてくれるけど。


 してくれるだけで。


 大声で笑いたいような、大声で泣きたいような、どっちつかずの感情が水と油のように、私の身体という入れ物の中でゆったりもったり優しくブレンドされていくわけで。


 南側に切られた、大きなガラス窓から差し込んでくる朝の光、緑を含んだ風、スズメのさえずり……


 こんなことだったんだ。これで良かったんだ。


 次の瞬間、私はやせ細り力もバランスもうまく掛けられなくなった身体に絡みついている何らかのチューブとかコードとかに面食らいながらも、


「……」


 貴方の静止も振り切ってベッドから降り立つ。そう、自分の足で。


 十二年も待たせちゃってごめんね、っていう言葉、背中の方であわあわ言っているシンゴさんに言う前に、キミに言うね。そしてその流れついでにもう少し、待っていてね。うーん十月十日くらいかなあ。私に再び生きる意味を与えてくれたキミに、動き出した時間の流れの中を突っ走って。


 必ず、会いに行くから。


(了)


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