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第九章その1 幽霊にネットを教えた結果wwwwwww

 かつて原野を走り回っていた俺たちの祖先は、道具を使うことで自身の出せる以上の力を発揮できることを知った。


 やがて人類は火を使いこなし、文明を築き、そして……インターネットを開発した。


 それほどまでにネットは我々の生活を一変させた大発明と言ってもよいだろう。21世紀の日本で、ネットの無い生活は考えられない。特に仕事柄画像データのやりとりをする俺にとっては。


「おはよー」


 朝、重い瞼をこすりながら仕事部屋の襖を開ける。そこには掃出し窓から朝日が差し込む中、パソコンの前に座り込む天花ちゃんの姿があった。


 まさかずっとやっていたのか?


 肌寒ささえ覚える俺のことなどまるでおかまいなしに、天花ちゃんはマウスをクリックして次から次へとリンク先を開いていた。今見ているのはガーデニングのブログだ。


 頭の柔らかい高校生で幽霊になったためか、天花ちゃんの吸収力はすさまじいものだった。あっという間にキーボードの打ち方や基本的な操作を覚え、使いこなしてしまった。


「ネットもいいけど、ほどほどにね」


 心配する俺をよそに、天花ちゃんが新しく開いたのは某大手掲示板だった。そのスレッドを閲覧しながら新たにカタカタと打ち込む。


 >>224草不可避


 いつの間にかネットスラングまで使いこなしている。恐ろしい子よ。


 疲れ知らずで一晩中掃除をしてくれる天花ちゃんだ、そのエネルギーがネットに向くとどうなるか。答えはこの通り。


 ネットを覚えた人間が堕落するのはデフォルトなのか? その内ネトゲにまで手を染めるかもしれない。


「変なサイトは見ないでよ」


 スパムメールとか来たら面倒だしな。そういえば専門学校の頃、学校のパソコンでエロサイト見て、トップ画面から架空請求のメッセージ消えなくしやがった友人がいたなぁ。


 不安しか感じない。とはいえ天花ちゃんもネットをしたいところだろうし、スマホ……いや、通話はできないからタブレット端末でも買ってあげようか?


 朝ごはんの後、天花ちゃんにパソコンの前からどいてもらい、代わりに俺が座る。今日は大手週刊少年漫画誌原作のラブコメ学園アニメのエンドカードの依頼だ。


 いつ頃からだろう、アニメのエンドカードにイラストレーターの絵を表示するようになったのは。


 依頼の内容は物語がひとつ落ち着く第3話のエンドだ。原作の時点で一番人気のキャラをメインに据えるとのことなので、かけられている期待の大きさは何も言われずとも伝わる。


 無言のまま、時間を忘れて作業に没頭する。時計の針が何周回っただろう、さすがに背中が痛くなってきたので一度席から離れて大きく伸びをしていると、天花ちゃんが襖をがらっと開けた。


(トウガン、料理するよ)


 そしてメモを見せる。


 昨日もらった未知の食材か。初めて見るし、どう調理するのか興味ある。


「うん、すぐ行くよ」


 俺は作成中の画像を保存し、部屋を出た。


 台所の流し台の前に天花ちゃんと並んで立つ。まずはトウガンの下ごしらえだ。


 スイカのように固いトウガンに、天花ちゃんは大きめの包丁を入れる。その断面はメロンに似ていて、ぎゅっと詰まった果肉の中心部分にワタに覆われた種が集まっていた。


「何作るの?」


(冬瓜汁よ)


 天花ちゃんは初めてとは思えない手つきでトウガンを皮、種、果肉と切り分け、皮と種を捨てる。そして角切りした果肉を沸騰したお湯に塩少々といっしょに放り込み、5分ほど茹でた。


 さっとお湯から上げたトウガンは、より身がしまって瑞々しく思えた。


(トウガンはそのままでも使えるけど、一度茹でると味がしみ込みやすくなるよ)


 ここからは天花ちゃんの得意分野だった。昆布で出汁を取り、油揚げといっしょに茹で、途中で醤油と塩を加える。最後に沸騰したら水溶き片栗粉を加え、完成だ。


 炊いておいた白米とささっと作った出汁巻卵をいっしょに食卓に並べて、簡単なお昼ご飯ができた。


 黄金色の汁に浮かぶ果肉と油揚げは、見る者の食欲をそそる。汁と言っても片栗粉のおかげでとろみがついているので、感覚はみそ汁の代わりよりも中華スープに近いか。


「いただきまーす」


 箸で果肉を持ち上げると、とろみのある汁がゆっくりと滴り落ちる。そして口に入れると、あつあつのトウガンがまるで溶けるようにじわっと崩れた。トウガンの果肉が崩れるギリギリの塩梅で煮込んでいるようで、見た目とは裏腹にやわらかい食感だ。


 材料はトウガンに油揚げと素朴なものしか使っていないのに、昆布の出汁もしっかりと出ている。いわゆる京都風の優しい味付けだ。


「トウガン美味しいね」


(これ、冷やしたらもっと美味しいのよ)


 得意げにメモを見せる天花ちゃん。鍋全部食べてしまいたいところだが、残る楽しみは夕飯に残しておこう。


 昼ごはんの後も、俺は仕事を続けていた。


 一方の天花ちゃんは食器洗いを終え、庭の花壇にペチュニアの株を植え付けていた。この株は久野瀬さんの奥さんが自宅の庭で育てていたもので、今がちょうど開花期だからと持ってきたのだ。


 昨夜、ネットでペチュニアの植え替えについても調べていたそうだ。生前から庭いじりはお手の物だったのだろう、コスモスの種をまいた位置の近くの土を掘り返し、てきぱきと株を植え付ける。


 虫嫌いであることを除けば庭いじりの好きな天花ちゃんだ。俺の仕事がある時は家のことだけにエネルギーは注げないし、彼女にとっても生き甲斐(幽霊甲斐?)にもなるしで、庭のことは天花ちゃんに任せようと思う。


 こうやって生活のことを彼女に任せたのは仕事にとってもプラスにはたらいたようだ。その日、俺はエンドカード用のイラストを予定よりも早く完成させた。




 トウガンは冷えると清涼感があって美味しい!


 肩がバキバキに凝っていた俺は、夕飯を食べて一日の疲れから癒される。天花ちゃんもテレビのニュースを見ながらご飯をつついていたが、某IT企業が新型のスマートフォンを開発したという話題に移るとより一層画面を食い入るように見つめていた。


 やはり彼女もこういうのに興味があるようだ。


「天花ちゃんもネットが使えるように、タブレット端末欲しくない?」


 トウガンを呑み込んだ俺が切り出すと、天花ちゃんは驚きながらも目を輝かせた。


 こちらとしても仕事用のパソコンを使われるのは困るし、天花ちゃんも自分用の端末があった方がより気兼ねなく使えるだろう。


(ほしい!)


 書きなぐったような即答だった。


 よし、決まりだな。


「じゃあ明日、契約に行こう。すぐに用意してもらえるはずだよ」


 天花ちゃんの表情がぱあっと明るくなる。すぐに彼女はメモにペンを走らせ、喜びを表現した。


(\(^O^)/)


「顔文字で答えなくていいから!」


 覚えたばかりの言葉って使いたくなるものよね。

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