女勇者の禁書覚書16
不安を払しょくするためにこれから良くなっていくはずだと勝手な結論づけをした。そうせざる得なかった。わからないことが多すぎる。
市役所を出て、もと来た道を歩き返して、途中、川岸でなぜか鹿が草を食べている。
周りを見渡しても一匹しかいないようだった。なぜこんな町中に、しかも一頭だけいるのだろうと不思議でならなかった。
川岸でのんびりと草を食んでいるシカをよく見てみると、背中に三本の縞がはいった個体と気づいた。
私は川の橋の半ばあたりで歩みを止めて、やや古びた木造の手すりに手をかけて川岸でのんびりと草を食んでいる鹿をじっくりと見やった。
どんどんと疑問がわいてくる。なぜここで草を食んでいるのか?どうやって入ってきたのか?まさかあのさくを乗り越えてきたとは思えない。じゃあ、あのジグザグ門を通ってきたのか?番人は何をやっているのか?あの鹿の親しげな瞳はどう説明するのか?どう見ても人に慣れていてここが安全だということを認識しているようにしか思えない。
では飼われているのだろうか?ヤギや犬を飼っているところはあるがこの都内ではそれがせいぜいなはずだ。牛もいたか・・・。
牛もいるが城柵の近くであり、その柵の外にもたくさんいたと記憶しているが、鹿はさすがに、今まで一度も見たことがなかった。
その鹿の周りを見渡したがそれらしい人はおらず、というか人が一人も見当たらなかった。
あたりはシーンと静まり返っていて、今朝の通勤で人が増えてきてあちらこちらにいたのがうそのようだった。
私は橋の手すりに両腕をまげて顎を腕に乗っけるように橋の手すりに身を預けたように腕を手すりに乗せたまま鹿を見ていると鹿は川まで近づいていき、そこでいったん止まり、顔を水面近くまで近づけて、様子を見ては顔をあげて遠くのほうを見て、また顔を下に近づけてを数回繰り返していたが一気に川の中に入り泳ぎ始めた。
私は目を少し大きくして事の成り行きを見守っている。正直、驚きの一言であり、鹿が泳げるとは思えなかったからだ。
それは鹿の足を見て見るとわかるが、カエルのように手のひらに膜がなく、それゆえ水をあまりかけないものと考えていたが実際、見てみると泳げていたのだった。
速度はそれほどでもないが確かにおぼれずに泳いでいる。
それもそうかと納得しなければならないところもあった。
鹿は首が長く、人のように水が顔まで来ないために高い位置で呼吸をしやすく、溺れにくいのだと、その私の見ている前で少し離れてはいるとはいえ、まざまざと見せつけられた。
確か・・犬も泳いでいたことあったっけ?あんまり早くはないけど。舌を出しながらなんだか嬉しそうに泳いでいたことを思い出していた。
つい最近、犬を連れたおじさんが、この川岸で犬を放し飼いにしていて、その犬が川の中に入り、泳いでいるのを目撃していた。
犬がおぼれないなら鹿はもっとだろうと考え、鹿は泳げると結論付けた。
まあ目の前で泳いでいるのを泳げないと言い張るわけにはいかない。
川はそんなに深くないらしく時折、足を地面につけているようすのせいか体高が浮き沈みが大きくなったり小さくなったりしていた。
この川は中洲もあり、中洲には小さい石ころと、おそらく土砂などの堆積物もあり、そこに草が生えていて、そこだけは数段高くなっているようだった。今は普段通りの川の水量である。
そのまま鹿を見ていると鹿は対岸までゆっくりと、しかしどこか必死そうな泳ぎに見えた。
鹿が対岸まで付くと草が生えている場所に飛び上がるようにひょいと陸に上がり、また再び川岸の草をはみ始めた。
川べりの草、そんなにおいしいのか?そのまま食べてよく平気でいられる。人ならまず腹を壊すだろう。水もそのまま川の水を飲んでいる。しかしここは透明で、現に昔は私自身、川の水を飲んだこともあり、また近所でも水を汲んでいることをたまにみつけるので飲めなくないもない。
父から山中の水はうまいぞーなど聞いているために、つい、そこの川の水を飲んだが、腹を壊してしまい、後悔した経験を持ち、今に至るため、ここの川の水は飲料水になると思っているがなるべく飲まないようにしている。母も以前はここから汲んで飲み水としていたらしい。今は共同井戸が主流だが水を各家庭に引けるようにしようと、この国のこの都市には持ち上がっていた。しかしずっとこのことは様子見になっているようだった。
理由は川の水だとごくまれにだがあたることがあると父が母に私に妹に言っていたことがあり、それで国はそれを見送っているのだと思っている。やはり井戸の水が一番なのだろう。
飲んで危険な場所は、水田やたまり水でずっと溜まっているような場所で小さい虫、それはミジンコと呼ばれているものらしい、小さい生き物で、私自身その生き物を水田で見たことがあった。旅の途中でまず水を口にしたいのなら優先的に湧き水、次に流れる川なら安全と聞いていた。
それを聞いて以来、川の水は一切口にすることはなくなった。あまり信用できない情報だ。でも湧き水の安全は間違いないだろう。相当きれいだから。
私には鹿の個体を識別するだけの知識はなく、また当然、慣れてもいなかったため、この鹿が今朝のあの鹿かどうかすらわからなかった。
鹿同士だとなき声をもとに識別するらしい。自分には難しそうだった。鳴いてもいない。
この生き物はいったいどんな鳴き声をするのだろうと気になった。
鹿でもよく見ると違うと言っていた父の言葉を思い出して、まじまじと再びシカの顔をよく見るが当然、鹿の顔などで識別できるわけもなかった。動物はどれも同じように見えてしまい、人からでは識別できないようだった。鹿からは人を区別できるのだろうか?
一時の間、役所の出来事を忘れそうになるほど鹿の存在は大変珍しいものだった。
生まれて初めて見たというのが素直な感想だ。遠巻きに見るとその鹿は小さいように見えるが実際は大きいのかもしれなかった。人懐っこそうにも見えて表情というかしぐさというのか、とてもなんだかうれしそうに見えてくる。それが私の第一印象だった。
動作というか、目配りというか。朝見たものと被ってしまっているかもしれない。
私は手すりに腕をかけたまま、役所でのわだかまりを持ったまま私塾へ早く行こうと精神だけは焦っていた。
いち早く私塾での習い事を終了して就職しなければ、今はまだ親はうるさくはないが、いずれ早かれ遅かれうるさくなってくると友達の姉から聞いていたので、確かに最近、何かとうるさくなってきている。
今日の予定の時間だけでも終わらせようと塾へ行こうとシカを見るのをやめて、足は私塾のほうへ向かい始めて足が自然と早くなり、この時間、予約とれるのかと焦り始めていた。
予約といえば手紙予約と待ち予約があり、普通は手紙だと書いてあったが届くのにいったい何日かかるのか、最低三日はかかるだろうと、以前受付に聞いたことがあり、向こうにつくだけで三日間なんてやっていられないので、直接、塾へ行っての予約が主流だった。
私は途中の移動しながらの景色を見るのもとても好きだった。大体、周りは畑か住宅街かであり所々公園と広々とした原っぱがある程度と草が駆られていたりするので手入れが行き届いている空き地もちらほらと見受けられる。きっと、ここは日当たりが良いから住宅が立ち並んでいくようになるかもと不安を覚えながら、行く先々に思いを巡らしているとあっという間にお目当ての場所についてしまう。塾のもう、扉まできている。ぐるっと反対方向を見ると、そこから眺められる光景はなかなかによいもので、ここを選んだ理由の一つでもあった。塾の立地している場所は数段だけ高くなってはいるとはいえ、ここは高台にあり、周りに家があっても、そこから低い田園地帯、穀倉地帯などはここよりずっと低いために遠くのほうを眺めることができた。
ここから眺める場所はなかなかのものだろう。
役所のような高い建物はもちろん、ここよりもっといい眺めの場所はある程度知っていた。
待ち予約の状況を見るために二重ガラスの扉の一つを押して中に入り、さらに扉を押して開けて中に入ったのだった。この扉は前後に開閉する仕組みで引いてもよかったのだ。
中に入ると受付があり、そこには受付嬢が幾人かいるが、こちらをちらりと見ただけでなにもいわれなかった。
距離があることもあるだろう、そう思い受付に近づいて行った。
なぜか少し緊張する。私はお客様であり、受講者だ。どうどうとしていればそれでいい。
「あのー、予約待ちをしたいのですが・・」
その私が話しかけた受付嬢は背広ではなく、比較的ラフな格好だった。皆、背広ではなかった。
「はい、少々お待ちください」
受付嬢はデスクの中から何か計画割り振り表みたいな厚紙を取り出して、人差し指で確認していた。
その紙自体は、比較的大きいものだが、そこに書かれている文字は小さくてさぞ見づらいだろうなーと思わせるものがあった。
「えーと、この時間ですとどの授業でも受けられます」
よかった。もし予約待ちになっていたらどうしようかと考えていた。もちろん待つ気ではあったがあまり長い間、待たされたらどうしようと不安になってきていた。授業を受けたての時に、予約待ちのために受付に行ったら相当待たされた経験があり、今回はどうなのかと心配したがとにかく予約がすぐに取れたことはなによりだった。
「なら、すぐに受けます」
「それですと、11時からのがあります。教室とうえkる講義内容はそこにある掲示板で確認お願いします」
受け付けはそこにある掲示板を手振りで示した。
友達と、この場所で会わないのが残念に思えて、しかし休憩所にいるかもしれないと勝手に期待していた。
「はい」
私は返事をすると、先ほど受付が指示した場所までいき、その深緑色の掲示板で白のチョークで書かれた文字を見たのだった。
そこには日付ごと、時間ごとに区切ってある授業日程の内容があり、好きな授業を受けていいものだった。
どれでもいいといっても、どれを受けてどれを受けていないかはこちらで把握していなければならない。
把握していないと同じものを何度も受けるということになりかねず、いつまでたっても終了せず、自分が困るだけだったから。
私は懐から懐中時計を取り出し、その時計の時刻を見た。まだ時間は少しあるので休憩所へ向かう。休憩所はいくつかあり、地下にある休憩所が一番近そうなのでそこにしようと決めた。
建物の中は私が入校する前までは薄暗いところのようだったようだが、今はがらりと変わり材木窓がガラスの透明なせいで明るく、モダンなように見える。それもここにした要因の一つになっているのは明らかだった。
ガラス張り以前だったなら、ここに決めたかはわからない。ここではなかったかもしれないのはかなりの確率で高そうだった。
扉がガラス張りで明るくなっていて、昼間と同じように光が入ってきていて、周りがよくみえる。
個々の階に休憩所はあるし、地下にもあった。ここは良いところだ。
地下もあるところには上のほうにガラス窓があり。明るくなっている。そこには売店があり弁当を売っているようだった。地下に来ると食べ物のいいにぴいが漂ってくる。ここは昼間にはごったがえす。夕方以降の暗い時には、明かり石なのかランタンなのかはわからないが、少し高い場所にそれらを置くところがあちこちにあり、そこから光をとるのであろうと予測できた。
ここの場所も、今は閑散としていることだろう。
気分が徐々に高まっていくのを感じながら、階段を下りて行った。
予測通りの昼間とは比べ物にならないほどに閑散としていた。
シーンとして耳が痛くなってくる。ここには誰一人、人がいないんじゃないかってほど物音一つしなかった。
売店の人はどうなっているんだろう?階段を降りて、売店は少し進むと分かれ道になっている、降りてきたほうからいうと右端あたりにある。いるよね?いるはず・・そう心の中で確認していた。
階段をすべて降りていくと、予測通りに売店があり。自然と不安げの顔を店に向けた。
売店の人はしっかりとそこにいて、いつでもお客が来ていいように立って正面を見ていた。
売店の人は初老の・・いや、もう少し若いかもしれない女の人だった。
おばさん?おばあちゃん?そんな年のように思えた。
ああ、この売店の人も必死なのかもしれない・・それとも趣味がてらかもしれない。そして間違いなく、いつかこの人もここをやめていき、自宅で過ごす日々を送るのだろうと思わずにはいられなかった。私は売店の人が自宅の日が当たる場所でゆりかご椅子に揺られて庭を眺めている情景を頭の中で思い描いていた。そして、いつかはこの世から去ってしまうのだろうと・・。この人はいったいどんな人生を送ってきたのだろうか?幸せだったのか?結婚は?相手はどんな人か?おそらくいれば社会人だろうと勝手に結論付けていた。なんだかそう思うとすごく悲しく、寂しく思う。私の顔はそれが一瞬、表情に出ていたことが自分でもなんとなくわかる。少し涙が目から出てくるのを感じていた
私は改めてきた場所をよく見ると何回も来たはずなのに間をかなりおいているせいか、まるで今日、初めて来たかのように場所を覚えていなかった。いくつかの仕切りのある廊下を短い距離で進むと、なかなかに広い休憩室が仕切りとして使われている壁のガラス越しに見えて、そこに人は幾人か座っていたが皆、知らない顔だった。地下と地上の一階とは吹き抜けになっているところがあり、そこには椅子がないようだったが人は二人ほどいた。男子二人だ。ふざけあっているようだった。
どこに座ろうかと周りを見渡している私は少し寂しい思いだった。表情にも出ていただろう。私はそのことには気づかせないように配慮したがとっさの言動は抑えられないし、毎回、鏡で自分の表情を確認する人にはなりたくない。そうならないように意識はしていた。
友達はいない・・・。
広い場所でよいところではあったが、ここに草木があればもっとよかった・・。地下なので多分に気分だと思うが、やや息苦しさを覚えて、やや不安もあった。地下はあまり好むところではなかった今度、休憩場所は三階か屋上の休憩所にしようと決めた。
あそこは私の気に入っているところで、そこから眺める光景は地上からかなり高く、街を見渡すことができる場所であった。でもこんな高さを経験したことがない私には怖いところでもあり、しかし魅力的でもあった。行けば病みつきになるかもしれないと考えていた。
今、すぐにでも行きたかったが時計を見るとまだとはいいがたい時間になってきていたので、そこに座って周りを眺めていた。
見るとさっきの同じくらいの男子二人が地下のベランダというべきところなのか、そこで今度は何か話している。
おそらく、その二人は結構親しいのだろう。ふざけあっているのが外からでもわかる。ふざけては少し話して、ふざけては少し話し手を繰り返しているようだった。片方が手を少し相手のほうに出して笑っているのがよくわかる。
私だって友達くらいいる、そう強気の心持ちだけは持っていた。
他の者を見渡すと一人で教材を見ているもの、特に何もするでもなく椅子に座って私と同じようにふざけあっている者たちを見ている。ベランダにいる二人以外は同姓で服装もまちまちで外行きの服装をしている。二人を見ている女の子に注目してみる。これは話かける機会ではないのか?そう、頭を横切る考えがあった。今、話しかければお友達になれるはず・・・。その考えを持ったまましばらく考え込んでいた。何も迷うことはない。おそらく同年代、きっとあの子も話し相手ぐらいは欲しいに違いない・・・。それでも考え込んでいた。その子はチャイムが鳴ると行ってしまった。結局、何も話しかけることができずにその機会は失われてしまった。
また今度でいい、そう思う気持ちもどこかにあった。
この矛盾する気持ちと戦っていた。
この時間は案外長く、声をかけるんだになる前にチャイムが鳴り、声掛けはあきらめたのだった。
あの子はどのような思いでふざける男子を見ていたのだろう?はやり二人のようにふざけられる友人が保井氏と思ってしばらくの間その男子を見ていあのだろうか?それともうるさい?確かに最初は静かにしろっと言いたかったが、途中からだんだんうら疚しさが消えていき、いつの間にか混ざってみたい気持ちになっていた。私は女、二人は男、それもあるがそれだけではない何かがあった。おそらく、二人の間で築いてきた割り込みにくい何かだろうと私は薄々感じていた。
私は自分の持ってきたカバンがあることを確かめると地下の階段を上がり始めた。
教室の入り口を見ると高いところに1-1と焼き入れを入れたような文字で書かれた、木材でできている、長方形をした看板があった。これが教室を表していることに最初は気づかなかった。受付にどこを見れば指定の教室だとわかるのですかと聞いたほどだった。案外、私のようなものは多いのではないかと思っている。案内図がしっかりできているせいか、その図面から場所を読み取っていたがそれも限界のようだった。
生徒らが一斉に出てくるため入り口付近で待っていた。
椅子を引く音、話し声などが聞こえてきて、部屋の片隅にある両方のドアから人がどんどん出てくる。
私は一階のテーブルと椅子がある場所で受講者が出ていくのを待っていると、中から見知っている人が出てきた。その隣には私の知らない友人を連れていて、少し複雑な気分になった。
私だけが友達ではない・・。
今に限ったことではないが私の友達には私とは関係ない知らない人と仲良くなっているのは当然であり、予測もできてはいたが、私にはそれが何とも言えなかった。・・・そう、ただのわがままの独占欲だと・・思う。幸いこちらに気づき友人のほうから話しかけてきた。
「レナー、おっはー」
「おっはー」
私はその瞬間は元気よく、何事もなかったように友人に挨拶を返したのだった。
すぐに友達だと気づき、友達のほうを見ながら、ややはにかみながら笑顔で言葉を待った。
「元気だった?」
「うん、もちろん」




