第六話 魔族薬
春休みが終わり、ルーフェルトが着る制服も出来た。
今日は、初めて魔法剣士学園に登校する日である。
制服に着替えていたところ、「準備できましたか」とリリアの声がした。
「できたよ」
「食事にしましょう」とリリアと一階に移動した。
居間には、皆んながいて挨拶を交わした。
「初めての登校ね。頑張ってね」とリリアの母リリーが言った。
「はい」と返事をルーフェルトはした。
そして、朝食も終わり、屋敷を出たのだった。
歩いて、学園の近くまで来ると「ねぇ、冷酷の女神が男の子と一緒にいる」と珍しそうに見ている人、「おい、リリア様と一緒にいるぞ、悔しい」と羨ましく見ている人など、まわりから注目されていた。
学園に着くとリリアが「講師室は、こっちよ」と一緒に連れて行ってくれた。
「マリー先生、ルーフェルトです」とマリーが座っている席までリリアが連れて行ってくれた。
「君がルーフェルトくん」
「はい」
「私が君の担任になりますので、宜しくね」
「はい、お願いします」
「マリー先生、私は教室に行きますのでお願いします。ルーフェルト、頑張ってね」とリリアは言って講師室を出た。
ルーフェルトは、マリー先生と一緒に教室に向かった。
教室に入ると皆んなからジロジロ見られた。
ルーフェルトがリリアと一緒にいるのが噂になっていたからだ。
「今日から、一緒に学ぶことになったルーフェルトくんです」とマリー先生が紹介した。
「ルーフェルトくん、自己紹介してくれる」
「はい。僕はルーフェルト・エルフドーラです。仲良くしてくれると嬉しいです」と一言だけ話した。
「え、もう終わり」
「はい」
「そう、皆んなも、仲良くしてくださいね。じゃ、あそこの席に座ってくれるかしら」
「はい」と言って席に向かうと何人かの男の子から睨まれた。
そして、席に座ると授業が始まった。今日の授業は、魔法陣の基礎学習だった。
ルーフェルトは、魔法陣での魔法発動はあまり実施していなかったため新鮮だった。
授業が終わるとルーフェルトのところに人が集まってきた。
隣りにいた男の子が「僕は、アナルド、宜しく」
逆側にいた女の子が「私は、ルナよ、宜しくね」と声を掛けてきた。
「ねぇ、なんで、リリア先輩と一緒にいたの」とルナが聞いた。集まってきた子も興味深々だった。
「今、リリアの屋敷で、お世話になっているんだ」
「えぇ―、同じ屋敷に住んでいるの」
「そうだよ」
「いいな、リリア先輩と一緒なんて。リリア先輩は強いし、綺麗だし、優しいから私達の憧れの的なのよ」
「そうなんだ。リリアは慕われているんだ」
「リリアですって、呼び捨てなの。親しいの」
「いつも、一緒にいることが多いな」
「羨ましい。だけど、男の子からは妬まれるわね」
「どうして」
「リリア先輩って、男の子には容赦がないの。冷酷の女神と言われているから、いつも、排除していて近づけない感じなの」
「ははは、冷酷の女神」とルーフェルトは笑った。
「そうよ、だから、ルーフェルトくんだけ近づけるから妬まれるよ。男の子から見ても、リリア先輩は憧れの的だから」
「そうなんだ。僕にはリリアは優しいけどな」
「あ、また、マリー先生がきた。また、あとでね」とルナが言うと皆んな席に戻った。
「今日は、初日なので授業は終わりです。連絡事項はないので、これで解散です」とマリー先生が話した。
そして、挨拶をして終わった。
そして、また、ルーフェルトのところに人が集まってきた。
そのとき、「ルーフェルトぉ」と呼ぶ声が聞こえた。
声をかけてきたのは、リリアだった。
「ちょっと、ごめんね」とルーフェルトはリリアのところに行った。
少し離れた男の子が数人、「なんだ、あいつは」「なんで、リリア先輩が」と妬みの声が聞こえたがルーフェルトは無視した。
「一緒に帰りましょう」とリリアが言ったが、ルーフェルトは、
「用意するから待ってて」と言い、帰り支度をした。
「皆んな、ごめん」と言って、ルーフェルトは教室を出た。
帰る途中、風の声が聞こえた。精霊魔法の伝達だった。
ラフェルからの伝達だった。「ルーフェルト様、魔族化した薬を使った犯人を見つけました」との連絡だった。
ルーフェルトも風の声で伝達した。「この後、あの店で会おう」と伝達した。
「ねぇ、ルーフェルト、このまま真っ直ぐ帰るの。何処か寄ろうよ」とリリアが言った。
「ごめん、ちょっと、寄りたいところがあるんだ」
「何処」
「ちょっと、用事があって」
「じゃ、私も一緒に行く」
「リリアは先に帰っていて」
「もう、何でよ」
「理由は今度、話すよ。埋め合わせするから」
「絶対だよ」
「わかったよ」と言って、ルーフェルトは空へ飛んだ。
少し飛んで、ルーフェルトは店の前に降りた。そこに、ラフェルが壁によっかかって待っていた。
ルーフェルトに気が付いたラフェルは「ルーフェルト様、待っていました」と声をかけた。
「ラフェル、じゃ、行こうか。案内してくれ」と言い、二人は犯人のいるところに向かった。
ここは、犯人のいる屋敷であった。雰囲気が暗い感じの屋敷であった。
「ルーフェルト様、ここです」とラフェルが話した。
「この屋敷にいるのか、ラフェル」
「はい、ここは王族家の屋敷のようです。ここの息子であるゲールという者が犯人らしいです」
「じゃ、早速、行こう」と言って、堂々と屋敷の入口から入って行った。
屋敷の警護をしている剣士が気づいて「なんだ、お前達は」と声を出すと、すぐ、眠って倒れてしまった。
ラフェルが唱え睡眠魔法を使ったのであった。
屋敷の中にいる剣士達も、次から次へと眠って行った。
二人は、ゲールがいる部屋の前に着きドアを開けて中に入った。
二人に気が付くと「何者だ。貴様ら」とゲールが叫んだ。「お前に用がある」とラフェルが言った。
「誰か―」とゲールが叫んだが、誰も来なかった。
「なんで、誰も来ないんだ」とつぶやいた。
「誰も来ないさ」とラフェルが言うとルーフェルトが「魔族化の薬は、お前が作ったのか」と聞いた。
「魔族化、魔族薬のことか、そんなものどうだっていいだろう」とゲールが言った。
「話そうとしないか、仕方がない」とルーフェルトは唱え自白魔法を発動した。
するとゲールは、「ああっ―」と声を出した。目を閉じて座り込んでしまった。
「この前、リリアという女の子が襲われた。お前の仕業か」とルーフェルトが聞きだすとゲールは自白しだした。
「はい、私の求婚を断ったからです。だから、殺してやろうと思いました」
「魔族薬はどうした」
「はい、リリアを殺してやろうと思ったときに知らない男から声をかけられて、魔族薬をくれました」
「男は、魔族薬を山賊に飲ませてリリアを襲えばいいと話し、魔人を一人つけてくれました」とゲールは話し出した。
「その男は、何処に行った」とルーフェルトが再度質問した。
「わからないです。ただ、この国にある最北端のホランという村にいるかもしれません。村人がたくさん、魔族化されたという噂を聞きました」
「そうか、黒幕は別にいるな。ラフェル、この男を国の憲兵隊に突き出してくれ」
「はい、ルーフェルト様」
「ラフェル、あとは、頼む。明日の夜にホランに行ってみよう」と言って、ルーフェルトは、部屋の窓を開けて空へ飛んで行った。
屋敷に帰るとリリアがすぐにルーフェルトの部屋に来た。
「ルーフェルト、何の用事だったの」
「この前の友達と会っていたんだ」
「そうなの。明日は剣術の実技授業があるの。授業は縦割りで行うから、私もルーフェルトと同じ授業に参加できるの。楽しみだわ」
「そうなんだ」
「だから、明日、私とお手合わせしてね」
「了解」
そして、翌日になり学園で剣術の実技授業が始まった。
マリー先生が「今日は、剣術の実技授業です。剣術の向上を目指すため縦割りの授業となります」と話した。
皆んなも、「へー」と声を出すと先輩達が来た。
ルナが「ねぇ、リリア先輩がいるよ」と「おー」と皆んなが声を出した。
「皆んな、聞いて、先輩達とお手合わせをしてもらいます。まずは、好きな先輩と二人で組んでください」とマリー先生が言うと、「リリア先輩は強すぎるから避けよう」と皆んな言った。
そうするとリリアは、ルーフェルトのところに近づいて「私とお手合わせしよ」と言った。
「いいよ。リリア。やろうか」
「負けないわよ。本気でいくからね」と木剣を二人は持った。
リリアは、早速、ルーフェルトに攻撃を仕掛けた。
「ガチ、ガキ」と音が何度も鳴った。
ルーフェルトは、片手でリリアの攻撃を軽く流し、もう片手は腰の後ろにまわしていた。
ルナは、「ねぇ、アナルド、凄いよ、リリア先輩の攻撃を軽く流しているよ。あの速さで」
「あぁ、そうだね。しかも、ルーフェルトは余裕がありそうだ。リリア先輩相手に」と話しながら見ていた。
周りの人達もマリー先生も見入ってしまった。
リリアの連続攻撃を受け流され、少し間が空いた。
そのとき、ルーフェルトは、剣の持ち方を変えたあとリリアの力強い攻撃がきた。
「ガキ」と音が鳴り、リリアの剣を弾き飛ばしてしまった。
「え、」とリリアは声をだしてしまった。
「やっぱり、ルーフェルトには勝てないわね」とリリアはつぶやいた。
「ねぇ、ルーフェルト、さっきは剣が流されたけど、今度は、剣が弾き飛ばされたわ、どうして」
「剣には持ち方、角度があるんだ」
「まず、この角度で剣を受けると相手の剣は流される。この角度で受けると剣は弾き飛ばすんだ」
「あと、このように剣を持つと受けた方の手に衝撃が来るから手が痺れるんだ。このように剣を持つと手の衝撃が抑えられて手が痺れないんだ」とルーフェルトが話した。
ルーフェルトの説明を聞いた皆んなは、ルーフェルトのところへ集まってきた。
「ねぇ、ルーフェルト、私にも教えて」とルナが話した。
「いいよ」とルーフェルトは答えて、説明を始めた。
マリー先生とリリアが少し離れて、様子を見ていた。
「私の出る幕ないわね」とマリー先生が話すと
「そんなことはないですよ」とリリアが話した。
「ルーフェルトくんの剣術は凄いね。リリアさん」
「そうかも、私、一度だけ剣聖カーラの剣術を見たことがあるんです。カーラの剣術は凄かったです。なんとなく、カーラの剣術に似ているんですよ。ルーフェルトの剣術って」
「そうなの。もしかして、剣聖カーラの弟子だったり。なんてね」とマリー先生が冗談を言った。
実技授業も終わり、一日の授業が終わった。帰る時間になり、リリアはルーフェルトのところに来た。
「リリア、用事があるから先に帰っていて」
「またなの、ルーフェルト」
「あとで、事情を話すよ」
「わかりました。もう」とリリアは不満そうだった。
「それじゃ、後で」とルーフェルトはリリアと別れて、校舎の裏に行ったあと、空を飛んだ。
ルーフェルトと別れてから、リリアは一人で学園の校門を出ると一人の男が待っていた。
「リリアさんですか。綺麗な人だ」
「あなたは、どなたですか」
「お父上から聞いていませんか」と男は質問した。
「何も、聞いていませんが」
「私は、リリアさんに求婚を申し込みました王国魔法師長の息子で
ダクトと言います」
「求婚って、私は何も聞いていません。それに、あなたと結婚するつもりは、絶対にありません」
「だけど、お父上と約束しました。リリアさん、私と勝負してください。私が勝ったら結婚を承諾することになっています」
「そんな約束は知りません。だけど私は負けませんけど」
「いいえ、私が勝って結婚して頂きます」
「しつこいです。結婚しません。あなたなんかと。排除しますよ」とリリアは怒りながら叫んだ。
「私が勝ちますよ。たから私と結婚して頂きます。さぁ、勝負です」とダクトが言った。
その頃、ルーフェルトは、しばらく飛んでホランと言う村の手前辺りで降りた。すると、ラフェルが待っていた。
「あ、ルーフェルト様」とラフェルが声をかけてきた。
「ラフェル、村の様子はどうだ」
「村人が殆ど魔族化されている感じでした」
ルーフェルトは、透視魔法を使い村の様子を観察した。
「ひどい、皆んな魔族化されている。村中央の屋敷に魔人らしき者がいる。そこへ行ってみよう」
「はい。ルーフェルト様」とラフェルは言って、二人は空を飛び向かった。
魔人がいる屋敷に降りて、二人が屋敷に入ると魔人がいた。ルーフェルト達に気が付き「おお、もう来たか」と話した。
「あまえか、魔族薬で人を魔族化しているのは」とラフェルが言った。
「ふふふ、私は、魔道薬剤師のガーラだ。単なる薬の実験だよ。ん…、おお、そちらがルーフェルトか」
「何故、僕の名前を知っている。それに薬の実験だと」とルーフェルトが言った。
「我が主、暗黒魔王アルデバロス様からお前のことは聞いている」
「アルデバロスだと、何者だ」
「ふふふ、全ての闇を司る大魔王様だ。お前は、アルデバロス様の宿敵だと聞いている。今日は挨拶だけにしておこう。それでは、また、会おう」と言って、ガーラは消えた。
「消えた。あいつは何者だろう」とラフェルは行った。
「かなり、力を持っていそうだ」とルーフェルトは言った。
「だが、この村をそのままにしておけないと思う。だが、悔しいが魔族薬を使ったのであれば人に戻すことはできないだろう。ラフェル、憲兵隊への通報を頼む」と言って、ルーフェルトは帰った。
このとき、ルーフェルトは思った。「これから、大きな災いが来るかもしれない。なんとかしなければ」と思いながら帰るのであった。