女勇者の禁書覚書14
階段下から母の声が聞こえてきたとき私はいつも通りだとほっとした。
なぜほっとしたのかはわからないが、おそらく朝食を食べられることで気が緩んだというべきだったのだろう。
その声ではっと目が覚めたが、あえてもう一回呼ばせることにした。そうしないと最初から起きていたとを母に勘繰られるし、父は私が起きていることを知っているため私はどうしようかと寝床で考えている今、現在である。
なので今は再び名を呼ばれるのをベッドであおむけの状態で布団から手を出して、腕組をして、待っている始末であった。
「レナー、リナー、ご飯よー早く起きなさい」
母は階段下から声をかけ、それでも返事がないと二階の部屋まできてしまうために返事をしようとドアまで行く。
「早く起きなさーい、冷めちゃうよー」
こといらただしげな母の声が二階にも響く。
私は急ぎベッドから飛び起きてドアを開けて返事をした。
「はーい」
「もう起きているのなら最初から返事をしなさい」
母の少しいらだった声が聞こえる。
「今ー、起きたー」
なるべく大きな声で、しかし怒鳴らないぐらいに声の大きさをおさえたのだった。
「妹も起こしてあげてー」
母のその言葉は安易に予測できた。
私は母の言っていたように妹を起こすために妹の隣の部屋ドアまで行き、そこで立ち止まったのだった。
私はなぜだか少しドキドキしていた。たかだか妹を起こすだけなのになんでこんなに緊張しなければならないのだろうと疑問に思ったがわからないためにあまり考えないことにしている。
こんこん。
ドアをノックした。するとすぐに部屋の中から返事が来た。
「はーい、今いくー」
どうやら妹もおきているようだった。
「起きてるなら返事くらいしたほうがいいよー」
「いま、したよー」
妹から私に抗議の声が上がった。
「そうじゃなくて、お母さんに呼ばれたらすぐに返事したほうがいいよ」
「はーい」
私は自分を棚に上げてそう妹に忠告したのだった。反論が来るかと思ったが来ることはなく素直だった。
私は妹を起こすとそのまま一階の居間に向かって階段を下りて行った。その途中で妹の部屋のドアが開いたと思ったらどたばたと音がして私もつられて慌てて階段を下りて居間につく頃には二人とも駆け足になっていた。
「降りてくるときぐらい静かにしなさい」
私たちが居間に入った時には両親はとっくに席についていて、私たちの行動を見て少し怒り気味に母は言葉を発したのだった。
「早くしなさい、冷めちゃうでしょ。おとーさん、わざわざ待ってくれているんだよ」
「えー」
妹が母に何かしら伝えたいらしく、反抗らしいその声をあからさまに上げたのだった。
「わざわざ待たなくても仕事なんだから必要ないよ」
私は妹の反応に対して代弁するかのように母に文句を言ったのだった。
「そうだな」
今まで黙っていた父がおもむろに口を開いた。
「そうでしょ」
私は父の言葉に追従した。
妹はさっさと席に座ってしまったが私は母と父を交互に少しの間、眺めたが母に何か言われる前に先に席に着いたのだった。
父の言葉にはいつも反対しない母なため、今回も特に父の言葉には反対しなかった。
言い争いはそこで終わり、いつもの言葉を一斉に口にした。
「いただきます」
私はいつもの「いただきます」をいうつもりはなかったが、最初、手を合わせるだけのつもりだったがうしろめたさと父が待っていることを思うと勝手に口が滑ってしまい、ついついいつもの言葉を口にしたのだった。
「いただきます」と・・・。
最近、父のほうは今日は手を合わせていて「いただきます」を言っていたが言ったり言わずに手を合わせただけの時もあったり、妹は今日は言わずに手を合わせたままだった。母のほうはいつも言っていて手をきっちりと律儀に合わせていた。
崩れてきている。
そう毎日の観察からそう感じていた。
そうなることが悪いことではないとは思う。むしろ敬虔な信者みたいで嫌気がさしてきていたから私にとってはいい光景であった。
いつからだったか最初はみんな手を合わせて一斉に口にしていたのだったが私は最初からこのようなことは好きではなかった。
父も母も毎日食べられることに感謝する意味で、そのように手を合わせて「いただきます」をいうんだと言っていたが私はそれが当たり前だとは感じながらもどこか親の言っていることは真実だと思っていて、私も食事に感謝してはいた。
今もそうだが昔よりは経済が発展して豊かになり食べ物がない時代ではなくなっているが父と母が若いころにはあっちこっちで戦争をしていて逃げまどっていて食事なんて日に一度、口にできればいいものだと言っていたのを感謝のことばをいわなくなってきている今でも覚えていて、食事は大切にしているつもりだったようだ。
朝食が遅くなるので考えることをやめた。
今日は豪華だ。
長方形のパンを輪切りにしたものに薄切りの肉の燻製と野菜とチーズをパンにはさんで食べるサンドイッチ、卵サンドに牛乳と海藻すーぷに私が用意した胸にきくという豆乳を用意していた。これを飲むと巨乳になるそうだ。なんでもあったほうがいいに決まってる・・そう考えるのが当たり前だろう。
最近欠かさず毎日、豆乳は飲んでいる。妹も私にならい美容によさそうだからと私と競い合うように飲んでいる。そのせいか私は胸が大きくなっていくのを感じていて、妹のほうも見た目、大きくなっているのが分かった。私も妹も胸のふくらみが同年代より大きいようだ。。母もそれなりに大きいと思うが・・。私は標準がわからない。いったいどれくらいが普通なんだろうと考えこんでしまうぐらいみ普通ってどれくらいと思ってしまう。母に聞いてもうん、まあ、そのうちわかるよとかいずれもっと大きくなるでしょうとかしか言わなかった。
このまま飲んでいくとかなりの大きさになることは間違いなさそうだが、まあ実際どこまで大きくなるかははなはだ疑問ではあるが・・。運動をする仕事に就くわけでもないから気にせずどんどん大きくなるならそうしていこうと思っている。母に聞くことによると年が大きくなってから飲んでもあまり効果がないようなことを言いっていた。人から魅力的に思えるならそれに越したことはない。
成長期である今のうちに何とかしていくしかない。母はなかなかのものなのでないよりはあったほうが良い。少なくてもぺったんこよりは受ける印象は変わるに違いない。
サンドイッチというものは食べやすく、いつの間にか食べ終わっているもので、もう私もあと一口になっっていて一番早いのは父だった。
父はこの家族のだれよりも一早く朝食を終えて、さっさと支度をし始めて、すぐにあわただしく玄関から出て行ったのだった。
その姿を見た私は大人にはなりたくないと思うこの頃であった。
母を見るともう終わっており、食器のかたずけに入りたいが妹を待っている感じであった。妹のほうを見るとまだ朝食を食べていて、残りわずかといったところであった。私はこの妹がこの光景を見てどう思っているのだろうと考えてしまうのだった。一人取りの越された気持ちになっているのだろうかと考えてしまう。
今、妹は食べることに集中していて、何も思ってないかもしれないと思い始めてはいた。
いくら姉妹だからと言って、性格や考えや置かれている環境も違うのだから私と同じように考えているわけではないと改め思い直してはいるが・・どうなんだろう?
やはりそれでもどこか自分と似ていると考えてしまうのはなぜだろう・・・?
ようやく妹が食べ終えて、私のほうをちらりと見て、さっさと二階の自分の部屋に行ってしまった。
「もう、あのこったら、誰かさんに似て、片づけていかない。
母はテーブルの上の片づけられないままの皿を見ていった。母の言いたいことはよくわかった。
妹のあの視線は何だったんだろうと考えながら豆乳と牛乳をもう一杯ずつお代わりをした。
それを飲み終えると自分の皿を洗い場まで運んだ。母は後かたずけに入っていて皿を植物繊維のたわしで洗剤をつけて洗っていた。
洗剤はある果実からとれるものを抽出したものを使っているようだった。私も何度も使ったことのあるもので比較的泡の出るものだったと記憶している。これはいったいいつから使われているものだろうとたわしと泡立つ洗剤を交互に見ながらふとした思いに駆られていた。
豆乳などを飲み終えても、私は居間にいて椅子に座り何かするともなしに腰かけていた。
母からのいつもの言葉はなかった。
母が食器の洗いが終わったらしく居間にまで来て、一息終えると椅子に腰を下ろし私のほうを見てきた。
「・・・最近、どうなの?」
構えていた私は少しびくつきながら母の話に耳を傾けた。
「何が?」
「塾」
「まあまあ」
「それならよかった、きちんと学んでらっしゃい」
「へい」
私はややお茶らけていった。
私はこのままとどまるべきかとどまらないべきか迷っていた。
このままいたらまた母に何か言われそうで、あまりいたくはないがなぜか体が休みを欲していて動きたくなかった。
母はだんまりしてテーブルに置かれた、父の読んでいた新聞に目を通し始めた。私はそれを見てほっとしていた。
私は新聞を後回しにして、二階の自分の部屋を目指して、やや忍び足で歩みを進めた。後ろから母の声がかからなかった。
いつもならさぼると飛んでくる手伝いなさいのこえがない。やはり母は新聞に集中しているのだろうと思うが、そうではないという気持ちも捨て去ることができないでいる。そう思うのはただのかんでしかなく、結局わからないためにそのままにして自分の部屋を目指した。
いくら何でも母に今日は何で手伝いなさいといわないのですか?など聞けるはずもなかった。
自分が階段を上がるトタトタという音が耳に入ってくる。
階段を上がり切ると自然と妹の部屋も視界に入ってくる。ドアは閉まっているが・・・。
部屋へ入ろうとすると母が台所で再び食器を洗う音が聞こえてきて、ひょっとしたら母は自分が手伝いなさいといわないことに気付いているのではないかとの疑念が前より少しだけ強くなっていた。
あえて言わないでいる・・そのようにも感じられて・・。
部屋に入ると改めて母が何も言わないことがわからずしばらくベッドに座ったままそれだけを考え込んでいた。
ひょっとすると言うのをあきらめてしまったのかとドキっとしたが、今更、過去のやってしまった手伝わないことは覆すことはできないし、なにより階下に行くのも面倒なので、これ以上は考えないようにと窓際までいき、ガラス張りになった扉を開けて外の空気を大きく吸い込んだ。今までは日差しを管理できるようにしてある木材性の窓だった。ガラス張りはなんて明るいのだろうと、木材でできた開閉式の扉に慣れた私は、少し月日がたった、今でもなお喜んでいる。夜も案外明るいもので、特に月明かりは明るくて新鮮だった。明かりが必要ないってのは階段にしろ、一階にしろ楽なもんだった。手ぶらなのは一番いい。
冬は冬の、その独特なにおいに、その空気の澄んだ冷たい冷気にあてられると、今まで考えや思いが一気にどこかに吹き飛んでしまって、頭が澄んでくるようにスカッとしてくるのだった。
「冬は冬でいいなあ」
窓を開けて窓越しからそう独り言をいう。
ささやくような声だったが案外大きく聞こえたようだった。誰かに聞かれたらどうしようと窓から外の人影を探るが誰もいなくホッとし、あたりはシーンという静寂に包まれていた。
ふっと思い出したようにもう一つある窓も開け放すと冷気が中には入ってきて部屋の片隅まで今まで淀んでいた空気を洗い流しているようだった。しばらくこのままでいよう。
改めて最初の元の窓の位置に戻り、窓から見える空を眺める。やっぱり行かないとダメかな。
今日は今、見ているように快晴で雲一つない天気で申し分なかった。
例え自分だけの決め事だったとしてもいかなければならないことには変わりがなく、後回ししても何れは行くことになることはわかっていたので、行くと心に決めたがどうもなぜか気分は晴れなかった。心配性なのかつい悪い方向へと考えてしまう。
そのように意識してしまうと余計に気が重くなっていき、押しつぶされそうな感覚になる。
しかし空を見上げるとそれが和らぎ、行こうと勇気を与えてくれるのだった。
晴れたら行くんだとわけのわからない意味不明な理由をつけて出かける準備をし始めた。
いつもの出かけるとおりに水を水筒に入れて、それをバッグに入れて財布を入れ、長さが肘くらいまでの木の棒を革製の小道具を入れるようなもので支えてそれを腰からぶら下げた。次に財布をカバンに入れて市役所からの手紙もカバンに入れて、そのほか必要と思われるものをカバンに入れていった。終わりにすべてを肩掛けカバンに入れたかを確認して、自分の部屋のタンスから紺の長めの厚手のコートを着込んで、膝くらいまでの紺色のスカートに履き替えて上はそのまま大きめの丸いネックの紺のセーターを着たままにして居間へと向かう。
向かう途中、斜めバッグはいつもと違う方向からかけてみた。たんに気分の問題で特に意味はなかった。
母に一言、声をかけていこうと居間を覗くと母はテーブル椅子に座り、縫物をしていて、こちらには気づいてはいないようなので声をかけていくべきか行かないべきか少しの間、躊躇してしまっが私は母のほうに近づき、向きなおしてみた。母はこちらには気づいてはいない。
「おかーさん、いってきまーす」
母はこの言葉で私に気づき、顔を向けて聞き返してきた。
「ん、今日はどちらに?」
割と思っていたより早い反応だった。
「散歩と塾かな」
「帰りは何時頃?」
「ちょっとわからない」
「なるべく早く帰ってきてね。お昼は?」
「わからない。遅くなるとはおもうけど・・」
「なら作り置きしとく。夕飯までにはまにあうように」
「それは大丈夫だと思う」
居間から玄関の廊下を歩いていると妹が何をしているのかが気になったが様子を見ようとする気にはならず、心はこれから行こうとしている場所のことを考えていたのだった。
主にそのことで頭はいっぱいだったが妹はいつも何しているのだろう?とやることなどあるものだろうかと頭の片隅では思ってもいた。
それにしても妹と同じ年であった時を思い出しても大したことはしてなかった。毛糸であやとり、人形ごっこをしていたりもしたが面白くなかった。相手に会わして振り回されて、適当なことをやると文句を言われて・・おもそろくないとなっていった。もっと体を動かすような遊びをしてみたかった。
玄関につくと紺色の短めのブーツに履き替えて玄関を後にした。恰好は紺尽くしだ。
一度玄関の扉を閉めた後、すぐに玄関前で持ち物を確認していった。必要なものはすべて入れたことを確認して外に向かい歩き出す。
歩き始めると再び自分が妹ぐらいの年だった時を思い出していた。妹とは一つしか違わないとはいえ塾には通っていなく、まだ手伝いや簡単な仕事もしていなかった。私もこの年でやっといろいろとし始めるようになったんだから・・。
一年前は母の手伝いを時々したり、散歩をしてみたり、友達とてまりや手札、碁石ならべをしていた記憶もあった。巻物の物語を読み進め読み替えっこもしてみたりもしていたっけ?
平がなですべて書かれたその巻物はもうこの時代には古いものらしく、今はきちんと紙を束ねてある本に置き換わってきている。
いろいろと思い出しているうちに足はどんどん前に進んでいく。川の土手沿いを歩きながらあれこれと考えていた。将来はどうしようかとか、結婚相手はどう探すのかとか、母と父はどのように出会い今に至るのか、夕食は何だろうとか考えこんでいた。それは一つの楽しみであり、時折、私は周りを気にすることなくふふと短く笑っていたりもしていた。
歩きながら道を確認していき目印の川岸にある大きな公園を通り過ぎるときに公園内の遠くのほうに年上らしい、前会った、おねーさんと同じくらいの年の女の子が数人いて、その中にはよく見かけるお姉さんと見受けられる人もいて・・。なぜか自分より年上に見える人は少しばかり緊張してくるものだった。
みんな体を見たことのない動作で動かしていた。あの妙な動きは何か決まった動きのように見えてきて、これはきっと何かに載っているものなのか、それともれっきとした剣技の一種なのかと思案してみたがわからず、正式な剣技か何かだと考えて、後で調べてみようと思うとなんだか楽しくなってきて顔が緩み、にやっとなってしまうのを抑えることができずにいたため、公園にいる人たちに悟られないように早々と過ぎ去った。




