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アローンウエディング

作者: 湖瑠木 梛

 コロコロコロ。

 どこからか小石の転がる音がする。折角の結婚式なのに空気を壊された気分だ。

 「新郎郁人、あなたは未美さんを妻とし健やかなる時も………」

 周囲に気を取られていると壊れかけた楽器の音色のような掠れた声が聞こえてくる。機械的に読み上げられる誓いの言葉を聞きながら隣にいる彼女にそっと声をかける。

 「ごめんね、折角の結婚式なのに。誰も呼べなくて」

 僕の言葉を聞いた彼女はこちらを向かず小さく、静かに頷くとめくられていたベールがフワッと舞うとまた彼女の顔を隠してしまった。

 慌てて僕はベールをそっとめくり彼女の顔を覗かせる。高い所の窓から差し込む光に照らされ頭にちょこんと乗ったティアラが光り輝く。一生に一度しかない彼女の晴れ姿を見て僕は「綺麗だよ」と小さく呟く。すると彼女は少しぎこちない笑顔を見せる。

 「命のある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

 変わらない掠れ声に僕は生き生きとした声で力強い声で、

 「誓います!」

 と宣言した。そのまま少しの沈黙があったが、すぐにまた誓いの言葉を読み上げる。

 「新婦未美、あなたは郁人さんを夫とし、健やかなる時も、病める時も、豊かな時も、貧しい時もこれを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い真心を尽くすことを誓いますか?」

 そんな言葉に彼女はさっきまでと変わらずにただ頷くだけだった。

 それからしばらくの沈黙が続く。少し計算を間違えたなと思いながら沈黙が破られるのを待つ。少しすると無機質な声がまた響き、僕を沈黙から救う。

 「それでは誓いのキスを」

 そう言われて僕は勢いよく立ち上がり、彼女の方へ視線を送る。彼女は中々立ち上がらなかった。そんな彼女の体を僕は少し傷ついたガラス細工を持つようにそっと支えながら大切に持ち上げ、僕と向かい合うようにして立ってもらう。もちろん手は握ったままで。

 「やっと、幸せになれるね」

 彼女の顔を真っ直ぐに見つめながら僕は小さく呟く。

 彼女はまたどこかぎこちない笑顔を僕に見せる。

 最後まで彼女は言葉を発することはなかったが僕は十分幸せだった。それはきっと彼女もそうだろう。いくつもの困難に見舞われながらもやっと結ばれたのだから。

 僕がそっと彼女に顔を近づけたその時だった。

 ドンッと大きな音を立てて扉が開かれた。

 「警察だ、殺人の容疑及び死体遺棄の現行犯で逮捕する」

 野次のような声を発しながら警官が複数人会場に押し寄せて来る。

 突然のことに呆気に取られていると一人の警官が僕の元へ駆け寄りそのまま腕を拘束し、体を地面に押し付けられた。何とか逃げようと体を動かすも上手く動けずまるで貼り付けられた人形になってしまったようだった。

 「くそ、離せよ」

 何とか逃げようとするも自由を奪われた僕には何もできなかった。

 そして頭上から警官の重い声が届く。

 「十一時四十九分。高村郁人。殺人容疑及び死体遺棄の現行犯で確保」

 ドラマや映画で聞きなれた台詞が頭上から聞こえてくる。

 まだ指輪も渡せていないのに。何とかしようと考えていると別の警官が彼女の元へ向かって行くのが見えた。

 「やめろ、未美さんに近づくな!」

 僕の叫び声など気にも留めず警官の男は彼女のそばに行き、その姿を確認するなり何やら無線で連絡をとっていた。

 「四葉未美さんの遺体で間違いないと思います」

 そんな声が聞こえた、それと同時に僕を抑えていた警官が僕の体を持ち上げそのまま連れて行こうとする。もちろん抵抗したが、敵うはずもなく僕はただ連れていかれることしかできなかった。

 教会を出るときふと振り返ると彼女が警察に連れていかれようとしているところだった。そんな彼女を見て僕は咄嗟に

 「未美さん! 必ず、必ず迎えに来るからね!」

 精一杯の声で僕は叫ぶと半ば引きずられるようにしてパトカーへと連れていかれた。



『先週、行方不明になっていたアイドルの四葉未美さんの遺体が森の中の廃墟にて見つかりました。警察はその場にいた男を現行犯で逮捕したとのことです。取り調べに対し男は「結婚式をするためにあそこへ行った。彼女も喜んでいた」などと供述しており、警察は精神鑑定を行うとのことです』





 重い扉をゆっくりと開く。

 あの時と何も変わっていないことを確認し安堵する。

 「未美さん。迎えに来たよ」

 そこには輝く彼女の笑顔があった。

 「郁人さん。おかえりなさい」


狂った愛の先に。

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