女勇者の禁書覚書17
友達は友達。私は私。そう、頭の中では割り切れているはずなのに割り切れていない私がいるってことだろう。
「レナ、どうしたの?」
「いや、なんでもない。どこに座る、れいか?」
「近くならどこでも」
私はどちらかというと明るく陽気ではないと自分でも思うが、あまり迷っていることはできない。
「こんにちは、私、レナといいます」
れいかの連れてきたお友達に声をかけてみたのだった。髪が金色で、それを肩まで伸ばしてさらさらと揺れ動くたびになびいているように見える。青色の瞳に金色のまつげ、背は私よりはやや低く、目線は私のほうが上のようだった。胸は私より大きいだろうか?負けたか?
声をかけられて、れいかのお友達のほうは驚いていたようだった。ほんの一瞬だけ目を大きくしていたことを見逃さなかった。いったい何を驚くのだろう?
「こんにちは」
挨拶が返ってこないためにもう一度挨拶をすると、その相手は軽く会釈をして、あまり積極的には見えない態度で言葉を返してきた。少し暗い。
うーん、いま一つの反応。そんなに私が声をかけてきたことが意外だったのだろうかと、歩く相手の顔をまじまじと眺めてしまっていた。
相手が名乗らずにそのまま席に着こうと歩みを止めなかった。会釈をした時もほとんどこちらを見ていなかった。今もこちらを見ていない。
「あの、お名前なんて?」
私は遠慮がちにそのお友達に話しかけた。別に悪いことなんかしていないし・・。
「・・・メアリーです」
メアリーと名乗ったその少女は立ち止まり、少しの間があってから、かろうじて聞き取れるか取れないかの声で答えた。名乗ってから再び動き始めようとしたとき私は聞こえないと耳に手をかざして相手のほうへ向けて言動で示した。
「はい?聞こえなかった」
私の声は少し音量が大きくなっていたかもしれない。
まだあったばかりの人には、そう大きな声を出すのはためらわれて、抑えたつもりではあった。
そもそも教室はがやついていて友達に話すぐらいでないと会話が聞き取れない。
「メアリー」
「メアリー、・・ですか?」
「そう」
その者の声は小さく、聞き取りづらいものだったが耳をよく澄ませていたためかなんとか聞くことができた。
暗いなあ。なるべく気安く話しかけたつもりだったがだめのようだ。私は少しがっかりして、友達の後ろの席に座った。
全体から見ると私の座った席はどちらかというと後ろのほうの席だった。ここでよかったんだろうか?場所の選定について少しの間、頭の中で論議していた。それは距離の問題でもあった。
大人の人からこの迷っていることを聞いたらきっと、あまり大したことではないと思ってしまうことかもしれないが、何せ、私は友達が多いわけでも、付き合い方が決まっているわけでもない。
前に座ったお友達同士は時折、何かの話をしながら相手のほうを見たりしていた。
うらやましい。
もっと気軽に話しかけられる人がいたらと思うとやり切れないが、まだ私は若い。そう思うことでそのことが私に希望を与えてくれていた。
前の席のお友達同士の会話を少しでも参考になるんではないかと盗み聞いていたが、あまり大したことは話していなく「これいいよねー」とか「あれもいいよねー」とかしか聞こえてこなかったが、たわいない話であることにほっとして、時折、聞こえてくる会話の内容を記憶しようとしていた。
このようなことをしているとわたしなにしているんだろうと一瞬、思うことが何度かあったが、その都度、勉強をしに来ているんだと自分に言い聞かせていた。
ほんと、何しに来ているんだろうと。
勉強、勉強、勉強。ぐ、一瞬、涙が出てくるのを私は必死でこらえていた。理由は自分でもわかっていたが今、それをはっきりとは認識したくはなかった。
いつの間にか始業を知らせるベルが耳から入ってくる。
こらえた分の労力を今度は勉強のほうに変換したかった。
よーし、定期試験でいい点とって、さらに難しいとされる算式も良い点とって公表されてやろう。
正直に言うと授業は退屈だった。読みと書き取りの練習と発音の練習の繰り返しであったからだが、文字はもう私が見たことないものばかりで、刺激的な部分もあり、授業にはいろいろと今まで以上に集中できていると感じていた。
その教師は40ぐらいの男の人で髪と瞳は黒に近い緑で頭を短く刈っていた。授業の内容はいつも通り最初に文字が印刷された紙を何枚もはしご形式で配られて、その文字の読み方と書き順と意味とその例文が書いてあり、それを教師が順番通りに黒板に書いていき、発音と意味の確認と例文などを読み上げていくのだった。私はこの授業を受けてみて何か調べ物をできるものが欲しいと常々思うようになってきていた。確か辞書というものも販売されていたはず・・・。買うか・・。はあ・・。ため息が出てくる。親に頼まなければならない。何一つ自分でやれていない自分が少しだけ嫌に思う。
文字には昔、使っていた絵文字、絵文字から生じた活字の元字なるものもやってはいたが、教師いうには今の時代はもう、これは使われていないし、使われなくなってから相当立っているので歴史学者にならない限り必要とされないが、これも教養の一つだと思ってやってほしいとのことだった。また、これは試験にいくつか出すつもりだとも言っていたのを覚えている。
この、今やっている漢字の読み書きができなければ試験の問題も読むことができず、文章の内容もあやふやになり要約もできない。当然、この先にある算式なるものもできないといわれていた。
私は読みはすぐに覚えられるが書きと意味がなかなか覚えられないでいた。教師が言うにはこれを一番よく覚えられる方法は紙に何度も書いて覚えることだと言っていた。さらに文章中で覚えてしまいことが一番とのことだった。
授業はこの配られた用紙の内容を一通りやり終えると、あとは自習になっていて、教師から「あとは各々やってくれとか、自習にする」とか言われて、自学習時間が始まる。
私は一気に授業のコマ数を入れたかったが、とても一日に数コマしかいれられない。精神が持たない。
最初のほうは時間があるのできちきちに入れていて、それでもこなしていたが、だんだん要領がよくなってくると、自分の限界というものがわかってきて、せいぜい一日に、できれば隔週で入れていくのが最適だと認識していった。
「この漢字の読みは・・・。
授業が自習になると、みな一斉に机の配られたものを暗記しているようだった。
たまに私はみんながどのように勉強しているのか気になり、息を抜いてはあたりを見渡した。
休み時間とは異なり、教室内は静かに静まり返り、鉛筆を紙に走らせる音や時折、鉛筆削りの音がしてきていた。
周りの様子を見ると書いて暗記するほうが多いようだが、黙読している人もちらほらいるようで、それのほうが覚えが速いのだろうかと疑問に思っていたりしたが、今まで学習ということをしてきたことのない私はどちらが最良なのかわからないために、一応はよく言われている書くという動作をしていた。
私は教師の説明していることは一応聞いているし、配られた紙に書いてあること以外に口で説明しただけのものや、黒板に書いたものはメモ書きくらいはしていた。周りもそんな感じではあった。
今は自習中、なのでそれらのメモ書きもかねて学習している。
仕事は文字さえ読めるようになれば、ある程度職業を選べると考えていたが、その考えは甘いことに気が付いた。
教師が就職のことについてたまに話してくれるが、書きも重要だと言っていた。
書くだけなら大したことないと、難しいのは数字を扱うほうだとばかりに目が行っていた。
そのように先生からも周りの人たちからも教えられてきたからだったが、ここにきてようやくわかってきた。
問題なのは平仮名と違い、漢字はたくさんあって意味があり、使い方も文章によってかわり、きちんと基本の意味をとらえていないと大まかでも推測できないということだった。
しかも個々からではおおよそすら予測つかないものがあり、それらは得てして覚えにくいものばかりだった。
よく似ている漢字も区別して覚えることが難しい文字の一つであったが、確実にの考えをもってある程度進んだら、こまめに戻って同じ所を繰り返していった。
教室だろうが自宅だろうが、そのやり方は変わらない。
なので何といっても今まで外の手伝いやら、母の手伝いやら、自宅の植木の刈り、周りの側溝の掃除などをしてきた私には体験してきたことのない苦痛ではあった。
ただじっとしていて机の文字をひたすら覚えていくことがこんなに退屈で我慢のいるものだとは思ってもいないことなので、そう、今でもまだ苦痛を感じながら自習をしている。
つい、きつく体がもじもじしてくると周りが必然的に気になり始めて、手を休めて周りの様子を見るが、誰も弱音は吐いていないし、一人も寝ているようなものはいない。まるで何か時間が惜しいのかといわんばかりの集中ぶりといえよう。
それを見るたびに自宅学習とは違った雰囲気が味わえて、疲れた体に鞭を打って頑張るぞと自分自身を励ましたのだった。
何よりトレーニングの後でさらに午前中は市役所までいき、その足で私塾に通うのは誰でも疲れるというもの。そう、弱音をいいたかったが、これは自分が決めたことであって、無理は承知で受けに行ったのだから弱音は吐くわけにはいかないし、吐いたとしても誰も聞く者もいない状況だ。
せめて聞いてくれる人でもいればもっとがんばれるのに・・・。
一コマがこんなに長く感じたことはなかった。疲れと眠気とけだるさとじっとし、同じことしていることへの苦痛に耐えながら、ひたすら文字を書いて暗記していった。
もうだいぶ時間がたったんじゃないかと思い始めたとき終わりのベルがなる。
「キーンコーン、カーンコーン」
やっと終わった・・。一度、大きく息を吸い込んで吐き出した。
「授業を終わりにする、また次の時間で会いましょう」
そう先生はいうと教室を去っていった。
教師は何人いるかは知らないがそれぞれ専門があると言っていた。
教師の男女比は見た目で半々ぐらい・・今の先生は40ぐらいの男だった。容姿はいいほうだろうがいけいけというわけでもない。好みでもない。年が離れているからというわけでもない。
男子でも女子でも恋バナというか「あの子、かわいくないとか」女子のほうでは「あの、年上の人よくない?」とかよく聞くが私にはあまりピンとこないものばかりであった。
なので女子同士の話でもその話に乗れず置いてけぼりによくなっていた。友達からあの人、かっこいいとかいわれても私はあいまいに「そうかもね」とぐらいにしか返事ができなかった。
私はむしろ、その友人の胸の谷間に目がいってしまい、それから少しどきどきしてしまい、気取られないようにちらり見をしていたりしていた。その子は容姿はとてもよく。しかも巨乳で男子の注目の的の一人でもあった。そんな自分も男子にはひそかに人気があることを私自身は周りから感じ取れなくもなかったが鈍感なのか、ただ好みでないのか相手にはしていなかった。ただ見ているだけではこちらからは話しかける気にはなれない。友人のほうは・・またはその視線で見られているせいかだいたいやや微笑んでいて、何かしらの自信があるように見受けられたがその微笑みが妖艶な笑みなんだとは気づかなかった。・・いずれにせよそれらすべて気のせいかということにしておいた。
私は同性を見ると胸がでかい、私より小さい、勝った。私はただそれに尽きるものだと決め込んでいた。
皆、ばらばらと動き始める。
私もトイレに行こうと立ち上がる。
この時代で一般に普及しているトイレといえば汲み取り式のぼっとん便所だ。
水洗式というものがあるらしいがそれは役所でしか見たことがなかった。
トイレの入り口はスライド式のドアで仕切られていてにおいに配慮された設計にしてあった。
素早く用を終えると持ってきたティッシュを用意して、ようを終えると鏡の前で置いてあるせっけんを使い手を洗い、蛇口をひねり水を出して手をすすぐ。
目の前に鏡があるが見ないで出てきた。
教室はいくつもあり、今は私の使っている教室以外は殻で誰もいないはずであった。
から教室であるはずのドアを開けて中をこっそりのぞき見てみる。たまに男女で話あっている姿を見るため中の様子をチラみすることは必要であった。
中の様子は誰もおらず、入り口のドアを閉めて、ポケットから小さい手鏡を取り出して自分の顔を見てみる。血色はいい、肌艶もいい。目もともよし、顔は体とは裏腹にやや微笑んでいるように見えた。
手鏡の前で少し微笑んでみる。そこにはいつもの自分がいて、目にも輝きがある。なんでこんなに目はキラキラしているのだろう?こんなに疲れているのだから疲れている眼をしていて当然だったがそのようにはなっていない。なぜだ?疑問がわくがこの質問に私自身が答えることはできないのは明らかだった。
少しの間、鏡を見ていたが鏡を胸ポケットにしまい、元いた教室に戻った。
教室に戻ると私の机に前の席の友人が隣のものと何かを話している。
私はお得意の聞き耳を実行して話している内容を把握しようとしていた。
内容はやはり普通だ。私もこれぐらいなら話せる。おくそ微笑んでいる私がいた。
隣との話が終わったら喫茶店の話でもしてみようと待っていたが終わることなく次の授業になってしまった。胸のドキドキ感が失せていくのが感じられた。
始業ベルが鳴る前に、先ほどと同じ講師が入ってきて、黒板にチョークかロウ石で何やら書き込んでいった。
平仮名とも、漢字とも違う、それは数字というものだった。
予約授業の内容は詳しくは見ていなかった。どうせ授業は書き取りの漢字だろうと・・・。




