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第九章その5 早く結婚しろオーラ

「お、お見合い!? 俺がですか!?」


 俺は声を裏返して動揺する。しかし室田さんは平然としたまま「はい」と頷き返した。


「安井さんご存知ですよね? あそこの旦那さんが大八木さんのことを気に入って、娘を嫁にどうかって」


 安井さんって、グエンさんの雇用主のあの人か。2週間ちょっと前に初めて会ったばかりなのに、まさかそんなチェックされていたなんて。


「ほら、これが娘さん」


 室田さんは持ってきた写真の台紙を見せる。


 振袖姿でにこりと笑う女性。目がくりっと可愛らしい人だ。


「今25歳で大津で幼稚園の先生をしてるそうです。大八木さんもいい歳ですし、悪い話ではないと思いますがねぇ」


 たしかに俺ももう30歳、現実的に結婚を考える年齢だとはあるけれども……。


「ですがいきなりそんなこと言われましても」


「まあすぐに返事は難しいでしょうし、しばらくお待ちしますよ。それじゃ」


 そう言い残して室田さんはお茶を飲み干すと、さっさと帰っていった。娘さんの写真を残して。




「うーん、どうしよう」


 居間に座り込んだ俺は渡された写真を前に悶々と腕を組む。


 これまで結婚なんて微塵も考えたことなかったな。ましてお見合いなんて。


 田舎では今でも結婚が早いと聞いていたが、俺にもその波がかかってくるとは予想外だった。地縁血縁を大切にする田舎では、若い者同士くっつけようとする年長者が多く、若者側もそのプレッシャーを感じながら生きているのだろう。結婚適齢期の男女がいたら、こういった話が自然と湧き上がるのも無理はない。


 とはいえいつか結婚はしてみたいなとの願望も無いわけではないし、これは好機ととらえるべきか。いや、まだ早すぎるか。


「天花ちゃん、どうしよう?」


 台所で洗い物をしていた天花ちゃんに声をかける。振り返った天花ちゃんはさっとタブレットを手に取ると、すぐに打ち込んだ。


(いいんじゃない?)


「え、いいの?」


 あっさりとした返事に思わず拍子抜けする。もし俺が結婚となったら今までどおりの生活はいかなくなるし、幽霊の自分をどう思ってくれるか心配にはならないのだろうか?


(このまま独身だとずっと女日照りよ)


 彼女の生きていた時代は、恋愛結婚よりもお見合い結婚の方が多数だったのかもしれない。しかし天花ちゃんの打ち込む言葉には、いつもよりどことなくトゲがあり、朗らかな目つきもなりを潜めていた。


「だけど結婚とかろくに準備していないから不安だよ」


 俺は写真を広げてぼそぼそと答える。今のご時世ここまできちんと準備してくれている相手だ、きっと真剣に結婚を望んでいる。そんな熱心な女性に覚悟も仕事も半端物の俺が出会って、失礼にならないだろうか。


 だがそんな俺の態度が気に入らなかったのだろう、天花ちゃんは口をへの字に曲げるとまたしてもタブレットに文字を打ち込んだ。


(イヤならきっぱり断ればいいじゃない)


「でもそれは相手に悪いし」


 決心がつかない以上煮え切らない返事するしかできないよ。俺がいやいやと手を突き出すと、天花ちゃんは睨みつけるようにタブレットを凝視し、またしても文字をタップする。


(意気地なし)


 さすがにこれはカチンときた。


「おいおい、こっちは人生を左右する決断なんだぞ。意気地なしはひどくないか?」


 俺は久々に語気を強めた。だが天花ちゃんも負けてはいない。


(男なら男らしくさっさと決めなさいよ! こんなチャンス滅多にめぐってこないよ!)


 くそ、まるで俺を非モテ野郎みたいに言いやがって。自覚があるだけに余計に腹立つ。


「分かったよ、受けて立ったるわい!」


 頭に血が上り正常な判断を失っていた俺は、立ち上がって怒鳴り散らした。


 口喧嘩に負けてしまったようで悔しいが……考えてみれば相手は年齢も条件も良いし、断るだけの理由もない。そもそもここまで言われて黙っていられるかってんだ。


 こうなったら絶対にお見合い成功させて、そのままゴールインしてやる!

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