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第十二章その4 勝負師天花

「よし、これで3連続成功!」


 俺はまたしても青のパックを盤上隅のポケットに落とした。


「大八木先生、なんだか覚醒したみたいですね」


 あんなにド下手だった俺の変貌に、菫坂先生も驚いて目を丸める。その理由がわかっている美里ちゃんはそっと目を逸らしていた。


「コツをつかんだ感じです」


 俺はえへへと笑って取り繕う。しかし実際のところは取り憑いた天花ちゃんの思考がずっとダイレクトに頭の中で反芻されているので、学生時代の筆記テストみたいに頭がオーバーヒートしてしまいそうだった。


 次はあそこの壁に当てて跳ね返らせれば、入れにくいあのパックもポケットに落とせるよ。


 ボードを取り囲む高さ1センチほどの壁。その一点に狙いを定め、(天花ちゃんに操られた)俺は指先で手玉ストライカーを弾いた。


 手玉ストライカーは壁にぶつかると、入射角と同じ反射角で跳ね返る。そして狙い通り青色のパックに直撃すると、弾性衝突を起こした手玉ストライカーはその場でピタリと静止、逆に運動量がそのまま伝わったパックはまっすぐにポケットへと吸い込まれてしまった。


「すごい、ファインプレー!」


 俺自身も驚くような完璧な軌道に、菫坂先生が小さく拍手する。しかし一気に追いつかれているとはいえ、まだまだ余裕がある風に映った。


 一方、タネも仕掛けもお見通しの美里ちゃんは顔を逸らしながら笑いを堪えていた。


(どんなもんよ!)


 天花ちゃんの心の声がダイレクトに届く。


 結局この場では最終的に5連続でポケットに青のパックを落として、俺は攻撃を終えた。さて、ここからは失敗するまで攻撃が先生に移る。


 大量得点とはいえ残るパックは青6、赤4で俺の方が不利であることに変わりはない。もしこのまま先生が連続で赤を落とし続けたら、こちらには反撃の機会が回ってこないままゲームが終了する。


「じゃあ私も、負けないように頑張らなくちゃ」


 先生は白魚のような細い指先で、丁寧に打ち出した。


 まずはひとつ、落とせるパックを確実にポケットに落とす。これで残るは3つだ。


 次の試技も見事赤のパックに命中する。しかし弾かれたパックはポケットに到達する前に止まってしまった。


 パックを落とせなかったことで今度は攻撃が俺に移る。瞬間、俺の中の天花ちゃんは強く意気込んだ。


(よっしゃあ、奥歯ガタガタ言わせたる!)


 天花ちゃん、そんな言葉使いだめだよ。俺の思考が届いているかは分からないが、そう念じて諫めておく。


「じゃあ次は、どうしましょうかねぇ」


 そうやって悩むフリしたところで、天花ちゃんに支配された俺の手は勝手に動いてくれるんですけどね。


 どのように攻めるか。歴戦の猛者である天花ちゃんの思考が一気に流れ込む。


「……え?」


 ちょっと天花ちゃん、それはだめだよ、いくら先生でも初心者なんだから。


 そう思ったところで止められる天花ちゃんではない。俺の右手は狙いを定め、手玉ストライカーをまっすぐに打ち出した。


「ああ!」


 なんということだろう、手玉ストライカーは次で確実にポケットに落とせる位置にあった赤、つまり菫坂先生が落とすべきパックにぶつかったのだ。そして弾き出された赤のパックは盤上を滑り、別に置かれていた青のパックにぶつかると、そのままポケットへと押し込んだのだった。


 この一打で順当にいけば菫坂先生が確実に落としていたであろうパックをより難度の高い位置へと動かし、さらに自分のパックをひとつ落としたのだ。得点と相手への妨害を同時にやってのける、高度なプレーだった。


 菫坂先生も美里ちゃんも盤上を眺めて茫然としている。残るパックの数からはまだ菫坂先生の方が有利だが、ゲームの流れは完全に俺、いや天花ちゃんの方に傾いたと言える。


 天花ちゃん、性格悪いなぁ。


(カロムに手加減は無用。あるのは勝利か敗北のみ、どんな手を使ってでも勝てば官軍)


 すぐに彼女の思考が流れ込む。俺の考えたことはどうやら幽霊には筒抜けのようだ。


 しかしなんと容赦のないセリフ、完全に漫画の悪役みたいになってるな。この子、絶対生きてた頃はカロムで友達泣かせてたわ。

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