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8:シングルベッドはせまいのです

「あ、今日ギルドで支部長さんから聞いた件なんだけど。どうする?」

 今日、ギルドで支部長さんから聞いた話は、既に二人には伝えている。これから今後どうするかを話し合おうと思う。


「まずは小屋の件ね。ペロテラのことは可愛そうだけど仕方がないわ。私達のことも知られているかもしれないから気をつけないとね。絶対に一人で行動しないようにね。ミオも、もしあの小屋に関わってた人を見つけたら教えてちょうだい。」

 ミーナはペロテラのことはそこまでショックじゃなさそうだ。私よりも割り切れている気がする。元々ミーナが苦手なタイプだったからかもしれないけど。


「次に西の街(ウタラク)の件ね。これはもうちょっと情報が欲しいわね。場所もちょっと遠いからすぐに調べに行くわけにもいかないわね」

 ウタラクまでは馬車を使っても一週間はかかる距離。しかも西の方は治安が悪く、街道沿いには盗賊が頻繁に出没するそうだ。


「魔法剣を輸入しているってきいたけど、エリシュバルと貿易してるならミーナん家の力でどうにかならないかなぁ」

 ミーナの実家は下級貴族だとは聞いているけど、せめて実家に現状を伝えることくらいはできるかもしれない。

「それね、魔法剣を輸出するなんてちょっと怪しいと思うのよ。魔法剣の開発や販売は国が管理しているの。あれって結構高度な技術が必要だからそれなりに高いものになるのよね。こっちでそれを買えるだけの需要があるのかしら。もしかしたら国が関与してない怪しい取引の可能性があるわ。もしそうだとしたら、下手に貴族と知られると、逆に私の命が危なくなりそうね。扱っている魔法剣を見れば、ある程度事情がわかるとは思うんだけどね」

 迂闊に関わるのも危険そうだった。やはりここはもうちょっと情報が集まってからにしたほうが良さそうだ。


「あ、ミオちゃんには難しかったかなぁ。エリシュバルってのは国の名前でね」

 私とミーナだけで話が進んでいるようなので、ミオソタに説明しようと思った。大陸のことはこちらの人はあまり知らないと思ったのだ。


「えっと、エリシュバルは大陸の西にある魔術に長けた国ですよね。元々グランザード帝国の属国で、戦争で帝国が崩壊したあと独立した国のひとつ、で合ってますよね。同じく独立したファルファリアと並んで、二国が大陸で今力を持っている国だと」

「あら、よく知ってるわね。私がそのエリシュバルの出身で、ミリアはファルファリアが故郷なの」

 ミーナが驚いている。私も驚いた。こっちじゃ大陸のことは『大陸』とひとくくりで言われるだけで、具体的な国の名前を知らない人も多いのだ。


「お貴族様の屋敷では、大陸の国のことも教えられましたから。でもエリシュバルとファルファリアはあまり仲が良くないと聞いていたのですが、お二人は問題ないのですか?」

「元はひとつの国だったから、いがみ合ってるって感じはないかな。今でも国をまたいで旅する人も多いわよ。仲が良くないというのはおそらくお貴族様視点の話でしょうね。国同士は大陸の覇権争いをしているし。ま、お互いライバル視して競争してるって感じかしら」

「そうですか、大陸が平和なら安心です」

 大陸に行きたいと願っているだけあって、大陸の治安について気になっていたのだろう。ミーナの答えにミオソタはほっとしているようだ。

「ま、今は人間同士が争ってる場合じゃないってのもあるかな。魔獣という共通の敵がいるからみんなで協力しようって感じだね。そういう意味じゃ平和かどうかはちょっと微妙だけど、人同士がいがみ合ってるここよりは安心できると思うよ」

 お貴族様に関わりさえしなければ、大陸ではさほど差別はない。少なくとも鬼人(ガラビト)が暮らすなら、大陸のほうが良さそうなのは間違いないだろう。


「それより両国が狙ってるのはニーネスタ島のほうよ。こっちには魔晶石の鉱脈が多いからなの。だからファルファリアはシューラが荒れているのをいいことに、治安維持のためという名目でシューラを支配しようとしてきてるのよ」

 ランザー様を悪く言われたような気がして、一瞬むかっとしたけど、ランザー様個人は平民のことを考えるお貴族様としては珍しい人だ。普通の貴族なら、とくにこんな辺境にまでやってくるのは野心家でもなければ来たがらないだろう。

 国がシューラ支配しようとしていると思われても仕方がない。魔晶石は大陸では滅多に採れない貴重品なのだ。


「それにしてもファルファリアがシューラから撤退するとは思わなかったわね。何があったのかしら」

 そう言われると確かに不思議だ。私が生まれる前からファルファリアはシューラに手をかけていた。かなりのお金と労力が注ぎ込まれていたはずだ。今撤退すれば、それらがすべて無駄になってしまうだろう。ランザー様が亡くなったことが撤退の原因かとも思ったけれど、騎士団にはそこまでの権力はないはずだ。騎士団長がやられれば、次の騎士団長が任命されるだけのことだ。騎士団長はいわば中間管理職。代わりはすぐに充てられるはずだ。

「ミオはお貴族様から何か聞いてないの?」

 ミーナがミオソタに尋ねる。

「いえ、お貴族様が国へ帰られるのも急に決まったことのようで、かなり慌ただしかったですよ。まるで何かから逃げるかのようでした」

 ミオソタもなにも知らされていなかったようだ。

「んー、わからないんじゃ仕方ないわ。とりあえずこの件は置いておきましょう」

 話が逸れてしまったけど、西の街(ウタラク)のことはとりあえず様子見ということになった。


「んじゃ、依頼の件はどうする?」

「魔獣退治に行った冒険者の行方探しね。おそらく魔障獣を倒しに行ったと思われるのよね」

 これが今回一番大事な話だ。このままずっと宿屋暮らしをしているわけにもいかないし、ミオソタに経験も積ませたい。ただ、魔獣の詳細がわからないのが気がかりだ。それに、まだブーツができていない。


「魔障獣って何ですか? 魔獣とは違うんですか?」

 ミオソタが疑問を口にした。

「よくぞ聞いてくれました! それでは魔獣とは何か、お姉さんが優しく説明するね!」

 あ、ミーナの目が輝いている。ミオソタという初心者を捕まえたミーナは興奮して鼻息を荒くする。

「まずはそうね、魔物って言い方あるでしょ。あれは魔法的な要素を持つ生物の総称ってとこかな。その中でも獣とか動物の類が魔獣って呼ばれているのね。だから大抵のものは魔獣って呼んで正解よ。魔獣と呼ばれるものにはいろいろあってね、鬼もその中のひとつ。鬼は角があってちょっと人間に似た姿をしているわね。他にもシューラで昔作られた人造魔獣なんかもあるかな。そして、魔障獣なんだけど、これは元々は普通の野獣なの。狼とか猪とかね。そういった獣が魔法の影響で怪物になったのが魔障獣と定義されているわ」

 私も何度も嫌というほど聞かされた話だ。ミオソタは真剣に聴いている。まあこれくらいは冒険者なら知っていて当たり前の話なので、ミオソタにはしっかりミーナに付き合って覚えてもらおう。


「それで、どうするミーナ」

 ミーナの薀蓄話が一段落したところで尋ねてみた。

「そうねぇ、受けてみようかしら。支部長(ハモン)さんに恩を売っておくのも悪くなさそうだし、もしも魔障獣と遭遇したら、倒せば魔術具の素材も手に入るわ」

 魔法の影響で変質した獣である魔障獣は、その牙や革が魔法を通しやすい性質になることがある。それらは魔法の道具を作るときの材料として重宝する。私とミーナの外套も、魔障獣の革が使われている。結構大きなものを使っているので実はかなりの高級品なのだ。付与魔術のかかり具合が普通の革よりも優れているので私達にはその恩恵が大きい。とはいえ、そんなに良い状態のものは滅多に手に入らないものだから、手に入れられたらラッキーくらいの感覚だ。


「それじゃ、明日は革靴屋に行って、ギルドにも顔を出すってことでいいよね」

「ギルドは夜にする? ミオを連れて行くのはまずいでしょ」

 明日はミオソタのブーツの打ち合わせの日だ。ついでにギルドにも立ち寄ろうと思っていたけど、たしかにミオソタを連れて行くのはやめておいたほうがいい。鬼人(ガラビト)を嫌っている職員が誰かはわからないけれど、余計なトラブルは避けるに越したことはない。

「んー、依頼の話を確認するだけだから、ミーナが行ってくれるといいかなぁ。ほら、魔獣のこともあるから、ミーナが話を聞いておいたほうがいいと思うんだよ」

「それもそうね。じゃ、ミリアはミオに合う靴を探してちょうだい。その靴じゃ遠出は無理よ。ブーツができるまでのつなぎでいいから。見つからなかったら依頼の件は断りましょう」

 今のミオソタの靴は草を編んだだけの簡易的なサンダルだ。せめてもう少しちゃんとした靴を履かないと旅はできない。とりあえず革靴屋さんに既製品を扱っている店を聞いてみることにしよう。私より街のことは知っているだろう。



「それでは、今夜からベッド争奪戦を開始します」

 ミーナが改めて真剣な表情になる。

 この部屋にはベッドが二つしかない。そこにミオソタが加わったので、これまではミオソタにひとつ使ってもらい、残りのひとつに私とミーナで寝ていたのだ。

「ですから、私は床でもかまわないんですけど」

「だめよ、せっかくベッドがあるんだから使わなきゃ。それに、これから先、野外では狭いところでくっついて寝ることだってあるわ。他人と一緒に寝るのにも慣れておいて欲しいの。というわけで、今夜はミオは私かミリアどっちかと一緒に寝てもらうわ」

 これも冒険者としての訓練だと言い聞かせ、ミオソタも結局観念した。


「それじゃ、今日はミオちゃんに選ばせてあげよう。私とミーナどっちと寝る? ちなみにミーナは抱きつき癖があるよ。おっぱいは気持ちいいんだけどね」

「あら、ミリアはすぐ胸を揉んでくるじゃない」

「そ、それは誰だってそんなやわらかいおっきいのが目の前にあれば触りたくなるのは当然じゃない」

 ミーナのおっぱいは程よい弾力で気持ちがいい。誰だっておっぱいは大好きだ。男はもちろん女の私だってそう思う。母性を求めるのに男女の差などないのだ。


「どっちを選べと言われても…」

 そう言ってミオソタはミーナのほうを見る。いや、見ているのはミーナの胸か? これは、私負けてる? おっぱいか! おっぱいの差か!

「ちなみに私を選ぶと揉み放題よ」

 ミーナが冗談っぽく笑う。これはまずい。私もなにかアピールしなければ!

「わ、わたしのだって揉み放題! 大きさでは負けるけど、張りでは負けちゃいないよ!」

 どうだ!

「揉みませんよ」

 ミオソタが呆れた表情で私を見る。私のアピールはいまひとつのようだ。


「こ、こいんとす! コイントスで決めよう!」

 ふと思いついた。起死回生の策! これなら確立は五分五分! 可能性を50ポイントも上昇できる。

「いいですよ、そんなことしなくても。もう、ミリア先輩で」

 ため息をひとつついてミオソタが憐れむような目で私を見る。

 なんだよ『ミリア先輩()』って! でも選ばれたのは私です。やったね! 思わずミオソタに抱きついた。

「それから、ちゃんと服を着てください」

 そういえば、みんなまだ裸のままだった。私はこのまま寝てもいいんだけどなぁ。


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