3者3様の2軍の悲哀 相模(さがみ)錦(にしき)忠雄(ただお)
やっぱり俺は、異世界行ったら横綱目指す!
異世界に来た途端に、見た目も能力も全盛期の頃に戻っていた。
その声なら、俺も聞いたことがある。
「あなたは今の自分の人生に不満ですね?
でも大丈夫。私といっしょに、人生逆転活劇をつくりましょう!」
別に、不満というほどのものでもない。それに、悲哀というほどのものでもない。
ただ、相撲の世界には、他の世界に無いような様々な決まり事があって、その決まり事に縛られながら生きる、というのはある。
俺は相模錦忠雄という。
元は、幕下の力士。パーティーの中ではムードメーカー的な存在だ。
この世界には『横綱』と『それ以外』しか存在しないのだと。
『横綱』が強くないと相撲は面白くないと、よく言われる。『それ以外』が、どうあがいたところで、『横綱』のいない相撲は、つまらない、ということ。つまらないものはつまらない。
これって、別に相撲に限った話じゃないよな。
どこの世界でも当てはまることなんじゃないか。
このようなことを、幕下の力士の分際で何を言っているんだと、思われるだろう。
大相撲は、幕下以下は給料が無い。2ヶ月に一度、本場所手当てが出るだけだ。
十両以上にならないと、給料という形ではもらえない。それもあって、十両以上を目指すのだが、俺は結局、幕下で終わってしまった。
体力の限界、気力も無くなり、どこかの誰かが引退するときに言った言葉だが、まさに俺もそんな感じだった。
こっちの世界に来たら、まず思い付いたのは、こっちの世界の人々に、相撲を教えるということだ。
真鶴も言ってたが、まず最初は、勝ち負け抜きにして、やってる本人がそれを楽しむこと。
さて、いつまでも悲哀話をしていてもしょうがない。
悲哀話もこのくらいにして、こっちの世界は、剣と魔法のファンタジー世界ということらしい。
俺は、武器も持たず、防具もつけず、まわし一つで戦ってきた。だから、こん棒程度の武器でも、他のやつとは威力が違う。
斧とか持ったら、さぞ強いだろうと思われるかもしれないが、武器など持たなくても、俺は腕力は強いので、格闘技でも充分戦えると思う。
これだけは、誰に何を言われようが、自信をもって言える。
そうだ、謎のモニュメントのある廃墟の村に、
これから行ってみることになったんだ。
当時の村長が大金をはたいて建てさせたけど、
その後、村長が死んだ後は魔物の巣窟と化して、さらにその後は、怪しい宗教団体が祈りを捧げる場になっているみたいだ。
ということで、やっぱり俺は、異世界行ったら横綱目指す!
こうして、美弘、真鶴、相模錦、そして剣士マティアス・ジークフリートの4人は、例の廃村へと足を運ぶ。