1:すばらしい出会い
ギルドからの依頼のため、出発する日となった。
朝食を済ませ、また戻ってくると宿屋のおばちゃんに伝え、飲み水と昼食用のおべんとうを受け取って宿屋を出た。今日は朝から曇り空、いつ降り出してもおかしくない天候だ。
仕事の開始を告げる鐘はまだ鳴らないくらいの時間で街はまだ静かだ。お店は開いていない時間だけど、冒険者ギルドにはもう支部長さんはいるに違いない。
そう思ってギルドに行くと、予想どおり支部長さんは居た。
「お早うございます、支部長さん。早いですね」
「おう、家に居ても仕方がないからな」
支部長さんが具挟みパンを食べながら答える。
「あー、紹介は、自分でしてくれ」
支部長さんが親指で刺した方向には、三人の冒険者らしき人たちがいた。
「君たちが魔獣退治の尻拭いに行く冒険者か。俺はラクト、こっちの小さいのがミオピア、大きいのがシーラだ」
長剣を背負った男が言った。
「もうっ、ラっくん! 小さいってなんのことですか! ぷんぷん! あ、ミオはミオピアだよっ!」
小さいと言われた女が微妙に高い声で言った。
「わたくしはシーラです。もう、ラクトさん、そんな紹介の仕方はどうかと思いますわよ」
大きいと言われたほうの女が言った。
「背の大きさのことだよ、何のことだと思ったのか?」
わかりやすく拗ねる小さいのといかにもあきれているという表情の大きいのに、やれやれといった様子で男が返した。
ラクトは戦士のようで、どうやらパーティーのリーダーっぽい。軽装ではあるけれど、ちゃんと防御すべきところは防御している真っ当な装備で、鮮やかな色のマントをつけている。顔立ちはわかりやすい美形で体格もすらっとしている。いかにも女性にモテそうな容姿だ。
ミオピアは薄紅色の髪の毛を両サイドで結んでいる。いわゆるツインテールだ。腰にはショートソード、そして背中に弓を背負っている。おっぱいは小さく弓を射るにはじゃまにならなくて良さそうだ。背丈は私より低く、ミオソタより高い。しかし、装備は冒険者としてどうかと思う。下着が見えそうな短いスカートのうえ脚はむき出しだ。そして名前が覚えにくい。しかもうちのミオソタと『ミオ』が被っていて紛らわしい。
シーラのほうは魔術師のようだ。ブロンドの長髪で、背丈はミーナと同じくらい、そしておっぱいが大きい。ミーナより大きい。ゆったりとしたローブと長い杖、いかにも魔術師という装備だけど、なぜか胸元もゆるく開いている。
この人達、本当に冒険者なのか? ラクトという剣士はともかく他の二人はちょっと冒険しにくそうな格好すぎる。
それにしても、どうしてこの女子二人、ラクトとかいう男にべったりとくっついているのだろうか。
「こいつらがどうしても付いて行きたいっていうんだ。俺はお前たちだけで心配ないと思ってるんだが、ギルドとしては失敗できない案件なんでな。すまんが一緒に行ってくれ」
支部長さんが申し訳無さそうな声で言う。
「この人達、実力の方は大丈夫なんですか?」
知らない人と組むのは正直面倒だ。連携がうまくいかず、実力を発揮できないことが多い。実力差があるときはなおさらだ。
「俺たち『疾風の誓い』は魔獣退治特化のパーティーだ。大丈夫、安心してくれ!」
ラクトは爽やかな笑顔で宣言した。
「この男のほうは一応『満月』級で残りは『半月』級だ。最近魔物退治では次々依頼をこなしているらしいからまぁ、大丈夫じゃないか?」
いや、支部長さん、じゃないかってそんな微妙なことを言われても。
「すまんな、こいつら今まで東のほうで活動してたから俺もよくわからんのだ。東支部からの紹介状を見る限りでは悪くなさそうだぞ」
私が嫌そうな顔をしたのを見てか、支部長さんが一応フォローを入れた。
拠点が違う冒険者なら支部長さんが知らなくても仕方がないか。ミオピアは名前からしてこっち出身、魔術師のほうはおそらく大陸出身のはずだ。
「支部長さん、そんなに大事な案件なんですか? どっちかのパーティーだけでいいんじゃないですか?」
「どうもあっちの方面で魔獣の目撃情報が増えているらしいんだ。解決してくれとは言わん。もっと詳しい情報が欲しいんだ。前に行った奴らはそれなりに腕は立つ男が五人、『烈風斬』というパーティーだ。それがなんの連絡もないというのが心配なんでな」
即席合同パーティーは気が乗らない。男がいるのも面倒くさい。それに女二人も癖が強そうだ。ミオソタは明らかに嫌そうな表情をしている。
「『新月』には大変な依頼を押し付けられたと聞いてね。しかも女の子だけだなんて、見過ごせなくてね。もし先発の冒険者が失敗していたら、かなり強力な魔獣が出現している可能性がある。君たちだけに行かせるわけにはいかないよ」
「ごめんねぇ、ラっくんは困っている人がいるとつい首をつっこんじゃうんだ。ミオも今日はゆっくり休もうって言ってたのになぁ」
「ラクトさんはとてもお強いのですよ。彼に任せておけば心配はありません。さあ、いっしょに参りましょう」
ラクトとかいう男も面倒だけど女二人もなんだかイラッとする。ミオソタは明らかに嫌そうな表情を続けている。
「まー頼む、一緒に連れて行ってくれや」
支部長さんの表情が、私達に諦めてくれと訴えている。そういうことなら仕方がない。しかし本当に鬱陶しい。
「えー、ミリアです。剣振ってます」
「ミーナです。魔法使います」
「ミオソタです。新人です」
三人とも声のトーンが低い。
「宜しくな! ミリアちゃん。健康的でかわいいね!」
なんか言われた。
「ミーナさん、美しい髪ですね!」
ミーナも褒められた。
「君は、随分と髪が短いけど女の子だね、かわいいよ。えっと、ミオ…ちゃん… 俺たちにもミオはいるからなぁ」
ミオソタを上から下まで観察しながらラクトとかいう男が言う。
なんか勝手に愛称で呼び始めたぞこの男、随分と馴れ馴れしい。初対面でこの距離感はきつい。
「うちもミオって呼んでるんですけど」
とりあえずなんかむかつくので言っておいた。
「そうか、それは困るな。そうだな、小ミオちゃんでどうかな!」
そう言いながらラクトがミオソタの頭に手を伸ばす。すかさずミオソタはその手を躱して私の後ろへ隠れた。
「もう、ラっくん、撫でるなら私を撫でてよぉ♡」
「なんだ? ミオ、やきもちか? よしよし、ミオは可愛いぞ」
「えへへ、知ってる♡」
ラクトがミオピアを嬉しそうに撫でる。撫でられたミオピアも嬉しそうに目を細めている。
「ラクトさん、だめですよ浮気は!」
シーラもラクトに身体を擦り付けている。なんだよこれ。何を見せられてるんだ。
「そうだ、小ミオがだめならミオ2ちゃんでどうかな」
ラクトが満面の笑顔をこちらに向けて言う。
「んーそれもひどいよ。あ、そうだ! 2号ちゃんってのはどうかな?」
ミオピアが笑顔でこっちに語りかける。
「あー、もうそれでいいです」
ミオソタが心底どうでもいいといった表情で答えた。
(追加編集)先に行った冒険者のパーティー名を追加しました。呼びにくいので。




