第二話 巨星墜つ、そして旅立ち
ここは、アーカイラ、この世界の東エリアにある森林に囲まれたエール族の村である。
エール族が生息する八十八ある村の中でも、比較に大きい村で人口はニ万人ほどの人々が生活している。
シャーランドが赤子を預かってから、ときに十五年近くの年月が過ぎた。
ルーフェルトがアーカイラに来た日を誕生日とし、あと五日で十五歳になろうとしていた。
そして、ここは村全体を見わたせる崖の岩場であった。
朝日が昇ったころ、ルーフェルトは岩場に座って村を眺めていた。
すると、後ろからシャーランドが歩いて来た。
「どうじゃ、朝の鍛錬は」とシャーランドは声をかけた。
「問題ないよ。爺様」と後ろを向いたまま返事した。
「よいか。ルーフェルト。世界は広い。ここはエール族が生息している東の大地じゃ。この世界には広大な五つの大地がある。この素晴らしい大地をお前には見てほしい」とシャーランドは話した。
「世界かぁ。どんな世界があるのかなぁ」とルーフェルトは答えた。
シャーランドは西の方に指を差し「このエール族の大地から西に向かって行けば世界の中央である大地じゃ」
「そこは、お前と同じ人間族の人々が生息している。だが、エール族の一部の者達は人間族を嫌っているがな」とシャーランドは話した。
「そうか。僕と同じ人間族かぁ。他にはどんな大地があるの爺様」
「中央の大地から北は魔人族や魔族が生息する北の大地、南は海人族や人魚が生息する南の大地、さらに中央から西に行けば獣人族が生息する西の大地じゃ」とシャーランドは話した。
「色々な人種の人々が生きているんだ。僕も世界を見てまわりたいな」
「そうじゃよ、よいか、ルーフェルト、色々な人々がいる。人種に関係なく困っていたら助けるのじゃよ」とシャーランドは話した。
そして、シャーランドは、この場から立ち去ろうとしたとき、よろめき転びそうになった。
ルーフェルトは、「あ、危ない」と声を出し、すかさずシャーランドを支えた。
「爺様、大丈夫か。爺様がよろめくなんて、ほんと珍しいな」とルーフェルトは言った。
「大丈夫じゃ、なんでもない。つまづいただけじゃ。さて、家に戻ろう」とシャーランドは言った。
家に戻って、ここは、シャーランド達の自宅である。
今は、朝食時、「爺様、今日は、自分でパンを焼いてみたんだ。どうかな」とルーフェルトは話した。
シャーランドは、「とても、美味しそうだよ。お前は、起用じゃな」とパンを美味しそうに食べはじめた。
だが、この時、少し元気がないなとルーフェルトは思っていた。
朝食を食べ終えたころ、「ん、なんだ、これは」とルーフェルトは突然、窓を見て叫んだ。窓から見えた空が赤くなっていた。
これは、森の向こうが火事かとルーフェルトは思った。
「爺様、これは火事だ!、ちょっと行ってきます」とルーフェルトはシャーランドに言った。
「わかった。頼むぞ」
ルーフェルトは、すかさず玄関を出て、「精霊よ我に風の力を」とつぶやいた。
これは、魔法を発動し風の力を借りた精霊魔法であった。
ルーフェルトの身体は風に押し上げられ空へ飛んで行った。
しばらく飛んで現場に降りた。辺りを見ると既に火は消されていた。「何かおかしい。火が消されているのが早すぎる」と思った。
「あれ、あそこの木が濡れている。触ってみるとこれは油だ。何故、燃えうつらない。どういうことだ」と思った。
すると、茂みの中から五人ほどの人達が来た。
「ここで、何をしている」と真ん中の男が言った。
ルーフェルトは、「火事だと思って、ここに来たんだけど」と答えた。
男は、「お前、手に着いているのは油ではないか、それに人間が戦争に使う油に相違ないぞ。お前の仕業かぁ」と男は叫んだ。
「僕ではない」とルーフェルトは言い返した。
男は、「この里では人間はお前しかいない。お前の仕業だろう。シャーランド様の孫だからといって図に乗るなよ」と意気込んだ。
ルーフェルトは、「この人達に言っても無駄だな」と思い去ろうした。
男は、「ちょっと、待て」と叫んだところ、男達の後ろから人が来た。
その人は、カーラであった。
「ここで、何をもめている」とカーラが言うと、男は「何でもありません」と言い、気まずそうにしていた。
男は、「くそ、間が悪い。こいつさえいなければ」とつぶやいて去って行った。
カーラは、「これは、ルーフェルト様を落としめるためのものかもしれません」と話した。
「いつもの事さ」とルーフェルトは言うと「おぉい―」とライラの声が聞こえてきた。
ライラが来ると「やっと、見つけた。大変だ」とライラが叫んだ。
「どうかしたのか」とカーラが言うと「シャーランド様が倒れた」とライラが言った。
「なんだって、すぐに帰ろう」とカーラとルーフェルトは言って、急いで帰った。
帰るとシャーランドは、ベッドに寝かせられていた。
ルーフェルトはベッドのそばに行き「爺様」とつぶやき手を握った。
そこには、医術魔法師のエルフィーもいた。
「ルーフェルト様、あのぉ、実はシャーランド様は病にかかっておられました。今まで口止めされていましたのでお話しできませんでした。申し訳ありません」とエルフィーが話した。
「本当ですか。エルフィーさん」とルーフェルトは言った。
「はい、さすがシャーランド様ということでしょう。普通の人でしたらとうの昔に亡くなっています。恐らく、明日か明後日までが限界かと」とエルフィーが話した。
「なんでなんだよ。うぅ…、爺様」とルーフェルトは目に涙を浮かべ悲しんだ。
ニ日後、シャーランドは危篤状態になっていたが一時的に意識が戻った。外には各村の長老達が集まりだした。
シャーランドの側には、ルーフェルトとカーラ、ライラ、そして、シャーランドの側近であったアーナルドがいた。
シャーランドは、「ルーフェルトよ、わしの可愛い孫よ、これから先、色々な事があるじゃろう。この世界に生を受けた理由は必ずある。お前には使命があるはずじゃ」と話した。
「はい、爺様」とルーフェルトは答える。
「カーラとライラ、ルーフェルトの剣技と武術は、どうじゃ」と聞いた。
二人は、「もう、ルーフェルト様に教えることはありません」と答えた。
「そうか、ルーフェルトよ、世界は広い。世界を見るのじゃ。心残りは、お前の成長が見れないことじゃな。よいか、人を助け感謝される人間になるのじゃ」とシャーランドは言うと静かに息を引き取った。
「うぅ...」とルーフェルト達は静かに泣いていた。
外では、皆んながシャーランドを心配して、ひざまづいて手を合わせていた。
アーナルドとカーラが外に出て、皆んなに「今、シャーランド様が天に召された」と話した。皆んなは泣いて悲しんだ。
そこへ、長老の一人であるガーゼルがアーナルドのところに寄って来た。
「三日後、私の里で各村の長老達が集まる。あなた達も参加してほしい。シャーランド様が亡くなったことを公表する」とガーゼルが話した。
二人は、「わかりました」と返事をした。
「明日、シャーランド様を埋葬する。今日は冥福を祈り、解散しよう」とアーナルドが話し、皆んなは祈ってから解散した。
だが、中には、「やっと死んだかとか」、「人間の子なんか育てるからだ」とつぶやく者もいた。
カーラは、「ゲスめ、何も知らないくせに」と思った。
その時、カーラは誓った「私は、今までシャーランド様に仕えて来たのだ。だから、今後はシャーランド様の意志を継ぐルーフェルト様に仕えよう」と思うのであった。
次の日、シャーランドの埋葬が終わった。
部屋の中には、カーラ、ライラ、ルーフェルト、アーナルドがテーブルを囲んで座っていた。
しばらく、無言のときが続いていたがアーナルドが口を開いた。
「二日後に長老達の集まりがあるから明日、ガーゼルのいる村に行く。カーラ、ライラ、一緒に来てほしい」と言った。
二人は、「わかりました」「承知しました」と答えた。
「ルーフェルト様も一緒に来てほしいのですが今は、ここに居てください。私達は明日、朝早く出ます」とアーナルドは言って部屋を出た。
カーラとライラも、「明日の支度があるので、私達も帰ります」と言って部屋を出た。
次の日の朝、三人はアーカイラを出た。
しばらくして、昼を過ぎたころ村の三長老が訪ねて来た。
ルーフェルトは、部屋の中に招き入れ「このソファーにお座りください」と言った。
少し、沈黙した状況だったが長老のモリスが口を開いた。
「ルーフェルト様、今日は、お願いがあって来ました。誠に言いにくいのですが、アーカイラから出て行ってほしいのです」
「あなたの人柄は、とても素晴らしく優しい人だと知っています。私達も、あなたが好きです」
「ですが、我がエール族には、人間を嫌う輩が多くいるのです。せめて、エルミナ様さえ我が東の地にいてくだされば…」と長老は話した。
「何故、エール族は人間族を嫌うのですか。それとエルミナ様って」とルーフェルトは聞いてみた。
「シャーランドから話しは聞いていないのか」
「はい」
「シャーランドは責任を感じていたのだろう。エール族は精霊の末裔というのは知っておろう」
「はい」
「ただ、代々、受け継がれ精霊の末裔と言っても血縁としては人間に近かくなってしまった。だから、精霊魔法も全く使えないエール族もいる」
「だが、人間族の村で精霊と人の子供が生まれたという話を聞いたのじゃ。その子がエルミナ様じゃ」
「シャーランドがエルミナ様を我がエール族に招き入れエール族を一つにまとようとしたのじゃ」と話す。
別の長老が「このエール族も一枚岩ではなく、八十八の村に分かれてしまい。なにをするにも一つにまとまっていないのが現状じゃ」と話した。
モリスは、「そうじゃ、シャーランドは、エール族を一つにまとめるため、このエルミナ様を王女にしてエール族の国を建国しようとしたのだ。そして、エルミナ様の両親と交渉し二十歳になったら東の地にきて頂く約束したのじゃ。それで、エール族の皆んなは喜び期待した」
「だが、エルミナ様は二十歳になる前に消えたのだ。行方がわからなくなってしまった。これも三十五年前の話しじゃ」
「皆は、人間達が邪魔した、エルミナ様を渡さなかったと思い人間族を恨んでいるのじゃ」とモリスは話した。
「そういうことがあったんだ。エルミナ様はどのような人だったんですか」とルーフェルトは聞いた。
「エルミナ様は、とても美しく思いやりのある優しい女性に成長したそうだ。だからシャーランドは招き入れることが出来ず責任を感じていたのだろう」とモリスは話した。
「ルーフェルト様、話しを戻しますが同じ人間族であるルーフェルト様が村にいると争いの種になってしまう。それで、村を出て行ってほしいのじゃ」とモリスは話した。
ルーフェルトは、少し考え「わかりました。明日にでも、村を出たいと思います」と答えた。
長老達は、「おおぉ、感謝します。ありがとうございます。本当に申し訳ない」と言って涙を浮かべながら部屋を出て行った。
夕方になり、ルーフェルトはシャーランドの墓前に正座をしていた。
「爺様、明日で十五年になります。十五年間育てくれて、ありがとう。とても、楽しかったよ。明日の朝早く、ここを出ます。世界を見てこようと思います。天から見守ってくれよ」とつぶやき墓前を離れた。
次の朝になり、荷物をまとめたルーフェルトは思う。
宛てのない旅だ、まずは人間族がいる西に飛んでみようと風の魔法を唱え空の彼方へ飛んで行った。
三日後、カーラが村に戻ってきた。「ルーフェルト様ぁ」とカーラは叫んで探した。
しかし、何処にもいない。気配すら感じない。
おかしいと思ったカーラは、一緒についてきたオルフェに「オルフェ、すぐにルーフェルト様を探すんだ」と指示をした。
「はい。承知しました」と答えこの場を去った。
しばらくすると、オルフェが戻ってきた。このとき、ライラも一緒に伴ってきた。
「大変ですカーラ様、ルーフェルト様が里を出られたそうです。詳しい話しは三長老が知っているとの話しです」とオルフェは話した。
「なに、それは本当か」とカーラは問うとオルフェは、「はい」と答えた。
「ライラ、すぐに三長老のところに行こう」とカーラはライラに声をかけた。
そして、三長老のもとについたカーラ、ライラ、オルフェは、三長老に話しを聞いた。
カーラは、怒鳴ろうとしたがライラが手で止めた。
ライラは「なんていうことをしたのだ。あなた方は、なにも分かっていない。使命も、これからのことも、一切喝采わかっていない」と三長老に言った。
カーラは、オルフェに「風の痕跡魔法を使って、足取りを掴めないか」と話した。
「さっき、ルーフェルト様の家でやってみました。全く、掴めなかった。おそらく、空へ飛んだのでしょう」
「オルフェ、今、おまえ達、風の聖剣士は村に何人いる」と訪ねた。
「はい、十二剣士のうち私を含め七名が滞在しております」と答えた。
「わかった。残っている聖剣士を率いて、ルーフェルト様を探すのだ。よいな」と命令をした。「かしこまりました」とオルフェは答えて消え去った。
「ライラ、あと近くにいる聖剣士は誰が滞在しているのだろう」とカーラは聞いた。
「おそらく、ファンダム率いる火の聖剣士が隣りの村にいるはずです。十二剣士全員揃っていないと思うが何名かは滞在していると思う」
「ライラ、ファンダム達にも動いてもらおう」
「承知した。隣りの村に行ってきます」とライラは答えこの場を去った。
このときカーラは思う、「あぁ、ルーフェルト様、必ずや探します。私とライラ、そして聖剣士達はルーフェルト様に絶対の忠誠を誓います。そして、シャーランド様が成しえなかったエール族を一つにまとめ、エール族の国をルーフェルト様に建国していただきたいのです」とつぶやかくのであった。