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2:ピリオドのない雨

 支部長(ハモン)さんに早く行かないと雨が降り出すぞと言われ、私達は出発した。

 ラクトのパーティーは他にも荷運び(ポーター)がひとりいた。名前はセストド。十代半ばくらいの少年だ。体格もまだ成長途中といった感じで、男だけど私と同じくらい。私からみればまだまだかわいい男の子って感じだ。名前からしてこちらの人なんだろうけど覚えにくい。荷運び用にロバを連れていて、パーティーメンバーの荷物は彼とロバで運んでいる。

 私達は今回ギルドからロバを一頭借りることになった。私達の荷物と雨除けのできるタープを運ぶ。タープはギルドからの貸し出し品だ。

 それと、笠という帽子も貸してくれた。草を編んで作られている浅い円錐形のもので、こちらでは雨を防ぐだけでなく、夏の日除けにも使われるそうだ。見た目よりも結構軽い。戦闘時には邪魔になりそうだけど、移動の間なら結構良さそうだ。


 まずは目的地であるコラプラナという村の手前のスエルテ村を目指す。普通なら半日もあれば到着できそうな距離というけれど、雨が降ると足元は悪くなる。そんなわけで今日は早めの出発を予定していたのだ。


 私達のロバはミオソタに任せた。私達三人分の荷物をロバに乗せ、街道を南へ進む。カナルからカハスプエルトへ来たときに通った街道で、整備されていて歩きやすい。途中から街道を逸れ、スエルテ村に続く南の道へ入った頃に雨が降り出した。


「とうとう降り出したわね。鬱陶しいわ」

 ミーナがぼやく。支部長(ハモン)さんから借りた笠は、しっかり雨を防いでくれる。フードと違って雨が顔に直接当たらないのは結構嬉しい。

 ラクトのパーティーのほうも三人とも笠を被り、あとは外套というこちらと同じスタイルだ。へそ出しだったミオピアも、さすがに上から外套を被っている。シーラはローブがまとわりついて、歩きにくそうにしている。


 雨はだんだんとひどくなってきた。空は真っ暗になり、日が落ちる時間にはまだなのに見通しが悪くなってきた。雨音が強く、近くで大声を出さないと会話ができないくらいだ。

「ミリア先輩、冒険者ってああいうので大丈夫なんですか?」

 ミオソタが言う。結構大きな声だけど、雨音でラクトたちの方には聞こえてなさそうだ。

「なんか気持ち悪くないですか? 普通初対面の人の頭、撫でようとしますか? それにあの女の言葉遣い。だいたい自分のことを名前で呼ぶって正気ですか? 幼児(こども)じゃあるまいし。頭わるいんじゃないですか? それにあの装備、露出多すぎ、変態ですよ。あれで恥ずかしくないんですか? あんなので冒険者ってできるんですか? そもそも人としてどうなんですか?」

 随分とミオソタはラクトたち、とくにミオピアを嫌っているようだ。私もあれはどうかと思う。茂みを通ると足が切り傷だらけになる。鋭い草で肌を切るととても痛いのだ。

「まぁ個人の趣味にまで口出しするもんじゃないから、本人には聞こえないようにね」

 余計なトラブルは避けたい。どうせあの三人と付き合うのも、この仕事の間だけだから、しばらく我慢しておけばいい。


「あー、雨が、染みてきました」

 しばらくしてミオソタが泣きそうな声で訴えた。ミオソタの外套はしょせん古着屋の安物だけあって、この雨には耐えられなかったようだ。

 私の外套はけっこういい素材を使い、防水処理にもお金と手間をかけているだけあってまだまだ平気だ。

「外套も、もうちょっといいのが欲しくなるね。ちゃんとオーダーメイドで作ってくれるところがいいんだけど」

「既製品だとだめなんですか? ブーツと違って外套ならそこまでサイズにこだわらなくても良さそうですが」

「魔法紋、描いたじゃない。あれほんとだったらね」

「なになに? 魔法の話?」

 ミーナが話に入ってきた。この雨の中、よく聞こえたな。

「ミオちゃんの外套、ちゃんとしたの作ってもらわなきゃねって話」

「既製品だとだめなんですか?」

「あー、それね。私達の外套はね、仕上げ処理をする前に魔法紋を入れてるじゃない。既製品だと防水加工とかされてるのよ。それだと後から魔法紋を入れようと思ってもきれいに入らないのよ。ミオのはそこまで水を弾かないものだったから今回は上から魔法紋を入れたけど、ちゃんとしたのを作ろうと思ったら、素材の段階からいろいろと仕込んでおいたほうがいいのよ。魔法のかかり具合も違ってくるからね」

 私が説明しようと思っていたことを、すべてミーナに言われてしまった。

「そうなんですか。それにしてもせっかく魔法紋を描いたんですから、これ、魔法をかけて雨とか防げないんですか?」

「いい質問ね!」

 ミーナが嬉しそうな声をあげた。そしてミーナの魔法講座が始まった。

 鬱陶しい雨の中、ただ黙々と歩くのも飽きてきた頃だろう。ミーナのことはミオソタにまかせ、私は周囲を観察することにした。

 道は未舗装、踏み固められているとはいえ、所々に大きな水たまりもできている。日光は厚い雲に遮られ、薄暗い。周囲は開けているので奇襲の心配はないものの、こちらを隠すようなものもない。雨を防いで休憩できる場所がないのが辛いところだ。下手に立ち止まると体温を奪われてかえって良くない。最初の目的地であるスエルテ村まではそんなに遠くないということだから、このままだと村まで休まずに行くことになりそうだ。


 ちなみに、雨を魔法で防ぐのは難しい。外套に魔法をかけても雨がその魔法の防御を洗い流してしまうのだ。水は魔法を拡散させてしまうらしく、付与魔法は効果がかなり早く消されてしまう。一応外套の内側に魔法をかけるとかもやってはみたらしいけど、それでも少しはましな程度。雨を防ぐには魔法ではなくしっかりとした防水加工のほうが効率が良いということで今は落ち着いているそうだ。


「あ、そうだ、ミリアも聞いて」

 ミオソタと話していたミーナがふいに私に声をかけた。

「あっちのパーティーのシーラって魔術師、多分冒険者じゃないわ」

「え、でも支部長(ハモン)さんは『半月(ハーフムーン)』級って言ってたよね」

「本職の冒険者じゃないって意味ね。私達みたいに、大陸で冒険者をやっていてこっちに来たわけじゃなさそうよ」

 ミーナに言われて私は朝から感じていた違和感の正体に気がついた。

「そうだよね、冒険者を長くやってるならもうちょっと動きやすい格好をすると思うし、階級(クラス)が変だよ。大陸の冒険者証が使えなくなったのは最近の話だから、大陸から来た冒険者だったら今はまだ『新月(ニュームーン)』級だもんね」

 とりあえずシーラは冒険者という地位以外でこちらに渡ってきたということだ。

「あちらの素性がわからないうちは気をつけておいたほうがいいと思うの。

というわけで、とくにシーラには気をつけて。極力こちらのことは話さないようにね」

 私とミオソタは頷いた。


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