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聖女のお茶会

作者: 氷下魚

朝起きた時に浮かんで、30分で書きました。

誤字脱字があるかもしれませんが、お手柔らかにお願いします。



麗らかな昼下がり、大陸に唯一聳え立つ聖樹の下に設けられたテーブルにつく四人の乙女たちが笑っている。


「今日のお茶は南のものかしら?

 香り豊かで美味しいわぁ」


緩やかな風にサラリと靡く銀髪、夢を見ているような甘い眼差しの薄紫の瞳を持つ北の聖女アナは白いティーカップに注がれた紅色を上品に味わい、感嘆の声をあげる。


「あら嬉しい、用意してくれた民に伝えておくわね」


日に焼けた肌に肩口で切りそろえられた、けれども艶を持つ黒髪、燃えるような赤い瞳の南の聖女マキナは持参した紅茶を褒められ無邪気に破顔する。


「飲み口もスッキリしていて、甘い東のお菓子と合わせるとさらに美味しく感じますわね」


ふんわりと巻かれ大輪の花にすら見えるのに隠しきれない品格を感じさせる金の髪と、海の色を封じたような爽やかな青い瞳をもつ西の聖女ルーナは皿に並べられた素朴な焼き菓子を頬張り微笑む。


「西の御方がこんなに褒めるとは、きっと明日にはこの組み合わせを求めて南と東に民が殺到いたしますね。外交官に輸出を打診しておきましょう」


軍人のような威厳を湛え、波打つ豊かな翡翠の髪をひとつに括った空色の瞳をもつ東の聖女マルティナは先を見据えるような思慮深い視線で後ろに控える若い神官に目で合図する。


東西南北、大陸に存在する5つの国を象徴する聖女達が集まる特別なお茶会の席だった。


お茶会自体は年に二度開かれ、内容も聖女とはいえ各地で開かれる淑女の集まりと相違ないものだったが…今回は違った。


「それにしても驚いたわ、だって次のお茶会はあと二月も先なのに急に呼び出されるんだもの」

「アナもと~ってもビックリしたわぁ」

「私なんて報せを受けたのが浄化の途中だったので、慌てて力を込めてしまって…つい湖を聖水に変えてしまいましたわ」

「急な予定変更は民の暮らしにも影響が出るというのに……一体どういうことでしょう」


チラリ、とマルティナが視線を動かすと他三人の聖女も同様に視線をテーブルのやや後方、下側に下げる。


そこには桃色の髪を子供のようなフワフワとしたボブカットにし、同じく桃色の瞳を持つ少女…中央の聖女モモが地面に敷かれた粗末な敷物の上に座り込んでいた。


「…う、うぅ…」


唇を噛みしめ、屈辱に耐えるモモの姿は庇護欲を誘うが四人の聖女達はそれを冷ややかに見つめるだけ。

本来であれば用意されている筈のモモの席はなく、四人が舌鼓を打っていた南の紅茶も東の焼き菓子もその前にはない。


「私たちが説明を求めているのです、聖女の自覚があるのなら姿勢を正してお答えなさいな」


ルーナの声にモモはビクリと肩を揺らすものの、その口が開く事はない。まるで親の叱責を受ける子供のような態度にルーナは溜息をもらす。


「今を乗り切ればなんとかなるとでも思っているの?馬っ鹿みたい」

「…黙秘を貫いても変わりませんよ、もうこちらで調べはついています」


マキナは呆れたように声を上げ、隣に座るマルティナに視線を送った。視線を受けたマルティナは懐に持っていた封筒を取り出し、開ける。


「中央の聖女モモ。貴女はまだ聖女となって二年も経っていないというのに自身を大聖女だと偽り、王族をはじめとする有力者達に対し金銭を求めましたね?」

「そんなことっ……し、してません…」

「では何故貴女は聖職者であるにも関わらず大きな屋敷を持っているのです?中央の一等地に貴女の名義で高位貴族のものよりも豪華な屋敷があるのは確認していますよ」

「そ、それは…その、信者の方からの寄進で…」

「寄進の記録はないそうですが、一体どこでその寄進を受けられたのでしょう?」


冷静なマルティナの問いにモモはなんとか言葉を絞りだそうとするが、それらは文章にはならず口から音として飛び出すにとどまる。

しかし、微睡むような表情でそのやり取りを見つめていたアナがそっと手を挙げマルティナの名を呼ぶとモモはそれを救いだと認識しパッと表情を明るくした。


「アナ、良か」

「モモちゃんが寄進を受ける場所なんて決まっているでしょぉ?」

「…え?」

「甘ぁいお香の焚かれた夜会か、殿方様との褥の中に決まってるじゃなぁい?イジワルな質問しちゃダメよぉ」

「……あ、アナ?何を言ってるの?私は…」

「大丈夫よぉ、モモちゃん。アナはモモちゃんがどうしようもない淫売だって事ちゃぁんとわかってるからねぇ?」


微笑むアナの表情はまさしく聖女と言えるような慈悲に溢れたものだったが、向けられたモモは地獄の宣告を受けたように体を強張らせる。


「…アナは相変わらず可愛い顔して毒吐きねぇ」

「毒なんて吐かないわよぉ?だって本当の事でしょう?」


モモ以外の四人の聖女は、姿や態度だけ見ればマルティナに畏怖を抱く者が多い。真っすぐに伸びた背筋も厳しさを感じる眼差しも聖女というよりは軍の指揮官に近い風格を感じさせるからだろう。

しかしその実、聖女達や近しい神官の間でもっとも恐れられているのはアナだった。


常に夢の中にいるような柔い表情やゆったりとした口調であるにも関わらず、一度敵に回れば誰よりも容赦なく微笑みながら切り捨てる。

それをまだ聖女として二年しか過ごしていないモモはわかっていなかった。


「アナが言った通り、アンタが男を漁っているのはちゃんと調べがついてるわよ。聖女の条件に清い乙女の項目がないとはいえ、ちょ~っと放題しすぎなんじゃない?」

「…でも、それは…そう!慈悲よ!聖女の慈悲!

 求める信徒に応えるのが聖女の務めでしょう!?」

「…アンタってほんとに馬鹿なのね。

 こんなのが二年だけとは言え聖女を名乗ってたなんて恥ずかしいにもほどがある」


砕けた口調とは裏腹に聖女としての誇りを確かに持つマキナはモモの言い訳に顔を顰め、恥と言い捨てる。


「中央は聖樹も与る大切な土地。

 それを守る聖女がこんな有様では…女神様のお怒りもごもっともでしょう。聖魔力が消えるのも当然ですわ」

「むしろ二年間もよく持った方よねぇ?」

「女神様もきっと見定めていたんじゃないかしら?

 その結果がこれだけど……はぁ、どうお詫びすればいいのよ…」

「私達に出来る事は祈る事のみです」


四人の聖女は顔を見合わせ頷き合うと、徐に自身の右手の甲をテーブルの上に乗せる。


「誰か、モモの手を」


マルティナの声に三人の神官が駆け寄り、抵抗するモモを押さえつけ右手の甲を晒させる。

そこにはそれぞれ文様が刻まれていた。


アナには雪の文様が

マキナには太陽の文様が

ルーナには海の文様が

マルティナには風の文様が


そしてモモには、聖樹の文様が


それぞれの聖女が就任し、この地を守る者であると宣誓した際に女神によって刻まれる文様は証であると共に祝福でもある。

大陸の為に身を捧げる聖女の魔力を人ならざるものにまで底上げし、そして時には女神との交信すら可能にする人間には過分な祝福。


四人とモモは今その祝福の力を持って女神へと祈りを捧げる。



「北の娘、アナが望みます」

「南の娘、マキナが願います」

「西の娘、ルーナが祈ります」

「東の娘、マルティナが乞います」


それぞれが名乗ると、右手の文様から光の柱が天に向かい伸びていく。

幻想的にも感じる光景に周囲の神官たちや、それを外から目撃した民は声をあげる。


名乗るまいと頑なに口を閉じたままのモモだったが、やがてその文様がひとりでに光り、他四人と同様に柱を天まで伸ばした。


それを確認すると、一番年上であるルーナが口を開く。


「我ら血はなき女神の娘。

 その愛によって結ばれ慈悲の繋がりを得し者。

 母なる女神に申し上げ奉る。

 深き愛を裏切り、欲に溺れし者にどうか救いを。

 そしてそれを止める事叶わぬ愚かな我らに罰を与えたもう」


静かな、けれどよく通るそのルーナの声は青色の魔力となって柱を伝い天へと向かっていく。

他の三人もそれぞれ白、黄、緑の魔力を柱から天へと捧げていく。


そしてその魔力が届いてすぐ、天は雲を割り聖女のものとは比べ物にならないほど大きな光の柱を降ろした。


向かう先は俯いたままのモモで、神の光に包まれたモモは一瞬あどけない…幼子のようなきょとんとした表情を見せるがすぐに意味を悟り柱から逃れようともがく。


神と人の間に意識の隔たりは大きい。

救いという言葉の意味ひとつとっても真逆の意味を指すこともあるほどに。


「嫌っ!どうして!私は聖女よ!助けて、助けなさいよぉっ!」


どれだけ暴れようと神の力からは逃れることはできない。

髪を振り乱し暴れるモモの姿を、四人の聖女は目を背けず、ただじっと見つめ続ける。


「まだ全然贅沢できてないっ!宝石も!お酒も!ドレスだって全然着れてないのよ!こんな所で死にたくない!っいやぁあああああ!!!」


絶叫したモモは、神の光によって瞬時にその姿を消した。

モモを除けば最も聖女になって日が浅いマルティナはその一瞬目を瞑りかけたが己の誇りで心を奮い立たせ一部始終を見つめた。


やがて、光の柱は天へと吸い込まれるように消え四人の聖女はそこでようやく呼吸を取り戻す。


「……はぁ~…」

「仕方がないとはいえ、最悪の気分よね…ほんと」

「しかしこれもまた聖女の役目、ということでしょう…」

「……しばらく夢に見そうです…」


四人の右手にあった文様はそのまま残っている。

神によって救われたモモと違い、与えられたのはこの地を守り続けると言う罰なのだろう。


それぞれの神官が仕える聖女に駆け寄り、労りの言葉をかける中で中央の神官だけはどうしていいのかわからず呆然と立ち尽くしていた。


「…中央に聖女候補はいないのか?」

「聖魔力を持った子はみぃんなモモちゃんが殺してしまったそうよぉ?しばらくはアナ達が代わりになるしかないわねぇ」

「…いなくなっても迷惑かけるなんて、とんだ妹だわ」

「そもそも中央の王族や貴族はモモの言いなりになっていたのでしょう?いっそ他の四国で等分してしまえばよいのではないかしら?」

「またルーナは不穏な事を…いや、でも確かに一理あるわね」

「聖樹の周りだけちゃんと囲って、そこを不可侵にすれば行けそうねぇ?」



「やぁ、何のお話だい?」


青い顔をしている神官たちを余所にあれこれと話す聖女達の後ろに、いつの間にか青年が四人立っていた。


「まぁ陛下!どうなさったのぉ?」

「愛しの妃を迎えに来たに決まってるだろ」

「まぁ嬉しい!アナってば幸せ者ねぇ」


アナは夫である北の王の逞しい腕に貼りつき、ニッコリと笑う。


「マキナ、大丈夫かい?」

「これくらい平気よ。わざわざ迎えに来るなんて…王太子ってそんな暇なの?」

「他でもない君の為だからね」


マキナは婚約者である南の王太子の優しい笑顔に頬を染め、フンと顔を反らす。


「ルーナ」

「……旦那様…」

「帰ろう、子供達も待っているよ」


ルーナは夫というには少々年嵩の、白髪の混じった公爵の呼びかけに嬉しそうに微笑みそっとその手に自身の手を任せる。


「どうして貴様がここにいるんだ!

 東で待つように伝えただろう!」

「ティナが大事だからに決まっているでしょう!

 あぁ、こんな顔を青くして…!」

「ええいうるさい!触るな!」


マルティナは部下であり恋人でもある自分より背の低い少年に頬を撫でられ恥ずかしさに激昂する。



それぞれ言葉にはしないが、人を一人天に還した直後だ…愛する者が来てくれた事に安堵していのは見て取れた。

ただその後ろで中央の、恐らくモモの相手の一人であろう中央の王太子が絶望に打ちひしがれていた。





なんとなくの補足。

聖女は浄化の役目とかはあるけど基本的には普通の女性として生活している。


・アナは北の宰相の娘で、天真爛漫な性格に父親の毒舌が混ざって無邪気にサクッと攻撃するタイプ。

生まれた時から王子(現国王)との結婚が決められていたけど愛されてるから全然オッケー!とそのまま幸せに暮らしている。

・マキナは平民生まれだったけど聖魔力が発現した事で南の王太子の婚約者になった。

平民が王太子妃なんてさぞ風当たりが強いだろうと覚悟して顔を合せたら王太子が一目惚れして、それ以降とにかく溺愛されている。そして王太子は腹黒なのでマキナを害そうとした人はいつの間にか消えている。

・ルーナは西の王家に生まれた末娘。

上の兄弟からだいぶ離れて生まれたせいか、大人に囲まれて育ち男の好みも年上好みに育った。

父である国王の右腕の公爵(妻とは死別)に猛アタックして、今は相思相愛子だくさんの愛され公爵夫人となっている。

・マルティナは子爵家の長女で、東の騎士団に所属している。

男の騎士を負かすほどの剣技を持ち、常に冷静に戦局を見定めるその姿に惚れたのが今の恋人で、熱烈に口説き落とされた結果自力で爵位を勝ち取ったら結婚すると約束を交わしている。


・モモは男爵と娼婦の間に生まれた子供。

可愛らしい容姿でチヤホヤされているところに聖魔力まで発現してしまい、チートだヒャッホー!とはっちゃけた結果王族から高位貴族の当主や跡継ぎを骨抜きにしてお金や宝石などを貢がせる。

そしてそのせいで実る筈の聖樹の実が実らないとルーナ達に報告があり、調査が入った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字脱字よりも恋愛要素皆無なのに異世界恋愛のジャンルでは無いのでは?何に該当するかは分かりませんが。
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