プロローグ 王宮魔導師、クビとなる。
この世界の魔法には、各々に属性がある。
ボクが使うのは、古来より受け継がれてきた【雲属性】魔法。それを極め、ついには王宮に仕える魔導師になれた。
これからは、この力を王国発展のために使っていくのだ。
そう、思っていた。
◆
「――クラウド・ニーベリウス。お前は、今日付けでクビだ!」
「え、そんな……!?」
この時、までは。
ボクは王宮魔導師としての上官――ダニエルに呼び出され、そう宣告を受けた。着任してから間もなく一年、という頃合いのことだった。
あまりの出来事に、絶句する。
「そんな、どうして……!?」
だからボクは、とっさに言葉が出てこない。
そんなこちらに向かって、ダニエルは冷笑を浮かべながらこう言った。
「時代遅れなんだよ、お前の使っている雲属性魔法は」――と。
時代遅れ、だから不要だと。
たしかに雲属性魔法を使う者は、ボク以外にいない。
それを受け継いだ唯一の家系として爵位を与えられているが、昔から後ろ指をさされてきた。役立たずの、穀潰しの魔法家系だ、と。
それでも、学園を卒業してここに着任できた。
やっと認められた。
そう、思っていたのに……。
「曲がりなりにも爵位があるから、贔屓で仕事にありつけただろうがな。そこから先、お前に道をやるわけにはいかないんだよ」
「そ、そんな……!」
「そういうわけだ。不要な存在は、すぐに消えてくれ」
容赦のない、攻撃的な言葉。
ボクはうな垂れるしかなかった。
クラウド・ニーベリウス。
爵位は男爵――しかしその日、居場所を失ったのだった。
◆
「どうすれば、良いんだろう……」
街を歩きながら、ボクは途方に暮れていた。
王宮魔導師をクビになって、職を失ってしまった。
いや、それだけではない。王宮魔導師でなくなるということは、爵位の存続すら危うい、ということにもなるのだ。
男爵は下級の爵位であるため、入れ替わりが激しい。
きっと、遠くない未来。
細く長く続いたニーベリウス家は、取り潰しになるだろう。
「そうなると、生活ができなくなるんだよなぁ……」
没落、というほど高みにいたわけでもないけど。
今後の生活を考えると、どうにかして日銭を稼がなければならなかった。
「でも、王宮をクビになった――なんて」
不名誉な烙印が、再就職の邪魔になる。
将来が約束された場所を追い出されたのだ。ボク自身が使い物にならない、という証明以外の何物でもなかった。
「だとすると、王都を離れるしかないのかな……」
ぐったりと、うな垂れる。
ここまできたら辺境の村で、細々と自給自足するしかないのかもしれない。
肩書きに左右されない場所ならきっと、再出発するに問題はないように思われた。そう、誰もボクの過去を気にしないような、そんな場所なら――。
「ん、それなら……」
そこまで考えて、ふと思い当たる場所があった。
それは――。
「冒険者、ギルド……!」
自由を生業とする人々の集う場所。
そこでなら、もしかするかもしれなかった。
「貴族の誇りなんて、元からないし……」
ボクはそう口にしてから。
ほぼ迷うことなく、ギルドへと向かうのだった。
◆
――そんなわけで、早速ダンジョンである。
名前だけでギルドカードを発行して。
ボクはひとまず、王都の外れにあるダンジョンに潜った。
「さて、それじゃ――」
そして、現れた魔物。
学園時代に知識だけ得ていたそれ――レッドドラゴンに向かって、雲属性魔法を応用した攻撃を放った。
炎属性であるドラゴンの弱点は、ズバリ水属性。
「集え、すべての命の源よ!」
大気中の水分を集結させることによって、相手は一気に弱体化した……!
「よし、これなら……!」
そこまでいけば、あとはトドメを刺すだけ。
ボクは学園以来握っていなかった剣を引き抜いて、思い切りドラゴンを斬り付けた。断末魔を上げ、魔物は魔素へと還っていく。
地味な戦いだけど、自分にできることでドラゴンを倒せるのは分かった。
あとは、この魔素の結晶がどれだけの金になるかだけ。
「ひとまず、生活はできそうかな……?」
とりあえず、あと四体のドラゴンを倒して。
ボクはダンジョンを後にした。でも、気付かなかった。
「へぇ、面白い魔法使う奴がいるじゃないか」
地味な戦いを繰り広げたボク。
そんなボクに、興味を持った人物がいたことに……。
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