2:若者たち
翌朝、ちょっと早めに宿を出て冒険者ギルドへ向かった。ギルドは結構早めに開いているけれど冒険者の姿はまだなかった。新しい依頼の掲示がされる時間になればきっと増えるのだろう。この時間は職員さんたちがフロアの掃除や古い掲示を剥がしたり、準備をしている最中だ。
カウンターの向こうに支部長さんの姿を見つけたので声をかける。早めに来たのは一緒に行く冒険者のことなど聞きたいことがあったからだ。
「おう、昨日の嬢さんたちか。朝から仕事探しか?」
「いえ、ちょっと知りたいことがあって。今日こっちの冒険者の方と小鬼討伐に行くことになったんですけど、その人たちについて教えていただけることがあればと思いまして。あと大陸への手紙もお願いします」
ミーナが昨夜書いていた手紙を渡す。封書には封蝋もされている本格的なものだ。それを三通、別々のルートでお願いする。ひとつにつき小金貨五枚を支払った。かなりの高額だけど、これで助けが呼べるなら安いものよとミーナは言う。
冒険者の名前を支部長さんに伝えると、しばらく考え込み、近くの職員にも聞いてくれた。名前と年齢からすると多分合っていると思うとのことだけど、ディレクトとトルシドは『半月』級、ふたりとも同郷で、田舎の農家の出身だ。長男じゃなくて家を継げないので冒険者になったらしい。これまでは薬草採取の護衛など地味な仕事でランクを上げてきている。
ペロテラは貧民出身で、冒険者になって金を稼ぎたいというよくいるタイプだ。ランクは今年『三日月』級に上がったばかりだ。
ペロテラ、ランク低すぎない? 旅商人の護衛をするくらいだからもうちょっと上だと思っていた。
これは護衛を任せられるランクの冒険者が少なすぎるのが原因だそうだ。旅商人がギルドに依頼をしても受けられる冒険者が少ないため派遣されない。だから旅商人もギルドを当てにせず、低ランクの冒険者をギルドを通さず直接雇うことが多いのだ。
「この三人は実戦経験が少なそうだな。ペロテラは知らんがこの男二人は割と真面目に依頼をこなしているようだから、無茶しすぎないように見てやってくれや」
支部長さんがそういうからには本当にまだ駆け出しレベルなのだろう。とりあえず私達のほうが襲われるという警戒は少し緩めても良さそうだ。冒険で本当に危険なのは信頼できない仲間だよ。
「あ、そうそう、小鬼の頭が高く売れるって聞いたんですけど本当ですか?」
ペロテラが言っていた買い取りの噂についても聞いてみた。
「小鬼の頭を買い取ってるって商人の噂はこっちにも伝わってきてるよ。ひとつで小金貨2枚だそうだ。ギルドの討伐報酬が舌ひとつで銀貨2枚だから10倍だな。頭の買い取りは舌がなくてもいいらしいから、舌はうちに、舌をとった頭はその商人のところに持っていっているらしい。まったくあんな物、何に使うんだろうな」
思っていたより高額だよ。巣でも見つければそれだけで結構な稼ぎになりそうじゃない。それにしてもほんと頭なんてどうするんだろう。
小鬼は弱い。小鬼と呼ばれるように、鬼に分類される魔獣だけどその割には弱い。子供でも一対一ならどうにか倒すことができる程度の強さだ。
厄介なのがその繁殖力。決まった繁殖期はなく、ともかく増える。半月もあれば成体になる。そしておぞましいことに、人間の女性を攫い子を孕ますのだ。正直、あまり見たくはない魔物なのだ。
だけど、だからこそ私達冒険者がしっかり討伐しなければいけない魔物だ。小鬼は全世界の女性の敵なのだ!
そうこうしてると待ち合わせの三人が到着した。
男性二人は聞いていたとおり同年代で素朴な印象だった。先にランクなんかを支部長さんに聞いていたからってのもあるけど、冒険者としてはまだまだこれからって感じがする。
二人の背格好も装備も同じような感じで、どっちがディレクトでどっちがトルシドか間違えそうだ。
ディレクトが濃い茶色い短髪でややほっそりとした優しめの顔つきで、悪く言えば頼りなさそう。トルシドは金に近い茶髪で後ろ髪だけ少し伸ばして紐で括っている。顔つきはちょっときつめだ。
どちらも動きやすそうな革鎧をベースに、胸は鎖帷子で補強している。ペロテラよりかなり戦闘を重視しているようでその点はちょっと安心できる。ペロテラはもうちょっと装備を整えたほうがいいと思う。
支部長さんに行き先を伝えて出発する。フリークエストとはいえ、ちゃんと連絡をするのは大切だ。もしトラブルに巻き込まれたとき、予定を伝えておけば捜索隊を出してもらえるかもしれないのだ。生存する可能性が増える。
ペロテラたちにそのことを言うと、そんなことしたことなかったなんて言っている。こういう小さなことが冒険者には大切なのになぁ。




