1.仲間と共に。
ひとまず数日の間、生活するには困らないだけは稼げた。
なにやらギルド職員がざわついていたけれど、気のせいだと思うことにする。ボクは気が引けるものの、情報収集のために酒場へと向かった。
聞くところによると、冒険者の社交場――のようなものらしい。
ダンジョン帰りの彼らはみな、酒場へと赴き情報交換をするとのこと。ボクは新人なので、情報というよりは仲間集めだけど。
「ん、意外と飲めるな……」
カウンター席に腰掛けて、安物のエールを喉に流し込む。
そして、ボンヤリと周囲に目をやった。
「しかし、ずいぶんと雑然としてるんだなぁ」
そこに広がっていたのは、貴族の世界ではあり得ない光景だ。
ある意味で生活感あふれる、というやつなのだろうか。赤ら顔の冒険者たちは互いに大声で笑い合いながら、マナーなどない、といった感じに食事をしていた。
ボクは遠巻きにそれを眺めつつ、もう一口酒を飲もうとした。
その時だ。
「もし、そこの兄さん?」
「え、ボク……?」
「そうそう。黒髪に、特徴のない顔立ちをした貴方だよ」
声をかけてくる、フード姿の人物があったのは。
その人は隣の席に腰掛けると、ゆっくりと被っているものを外した。
「こういう場所は不慣れでね。ご一緒しても、いいかな?」
すると現れたのは、中性的で綺麗な顔立ち。
水色の髪に蒼色の瞳。長い耳が特徴的なところから、相手がエルフだということはすぐに分かった。
そんな美人さんは、こちらの答えを聞く前に注文を済ませる。
別に構わないけど……。
「私の名前はアルテミス。兄さんの名前は?」
「ボク? ボクは、クラウド」
「へぇ、クラウドか……」
軽く言葉を交わすと、相手――アルテミスは何度か頷いた。
そして店員から飲み物を受け取ると、こちらにそれを差し出してくる。どうやら乾杯をしよう、ということらしい。
ボクはジョッキを手にして、それに応えた。
「ところで、アルテミスは一人なの?」
そして、飲み物に口をつけた相手にそう訊ねる。
するとアルテミスは、小さく頷いた。
「あぁ、そうなんだ。ちょうど王都にきたばかりでね」
短くも、しっかりとした受け答え。
納得していると、アルテミスは不意にこう言った。
「仲間を探しているんだ」――と。
それを聞いて、ボクは手を止める。
どうやらこちらに声をかけた理由は、それもあるようだった。その証拠にアルテミスは、綺麗なその顔に静かな笑みを浮かべてこう口にする。
「クラウド、私に興味はないかな?」
◆
――翌日。
「仲間ができて、心から嬉しいよ。ありがとう」
「いやいや、お互い様だって」
ボクたちは二人でダンジョンに潜っていた。
話を聞くに、アルテミスは水属性専門の魔法使い、とのこと。加えてその自信は凄まじいもので、ボクに実力を証明しよう、と言うのだった。
「さて、出てきたね」
そんなわけで、しばし進むとお誂え向きの魔物が現れる。
「大丈夫なのかな、アークドラゴン、って……」
それは昨日のレッドドラゴンの上位種。
ドラゴン系統の魔物の中でも、かなり強力な存在だった。
これほどの相手になると、ボクの魔法による弱体化は不可能に近い。せめて対等な戦いに持ち込めるか、否か――というところだろう。
それなのに、アルテミスは自信満々で。
アークドラゴンに向かって、魔法を放った!
「激流よ――すべてを洗い流せ【レイジングストリーム】!」
瞬間――アークドラゴンよりも大きな水流が出現した。
その名に相応しい水属性魔法は、あっという間にドラゴンの巨躯を呑み込んでいく。そして、それが収まった時には大きな魔素の結晶が転がっていた。
圧巻だった。
「すごい、な……」
ボクの使う魔法なんかとは、ケタ違いの威力。
ため息が漏れた。
「ふふふ、どうだい? クラウド兄さん」
「すごい! アルテミスは、王宮魔導師とも比較できない!」
そして、自然と賛辞の声が出てきた。
アルテミスも満更ではないらしく、少しだけ相好を崩す。
「あぁ、そうだとも。私はこれでも――なっ!?」
だが、その時だった。
「危ない、クラウド!」
「え……!?」
アルテミスが、そう言ってボクのことを突き飛ばしたのは。
直後、相手のことを呑み込んだのは――。
「キングスライム……!」
水属性の魔法使いにとって、天敵である存在だった。