当事者による腐敗予想図
「別れて欲しいの……」
夏休み開け始業式の次の日、その放課後に恋人である古田智恵に公園へ呼び出され、いきなり別れを告げられた。
夏休みの後半はまったく会えていなかったので、てっきり次のデートの予定を相談するものだと思い喜び勇んで来た俺には完全な不意打ちであった。
鏡を見なくとも、相当な間抜けな顔をしているのがわかる。驚きに開いた口を閉じられないほどに、全身に力が入らないのだ。
「……ごめんね。別れて欲しいの」
「智恵」
「……好きな人が出来たの」
べそべそと泣きながら別れの言葉を繰り返す智恵。泣きたいのは俺ですが……。
クラスで席が前後になって、よく話すようになって、好きになったから付き合って下さいって告白されて始まった関係だったよねぇ。でも、まぁ。
「……いいよ。別れる」
「……いいの?」
「あぁ。帰る、じゃあな」
別に泣き顔が見たくて付き合ってるわけじゃない。でも、今、泣かせている。他の男に魅力で負けた、それだけの話だしここで粘るのはなんだかダサいと思う。さっさと帰ろう。
なんだかまっすぐ自宅に帰る気がせず、道中にあった高架の建設予定地に立ち寄る。いまは、まだ盛り土があるだけで、柵が無く出入りは自由に出来る。
その盛り土の上に制服が汚れるのも構わず座り込み、でっかい夕陽が沈んでいくのをぼうっと眺める。
夕陽が沈みきり空が青に支配された頃、ぐぅっと腹の虫が鳴いた。
「はっ、フラれてへこんでても、ハラは減んのね」
自嘲まじりにつぶやく。
「どうでも良くなってきた……帰ってメシメシ」
翌日、放課後。
「井上、一緒に帰ろーぜー」
「え? 偽木くん、彼女と帰るんじゃ?」
「昨日、フラれたー。つーか、捨てられたー」
「……まじか」
智恵と付き合う前は、気の合う友人『井上光一』と毎日帰っていた。二人とも帰宅部で自宅の方角が同じなので、つるんで買い食いしたり寄り道するのが日課みたいなものだった。また再開しようじゃないか。
「女の子紹介しようか?」
「しばらく、女はいらないわ……」
「へこんでるねー」
井上は小動物系のイケメンでモテる。単純に女友達も多いので頼めば本当に紹介してくれるのだろうが、フラれて次の日にそんな気分になるわけない。
「そうだ! 偽木くん、もんじゃ行こう。奢るよ?」
「……そういう所がモテるのかねぇ……」
「ん?」
「なんも。ゴチになりますっ!」
「行こう行こう、早く行こう」
井上に肩を捕まれぐいぐい引っ張られ、学校をあとにした。
「……見まして? 田渕女史?」
「ばっちり見ましたわ! 富澤女史!」
「暑いのにがっちり肩をつかんで!」
「くそ暑いのに男同士でくっつくなんて、そういう関係じゃなきゃ、ありえませんわ!」
「と、尊い……おっと鼻血が……」
あわててティッシュを鼻に詰める富澤女史。
「わたくし偽木くんの声も少しだけ聞こえましたわ」
「なんて?」
「『女はいらない』と……」
「つまり、男ならよいのね!」
「……前々からあった偽木くんの疑惑。真実でしたのね! ついに井上くんとよりを戻したのですわっ!」
「「井上×偽木。尊いっ!」」
「わたくし、バレー部の先輩方に広めてまいりますわ!」
「わたくしもこれから図書委員会の集まりが!」
こうして偽木は本人の預かり知らぬ所で、腐女子に話題を提供してしまい、腐女子が腐女子を呼び、噂の拡散により感染者を増やしたのである。
最終的に大半の女子生徒に『生徒会長の名前は憶えて無いが、偽木くん(先輩)は知っている』と言われるほどになる。
知らぬは本人達ばかりなり。
ここの偽木くんは一年生。
「全員、腐ってやがるっ!」
三年生になった偽木くんが読めます。
セットでお楽しみください。




