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#10or87:有名or無実

 「能力」。また唐突に出たな。そして「細則」とやらはこちらから確認しない限り呈されることは無いと。だいぶあの猫耳のやり方が分かってきた。


 分かってきたはきたが。


「確認の方法はまあ簡単だ。『訊く』。その『紙』に。なのでそこは各自やってもらうとして、だ」


 天城は相変わらずの落ち着き声でそうつつがなさそうに進行していく。焦って確認してしまいそうになる俺だが、声出しはNGだ。目配せでシンゴを促す。と、


「何か、ありそうじゃん。私ら『二十一世紀人』はさ、割とそういうフィクションに慣れ親しんでる、って言えなくもないから全然受け止められるけど? 天城っさんは何だろ、ファミコンとかも無かった『世代』でしょ? そこの呑み込み方はやっぱ図抜けてるよねー」


 あいらが自分の左手のネイルを確認する風で、それでいて結構な意識の向け方にて天城へと、なすり付けるようにして言葉を発するが。それすら受け流し気味に天城は言葉を連ねていく。


「もともとの性質なのかもだ。『想像力』を働かせる、それは習い性になっているかもだが、が、かと言って私の『能力』とやらはそれでは無かった。今後の対局で不利になることは免れないから今ここで明かすことは出来ないが。が、その上で君らにお願いしたいことがある。自らの『能力』を私に明かしてはくれないか?」


 おいおい。言っていることが滅裂に過ぎないか。喋りも何だかねちっこく裏に何かあるだろ的なものに変わってきている気もする。それでも目の前の長髪イケメンの顔はどこか悪戯っぽい微笑を湛えて泰然としていやがるが。こいつは読めない。と、


「ど、どどどういうことですかね!! じぶ、自分は隠したままで人のを聞こうという魂胆は!! ず、ずずずるいと言えますかなッ!!」


 いやこちらは落ち着こうか。七三おっさん三島は眼鏡の奥の細い目を歪めながら、全身を脈動させるかのような妙な動きでそんな掠れた声を被せてくるが。ただ言っていることはここにいる面々の総意であったからして、ひとまずその答えを待つように一同は天城へと注目する。


「無論タダというわけでは無い。百五十万。そいつを明かしてくれた人に進呈する」


 ぽんとあっさり言うてきたな……そして余裕の見せ方が最早不気味ですらある。頬骨にかかった自分の髪をうっとおしそうに払うと、天城は俺らの反応をよく眺めようとでも考えたのか、ゆっくりと背筋を伸ばし、こちらを睥睨してくる。が、しかし結構な額だよな……それだけあればここからの「三か月」、生活費に悩まされることは無く、時間も有意義に使えそうではある。シンゴの今の全財産は三万円がとこ。バイトに明け暮れていては、何かを逃してしまいそうな、そんな漠然たる不安はあるにはある。が。


「……」


 俺を含め、承諾の意を示した面子はいなかった。やはり。ここにいる奴にいきなり持ち掛けても成立しねえんじゃないか? とか思ったところだったが、それ込みで吹っ掛けてきたのかも知れねえ。あるいは「能力」というものがあるという事象を共通認識とさせておくため? 天城の考えは全くもって謎なんだが。


「ま、乗るわけも無いよなぁ、ってところまではある程度予測はついていた。その上で本題交渉に入ろう。四日後の午後一時にここにいる七名以外の『八十九名』。未だどこに散っているか分からないその人らをこの秋葉原に連れてきて欲しい。あるいは居場所を『登録』した上で私に報告してくれるだけでもいい。後者は一人につき『二十万』、さらにその者を連れてくればプラス『五十万』を上乗せる。悪くない条件だろう?」


 ……本当に何を考えているかが分からない。そしてそのくらいだったら一人や二人ゲットすることは容易いんじゃないか、とも思う。いや、思わされているのか? 待て待て、疑い深くはいいがそこまで疑心暗鬼だと却って手詰まりになりそうだぜ。


「何か、おカネいっぱい持ってそうな感じだよねー、天城さんはそこも一歩抜きん出てるってわけかー。ま、私は乗るけど。あった方がいいもんね? 今後の対局にってだけでなく、純粋に」


 わざと軽薄そうな雰囲気を出している気がしてきた、ボーイッシュ鹿屋(かのや)はそんな風に確かめるかのような言葉を間延びさせつつ放ってくるが。いやぁ、ここに集まってる全員が全員得体が知れなさ過ぎる。そしてその読めない女のせり上がった双丘に視点をがっちり合わせている場合でも無いと思うが、我が父よ。


「いいねえ、鹿屋さん。資金は潤沢にあるんだ、この男には。というわけでそれを存分に使わせてもらう。私としては『対局の場』という物をどれだけ自分の意に沿むようにするかの方が重要に思えるのでね。君らも勿論集まってくれるんだろう四日後にも? そこで一斉対局と行こうじゃあないか」


 分かったことは、既にこの長髪男に場は取り仕切られているということ。そしてそれに乗っかった方が諸々体よくは運びそうだということ。いや、ここまで勝手やられてていいものかよ? 実体があった時はついぞ持ち得なかったように思えた反骨心とやらがぷこりと頭の辺りに浮かんでくるが。そうだ、「能力」。俺とシンゴのやつは一体? もしかしたらこの場で余裕ヅラかましてる野郎をいきなり屠れるような強力なやつかも知れねえぞ? 俺はゆっくりと注意深くシンゴの目線を未だ強固に固定されていた双丘からこちらにさりげなく向けさせてから、紙を指で示し、口パクで「能力」を調べさせる。果たして。


<あなたの能力はぁ……ドルドルドルドル、じゃんッ!! 『創造力』ぅ~>


 んんんん……どういうことだろうぅ~。


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